第13話強い私でありたい
盛り上がってるな……。
颯爽と村を駆け抜け、到着した学院はいつも以上の熱気に包まれていた。
今日は学院内が一般開放されている。色とりどりの出店や、行き交う見慣れない私服姿の客たちで、いつもは女生徒しか居ない敷地内がすっかりお祭り騒ぎだ。
遠くを見やれば、うちのクラスの若い担任と主任だろうか、年配の女性教諭の姿がある。そしてその隣にはひと際目を引く、見慣れた鮮やかな赤髪。ディヴィだ。
「きたわねっ! 私たちはこれから要人の案内よ!」
姿を見つけるなり、ディヴィがこちらへ声を弾ませて駆け寄ってきた。
「さぁっ! いくわよっ!」
「おい、ちょっと待てって――!」
まだ鞄を持ったままの俺の腕を強引に引っ張り、ディヴィが駆け出す。有無を言わさぬ勢いに、俺も苦笑しながら彼女の後を追走するしかなかった。
(――そういや、あの太ったじじいのウサも来ているはずだ。一応、怪しまれないよう後で変装しとくか)
校内戦の本番は13時。この賑やかさだ、本番まではあっという間に時間が過ぎるだろう。
◇アストレイア女学院内
熱気に満ちた一般客の雑踏に紛れ、地味な格好をして場に溶け込んでいる一人の男がいた。
「これだけ人がいるなら、動きやすいですね……」
ボサボサとしたグレーのくせっ毛に、丸いサングラス。お世辞にも爽やかとは言えないが、どこか探偵や刑事を思わせる独特の風貌をした男――ドイル。
見た目は20歳そこそこだが、実際の年齢よりもどこか若く、悪く言えば子供っぽく見える。
そもそも、彼がこの村にやってきたのは「美女が多いから」という、極めて不純な理由だった。しかし、自由気ままに生活していたら、どういうわけか恐ろしい『アイス家』に目をつけられ、あわやというところをアーサーさんに命を救われたのだ。
まぁ、自分がアイス家から受けた仕事をしくじったせいなのだが、それはそれとして。
少しでも謎に包まれた不老薬『アイス』についての情報を集めるためにここまで潜り込んだドイルだったが、彼の本質は変わらない。
(今度こそ上手いこと情報を掴んで、この泥沼から逃げ切って豪遊してやる……!)
そんな、俗人代表を自負するような企みを胸の内で膨らませていた。
さて、さすがに裏方に直接忍び込むわけにはいかない。となれば、油断していそうな生徒を捕まえて情報提供を求めるのが定石だろう。
ドイルが周囲を見渡すと、あまりにも個性が強すぎる女学生たちが目に入った。
「 あちらのステージは収容人数が足りていないので、よろしければ案内しますわ!」
――あそこにいるのは、いかにも真面目で快活そうな赤髪の女の子。
「どーも。俺もアイスゲームに出るから、応援よろしくな!」
――かと思えば、地べたに座ってメンチを切っている、黒髪の不良っぽい女の子(?)。
「おい、待て貴様! 私と勝負しろ!!!」
――さらにその奥では、何に対して怒っているのか、黄色の髪をしたアホっぽい女の子が吠えている。
「……zzz」
――極めつけは、端の方で黒髪の女の子が、寝たまま綺麗なほふく前進で移動していた。
「…………」
ドイルはサングラスを指で押し上げ、そっと天を仰いだ。なんだか、とんでもない魔境に来てしまったかもしれない。
◇ステージホール(ディヴィア視点)
バックステージの喧騒の中、私は小さく深呼吸をした。
予想以上の来賓と一般客の数に急遽、予定していた放送室からの中継ではなく、この大ステージで行うことになったのだ。
緊張で指先が少し震える。けれど、自分に言い聞かせるように拳を握りしめた。
大丈夫、絶対に上手くいく。ロットもいるし、実行委員も、先生方も、みんながこうして全力で動いてくれているんだから。
頭の中に、相棒の顔が浮かぶ。
ロット。……いつも酒場に来ていた、ヴィア姉さまとよく親しげに話していた人。彼がこの学院に留学してきたときは、一目見てすぐに分かった。
本当はあの酒場にいた時からもっと話してみたかった。でもいつもヴィア姉さまの隣にいたから――もしかして、二人は恋人同士なのかしら、なんて勘繰ってしまって、遠巻きに見ることしかできなかった。
それが運命のいたずらかクラスが同じになり、必然的に話す機会も増えた。
おまけに、今回は一緒に代表にまで選ばれたのだ。彼と一緒なら、きっとどんな強敵が相手でもアイスゲームで優勝できる。
「ヴィア姉さま。私はあなたを――必ず超えて見せるわっ!」
遠い背中を追いかけ続けた日々に区切りをつけるように、私は心の中で強く誓った。
そして、合図とともにオープニングの垂れ幕をステージへと下ろし、決意を秘めた横顔のまま、バックステージの闇へと消えていった。




