第9話燃やせ!放課後バトル!
「アイスゲーム練習試合、スタンVSロット――開始するわ!」
ディヴィの軽快な掛け声が室内に響く。
窓の外はすっかり茜色に染まり、放課後の静けさが学院を包み始めていた。場所は3-Aの教室から離れた、アイスゲーム実行委員会兼生徒会室。
「今日こそ、オレたちの長きに渡る因縁の戦いに決着をつける時だ! 雑魚め叩きのめしてやる!」
「…………」
……いや、お前とは初対戦なんだが。
スタンが鼻息荒く吠えているが、適当に聞き流す。ただ、こいつの単細胞さはゲームの読み合いのロジックを組み立てる上で、格好の実験材料かもしれない。
昨晩ヴィアに徹底的に叩き込まれた基本さえ押さえておけば、十分に勝てる相手だ。
バサリ、と互いの手札が机に並べられる。
【スタン】
青、銀、黄、金、赤、黒
累計+1P
【ロット】
黄、青、銀、金、黒、赤
累計+3P
「うわぁああああっっ!!!!」
スタンが頭を抱えて絶叫している。最後の二択なんてただの運ゲーだ。
というか序盤のカードの出し方を見て、こいつが何も考えていないことなど完全にお見通しだ。
「ええい、もう一回だ! もう一回!!」
結局そこから5戦やって、結果はスタンの5戦全敗――つまり俺の5連勝だった。
「ふぅ、こんなもんか」
「イカサマだっ! 確実にイカサマだ!」
スタンが机を叩いて立ち上がり、俺を指さす。
「この天才のオレにイカサマを仕掛けるとは、なんて卑劣な奴だ!」
「何言ってんだこいつ」
シュッ!
呆れる俺の顔面にスタンの拳が飛んできて、そのまま無し崩し的に不毛な殴り合いに発展した。
「はーい、ストップ! 二人ともストップよ!」
見かねたディヴィが、ため息混じりに二人の間に割って入る。
「……ふん! 今日は、この辺にしといてやる!」
お手本のような三下ムーブをかまして鼻血を拭うスタン。
「明日も来るからな! 次こそは絶対に勝つ!」
それだけを捨て台詞に言い残し、あいつは嵐のように部屋を飛び出していった。本当に忙しい奴だな……。
「ふふ、いいライバルになりそうね!」
「どこがだよ」
ディヴィの呑気な言葉に、俺は痛む頬を押さえながらツッコんだ。
◇
下校時。薄暗くなった通学路をディヴィと並んで歩く。
「今日もこれから酒場のバイトか?」
「ええ、そうよ」
「……姉サマ一緒に帰りましょう……」
うおっ。俺の心臓が跳ね上がった。どこから湧いて出たんだこいつ。
いつの間にか俺たちの背後にあの漆黒の髪の妹――ケイが音もなくへばりついていた。
「あらケイ! 今日はちゃんと学校に来たのね!」
「……ずっと保健室で寝てた……」
保健室登校だった。普段は家に引きこもっていそうだもんな。
「……今回のアイスゲームで勝つのはこのケイ……フフッ」
「……たとえディヴィ姉サマであっても敵……」
「いい勝負をしましょう! いつもそれくらいやる気を出してくれると、お姉ちゃん助かるんだけど!」
「あー……うー……」
ディヴィに無邪気に頭を撫でられ、ケイは途端に幼児退行したような声を漏らす。
――が。
ディヴィが前を向いて歩き出した瞬間、ケイは彼女から見えない角度で、俺に向かって明確に中指を立ててみせた。そして「べーっ」と挑発的な笑みを浮かべ、さっさと先に行ってしまう。
とんだクソガキだった。
よし決めた。明後日の本番あのひねくれ黒チビをアイスゲームで徹底的にボコボコにして、泣かしてやるからな……!
真っ赤な夕日に照らされながら、中等部1年生の女子相手に本気の意気込みを燃やす。
潜入捜査としての目的はどこへやら、二十歳の俺の心は大人気なくも真っ赤に燃え上がっていた。




