第5話よろしくしてあげるわよ!
結局、ヴィアと戦った後、泥のように眠ってしまった。
昨晩のゲームは、俺が10連敗を喫したところで嫌になって投げ出した。やれやれ、少しは初心者に優しくしろってんだ。
時計の針は午前8時20分を指している。確か、9時スタートだったか。
朝食は手早くパンとミルクで済ませる。以前の研究所に比べたら、この奇妙な生活も楽しいもんだ。部屋を見渡すとヴィアたちの気配はもうなかった。どうやら先に出発したらしい。
「学校の自己紹介なんて、適当でいいか……」
これからの学院生活に思考を巡らせながら、身支度を整える。
「行ってきまーす。じゃあな、白」
「にゃーご」
留守番を命じられた愛猫の白い毛並みをひと撫でし、玄関へ向かう。今日は、のんびりと初めての登校風景を楽しめそうだ。
家の鍵を閉め、ポケットに放り込む。当然、この状況でバイク通学なんて真似はできないので、移動手段は徒歩だ。トホホ……。
◇
「あのーおはようございますっ!」
背後からかけられた快活な声に振り返る。誰だろうか――、身にまとっているのはヴィアと同じ制服だった。下級生だろうか。
「その制服、アストレイアのものですよね!」
目を輝かせる彼女の視線は、俺の格好に注がれていた。なるほど、この学校の男子制服なんて滅多に見かけるものじゃない。それもそのはず、ここは本来由緒正しき女学院なのだから。
少女の容姿を観察する。
鮮やかな赤髪に、意志の強そうなツリ目。ロングヘアの片側だけをすっきりと耳に掛け、後ろでリボンを結んでいる。
どこかヴィアを彷彿とさせるシルエットだが、髪色は真逆だ。ピシッとした佇まいは、不真面目なヴィアと異なり如何にもクラスの委員長といった風情である。
「今日から入学するんだ。よろしく」
「そうなんだ、珍しいー! 私、中3なのっ!」
弾むような声。その瞳が「あなたは?」と無言で訴えかけてくる。
「ロット。同じく中3だ」
「あら、同い年だったのねっ! 私はディヴィアよ!学校まで案内してあげるわ!」
前言撤回。押しが強くて自信満々なあたり、性格もヴィアに似ている。
◇アストレイア女学院中等部
キーンコーンカーンコーン。
始業10分前を告げる鐘の音が響き渡る中、校門へと辿り着いた。だが、何やら騒がしい。
何事かと視線を走らせると――そこには、おびただしい数の女子生徒に囲まれて完全に立ち往生しているアーサーの姿があった。
あいつ……。
ほんのちょっとだけ、羨ましい。……いや、本当にほんのちょっとだけな!
「なになに? 男子が2人? 今日は一段と忙しくなりそうだわっ!」
女生徒が囃し立てる。
「って、ヴィアまで捕まってるし……」
さらに別の方角に目を向けると、当のヴィアもすっかり馴染んだ様子で、取り巻きの女子生徒たちと華やかに談笑していた。あいつの社交性は化け物か。
「職員室はこっちよロット。しっかりついてらっしゃいっ!」
ディヴィアが案内してくれる。とりあえずついて行くか。
◇
豪華すぎる。外観もヤバかったが、校内も王族が住んでいるんじゃないかと見違えるほど。しかも担任の先生まで驚くほど若い。十代後半にしか見えないぞ。
「やぁ。君がロットくんだね。詳細はディヴィに聞いてくれ。」
それじゃまた教室で会おう。と準備に忙しいようだ。
3ーAの生徒の名前が書かれたリストをもらった。まずは名前を覚える所からだ。
「校内は後回しにして、教室に行きましょう!」
3年は3階か。分かりやすくて丁度いい。
「えー、今日から一週間。我がクラスに入学することになった、ロットくんです。みんな、仲良くしてくださいね」
教壇からクラスを見渡す。……おいおい、本当に美人率が高すぎないか、ここ。
「ロットです。よろしくお願いします」
猫を被るように、極めて無難な挨拶でその場を済ませた。道中ずっと一緒だったディヴィアは、幸運にも同じクラスだった。
「席も近いし、最初は私が面倒を見てあげるわ!」
「……ありがとう」
お節介焼きだが、悪い奴ではなさそうだ。本当にクラス委員長らしい。
教室内には20人ほどの生徒。よくもまぁ、こんな辺境の寒村にこれだけの美少女が集まったものだと感心する。
――いや、待てよ。
さっきは寝ぼけていて思考が追いつかなかったが、ディヴィアの赤髪と顔立ち、どこかで見覚えがある。
……そうだ酒場だ。あそこで見たメイドの顔に酷似している。
学生の身で隠れてアルバイトか? 学院の校則が緩いだけなのか?
俺の脳内で、潜入捜査官としてのロジックが急速に回転を始める。
だが、そんな思考は先生の次の言葉によって完全に消し飛ばされた。
「えー、周知の通り、1週間後にはブランカ村の一大行事である『アイスゲーム』が控えています。みなさんは引き続き、校内戦の準備を進めてください。それから――」
電子チョークを置いた先生が、悪戯っぽく微笑みながら俺に視線を向けた。
「この極めて重要な時期に我が校へ編入してきたということは……君は当然、アイスゲームに相当な自信があるということだよね?」
……ん? なんだって?
「ぜひ、このクラスのサポートとして『実行委員』になってみないかい?」
な、ななな――なんだってぇええええーーーーー!!!!




