第1話冠を戴く赤きツバサ
1章2話、酒場でアーサーの問いかけから分岐
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「いいぜ」
俺の返事が意外だったのか、アーサーは弾かれたように目を見開いた。
「シーフの件、考えてくれたんだね!」
「た・だ・し! 見習いってのはなしだぜ」
「もちろんさ。受けてくれるとは思わなかったよ」
アーサーが心底嬉しそうに、端正な顔を綻ばせる。だが、すぐにその表情から陽気さが消え、声音が一段低くなった。
「――詳細はここでは話せない。一度、僕の家に行こう」
「おいおい、マジかよ」
「大丈夫、ヴィアも呼ぶから」
「もっと嫌だわ!!!!」
◇
次の日の夕方。約束通り、俺たちはアーサーの隠れ家に集まっていた。
「悪いね、水しかなくて」
差し出されたガラスボトルを2人で受け取る。
「……アイスじゃねえんだな」
「ふーん? 結構綺麗にしてるのね。足の踏み場もない誰かさんの部屋と違って……」
「俺の家に来た事無いだろが!なんでヴィアまで呼ぶんだよ!!!」
溜まりかねて、俺は声を荒らげた。
「とても大事なことなんだ」
「私に対して随分な物言いね。〇されたいのかしら」
そう言い終わるより先に、ヴィアが俺の頭にトポトポと水をかける。
「お前の方が随分すぎるわ!!!」
「それに私も気になるわ。」
「ったく、しょーがねぇなぁ」
タオルでゴシゴシと濡れた頭を拭く。
俺たちは中央の円卓を囲むように腰掛けた。白を基調とした部屋には最低限の家具しかなく、生活感が削ぎ落とされている。この無機質さが、かえって奇妙な緊張感を醸し出していた。
「単刀直入に言うよ。僕は――『アイスゲーム』について調べている」
「「アイスゲーム?」」
こういう時だけ、俺とヴィアの声が完璧にハモる。アーサーは静かに頷き、窓の外へと視線を向けた。
「ここブランカ村で開かれる、四十年に一度の奇祭だよ。僕は正体を隠すために、ある探偵を雇って隠れ蓑にしている。彼は逃げ足も速いし、危険への嗅覚も鋭い。簡単には、殺されないと思う」
「殺され……?」
突如として物騒なワードに、背筋が凍りつく。
「アーサー、貴方それ本気なの?」
あのヴィアですら、驚きに眉をひそめた。
「本気さ。ヴィア、君も気を付けた方がいい」
「その時は、ロットを肉盾にするわ」
「なんでだよ!」
「笑い事じゃないんだ。ゲームの優勝商品を知っているかい? ――『不老薬』だ」
アーサーの口から漏れた単語は、あまりに現実離れしていた。
「不老薬を手に入れるため、世界中からあらゆる権力者がこの極寒の地へ這い寄ってきている。国を動かす大富豪、莫大な資産家、政界の黒幕、砂漠を統べる石油王、市場を操る投資家……」
連中の名前を挙げれば、文字通り枚挙に暇がない。
「だけど、そんな世界の頂点にいるような奴らが、わざわざこんな辺境の村に出向いてくるか?」
「それが、来るんだよ」
「なんでよ」
「――それを、今調べている。それに……この村の女たちも怪しいんだ」
「おいおい、敵しかいねーじゃねえか」
確かにこの村には不自然な程に美人が多いが、全員が刺客か何かに見えてるのか。
「僕たちもすでに狙われている可能性が高い。もうあのヴァロン酒場には近づかない方がいい」
アーサーの深刻な顔を見ながら、俺は内心で勘繰る。……本当に命を狙われてるのか? 実はただ迷惑がられて、店に出禁でも食らったんじゃないだろうな。
「ちぇっ、もっと浴びるほど飲んどくんだったぜ……」
「いい気味ね」
「ぁん?」
ヴィアと火花を散らして睨み合う。そんな俺たちを宥めるように、アーサーが言葉を紡ぐ。
「敵が何をしてくるか分からない以上、僕たちが生き残る道は一つしかない。――この『アイスゲーム』に、プレイヤーとして参加するんだ」
わけがわからないよ。自ら生け贄の祭壇に登れってか。
「木を隠すには森の中ってね!」
何を思い出したのか、アーサーが人差し指を立てる。
「アイスゲームの参加者として懐に入ってしまえば、向こうも迂闊には手を出しにくいんじゃないかな」
「いい案ね。誰かさんと違って、ずいぶん賢いじゃない」
「いつか絶対泣かす……ボソッ」
「何か言ったかしら?」
「言ってませーん」
俺の生返事をあしらい、アーサーはさらに盤面を進める。
「それに、学院にはディヴィアもいる。きっと僕たちの力になってくれるはずだ」
「誰だソイツ?」
「私の妹よ。ヴァロン酒場美人6姉妹の内、赤い髪をした4番目の子」
酒場にそんな奴がいたのか。いつもアーサーやヴィアとしか話してないから気付かなかったな。
気付けば、巨大な蜘蛛の巣に絡め取られていくような感覚があった。
「……それで、2人は気付いたかい? 僕らがこの家まで移動しているとき、背後に不自然な――」
ガリガリ……ッ。
静寂を破り、壁の向こうから、何かが爪を立てて這うような音が響いた。
「「「!?」」」




