第13話生まれいづる花飾り
サッ……
言うだけ言って黒い少女ことケイは、店に飾られている花飾りの彫刻の陰に隠れてしまった。
(やっぱりロクな奴じゃねえ……)
(話しかけるんじゃなかったな……)
「……フフ」
「こらぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!」
ゴスッ!!!
「何やってんよっ!!!!ケイっ!!!!」
「……接客」
「嘘よ!ちゃんと見てたわよっ!!!!」
「申し訳ございませんっ!」
礼儀正しい赤髪の店員ディヴィアが物凄い勢いで出てきた。
ケイをズルズルと引きずりながら——
「さっ、行くわよっ!!!」
「……ディヴィ姉サマ、ケイお尻もイタイ」
(肝心な事を、聞きそびれてしまった……)
(が……ヴィアに関わっているのは間違いない)
(――マスターがいない今、2階にあがるチャンスかと思ったが)
(真ん中がステージになっていて、その後ろに階段……)
「今は目立ちすぎるな……」
「そうですね!」
向かいのドイルがにこやかに答える。
服の中にビニール袋でも仕込んでいたのだろうか。偽りの食事タイムは終了したようだ。
「狙われてるってのに呑気だな」
「どうせ敵だらけなんですから、アホのふりするのが一番です」
「それもそうだな」
「ドイル、お前武術の心得はあるか?」
「護身術なら」
(外部に情報を流せるか……いや、今は検閲のリスクがある)
「――今日の夜に仕掛ける」
「それに移動手段と外部の協力が必要だ」
「事務所には、自転車しかないですよ」
「十分だ」
(話せる内容はここまでだ……)
ゴトンッ……
おっと、さっきケイの近くにあった花飾りに触ってしまった……!
「すいません!」
「どうされましたっっ!?」
タタタッ……今度も赤髪の方が来た。
「ちょっと高価そうな花飾りを落としてしまった」
「おケガはありませんかっ?」
「あぁ。透明で脆そうなのに割れなくてよかった」
ホッと一安心だ。
「あれは女神の涙と言って、氷の彫刻のレプリカですっ!」
「ちなみになんですが、100万円くらいしますっ!」
100万!?そんな物店に置いとくなよ!ひょっとして、マスターもこの子もお金持ちなんだろうか。
「本物の女神の涙は赤い花の形をしているそうですっ!しかも入手方法が不明で、その価値は1000億もするとか……」
なんだかヤバそうな話だ。アイスゲームの優勝賞品で出たりして。とても無関係とは思えなかった。
「そういえば今日はマスターはいないのか?」
「今日は遠くへ買い出しに行っているみたいですっ!!」
(詳しくは知らないのか。酒場を仕切ってるのは銀髪のデカい女……)
「そうなんだ、昼に来るのは初めてで」
「俺、ロット」
「はいっ!私はディヴィアですっ!!!」
(――昨日のシフトの4……マスターのルガンを抜くと、ヴィアと他に合わせて6人いるのか?)
「ありがとう、邪魔しちゃったかな」
「いえっ!!そんなことありませんっ!!」
ペコッ。タタタッ……
(ヴィアもこれぐらい可愛げがあればな……)
「そろそろ店を出るか」
「もう行くんですか」
「あぁ」
準備は整った。
「会計お願いします」
「2460Iになります……」
(色々とでかい。大人びた雰囲気だが、俺とそう変わらない年に見える……)
「あぁ、今日はヴィアはいないのか」
「姉は只今休みをとっています……」
「そうか、復帰はいつだ」
(……あいつ姉だったのか。フルールより小さいから妹かと思ったぞ。恐らく義理の姉妹だろうが)
「わかりません……」
「ロットさんの方が詳しいのではないですか……」
「……俺が聞きたいくらいだ」
頭をかく。しっかり名前も憶えられてるな。普段から店員を見ておくんだったと悔いるばかりである。
「姉さまっーーー!!!」
「きゃぁああああああ、ケイ何してるのよ!!!」
「寒冷地でも適応したゴキブリ、その名を漆黒の氷戦士……」
ケイが棚の上から何かを蹴り落とした。
どんがらガッシャーン!!
「「…………」」
俺とフルールが無言で互いの目を合わせる。
「ありがとうございました……」
「あぁ……」
少し気まずそうに、後ろに引っ込む銀髪が風に靡いた。
カラン……
(ん?今すれ違った、フードの男……前の奴とは違う?)
祭りの準備期間中は人の出入りが激しい。知らない奴も店に多く入ってきている。
「…………」
「ふぅ、食べた食べた」
「いい演技だったドイル」
金だけ無駄にしたが——
ペラッ。
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ヴァロン酒場
・チキントマトパスタ×2
・鹿バラ肉胡麻和えソテー×2
・アイス
・オレンジジュース
計2460I
フルール
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あぁ、本当に旨そうな料理だったなぁとレシートを見て頭を抱え後悔した。




