観客の再定義(王子の覚醒の始点)
気づきは、叫びの余熱が喉に残ったまま、ふいに訪れた。
王子はユーフェミアの表情を読み取ろうとしたが――彼女は彼を見ていない。
周囲の学生も、教師も、魔法鳥すら。
誰も、彼の物語に参加していない。
代わりに彼を凝視していたものがあった。
内側からの視線。
廊下の噂が脳裏に浮かぶ。
「悪役を断罪する勇者王子」
それは人々の期待ではなく、期待という形で自動生成されたノイズだった。
聞いた瞬間に彼が補完し、脚色し、肥大化させた「観客」という幻想。
国民が抱いたであろう希望。
亡き父が語ったであろう英雄譚。
「若き守護者」という称号。
それらすべては内部に配置されたスポットライトにすぎない。
思考が反芻する。
――自分はユーフェミアを討つために来たのではない。
――拍手を得る舞台を作るためにここに来ただけだ。
剣を握る指が震えた。
それは怒りではなく、自分の観客席に自分が座っていたという事実を理解した瞬間の震えだった。
魔王を倒した英雄の息子。
学園の守護者。
大衆の代表。
父の理想を継ぐ者。
そのどれもが、演劇の観客を満足させる役どころに過ぎなかったのだ。
ユーフェミアはその幻想を一刀で斬ったのではない。
斬る価値がないほど現実の中で無力な構図として放置したのだ。
無関心によって。
合理性によって。
熱量の希薄な世界によって。
王子は初めて悟る。
敵がいないのではない。
悪役は――自分が作らなければ存在しなかった。
そしてその悪役は、ユーフェミアではなく、
拍手喝采を求めて舞台装置を押し付けた自分自身の中にいた。




