ユーフェミアの最大の善 ― そして最大の暴力
エリーの膝が崩れ落ちた。
温室のタイルはほんのりと昼の熱を残している。涙が一滴、そこに落ち、丸い染みを広げた。
その瞬間になって、ようやくユーフェミアは振り返った。
顔には憐憫も焦りも無い。
検査機器が異常値を確認した時のような、静かな反応だけがあった。
「あなたは弱っている。
私が整えてあげる。」
言葉は慈雨のように滑らかだった。
しかしそこに許可を求める意志は存在しない。
“治す”は肯定ではなく、機能的な反射だった。
ユーフェミアは膝をつく。
土の匂いがスカートの裾に寄り添い、彼女の白い指がエリーの手を包み込む。
皮膚と皮膚が触れた瞬間、細く糸のような魔力が血管へ降りてくる。
温かさ——
いや、均衡温。
人肌の慰撫ではない。感情曲線を水平化する、冷酷な生理的最適化。
震えが止まった。
膝の力が戻る。
胸の圧迫は消える。
——悲しみの重さが、どろりと剥ぎ取られていく。
(やめて……それだけは……!
私の悲しみは……私のものなのに……!)
脳が悲鳴を上げる。
だが喉は正常値へ矯正され、声帯の震えは滑らかに抑制されていく。
魔力は情緒を否定しない。
情緒を症状として除去する。
そのための最適経路が与えられただけだ。
冷たい汗が背を這う。
泣くという最後の逃避手段すら奪われる。
涙は分泌前に乾く。
心の乱れが、体温の微小変動として消去されていく。
「もう大丈夫。正常に戻ったわ。」
ユーフェミアは微笑む。
それは穏やかな救済の表情。
そして、最大級の暴力だった。
悲しみを抱くことでようやく保てていた……
自己という輪郭が、静かに溶解していく。




