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ユーフェミアは今日も眠い。  作者: 南蛇井


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ユーフェミアの応答 ― 断絶の核心

 ユーフェミアは振り返らなかった。

 摘み取った葉の根に付いた黒ずんだ繊維を、爪先で慎重にほぐす。切り落とす瞬間だけ、刃物が灯に反射する。

 会話には意図的な遅延が設けられ、エリーの言葉は宙づりになったまま、温室の湿った空気に溶けていく。


 ようやく、ユーフェミアは言った。


 「苦しむ“権利”? 面白い言い方ね」


 疑問でも、反論でもない。

 概念の検分を始めた研究者の声だった。

 エリーの胸で煮えたぎる感情など視野にすら入っていない。


 ユーフェミアは葉の組織を観察するように、切り口を光へ掲げる。

 繊維が均一か、萎れが病原性か――その判断を下すための沈黙が続く。

 感情の揺らぎは一切ない。心の水面は無風。


 「……それがあなたの健康に必要なら、考えてみるわ」


 “必要”――その言葉が、エリーの内側を鈍い音で打った。


 ユーフェミアの優しさの定義には、

 症状を除去することしか収録されていない。

 痛みは病変、歪みは欠損、沈黙は不具合。

 苦痛は人格の一部ではなく、機能の異常として扱われる。


 彼女は葉を仕分ける。

 健康な青葉は籠へ、汚染の疑いがある黒葉は陶器の皿へ。

 分類に迷いはなく、基準はすでに確立されている。

 ユーフェミアが救うのは植物の生命であり、人の心ではない。


 エリーはそれを理解した――否応なく。

 ユーフェミアはエリーの心を否定したのではない。

 エリーの心を情報として処理しただけだった。


 救済と破壊の境界は、彼女にとっては存在しない。

 ただ「改善」と「未改善」があるのみ。

 そこに嘆きも、怒りも、尊厳すら介在しない。


 温室の隅で、加湿器が小さく蒸気を吐く。

 ユーフェミアの手元で根が落ちる乾いた音が、

 エリーの役割が崩れ落ちる音と同時に響いた。

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