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ユーフェミアは今日も眠い。  作者: 南蛇井


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ハーミスの調査宣言 ― 科学的恐怖

ハーミスは、顕微鏡の視界から顔を離せなかった。

プレパラートの上――巨大キノコから採取した胞子が、規則正しく並んでいる。


細胞壁は無傷だった。

いや、無傷だっただけではない。

一度破断された痕跡が、寸分違わぬ精度で“復旧”している。


まるで、破壊そのものが許可されなかったように。


「……おい。冗談だろう」


助手の生徒が息を飲んだ。

普通なら、胞子の形成過程には不均衡な継ぎ目が残る。

菌類は“死”を取り込みながら増殖し、生き延びる。

欠損と試行錯誤の連鎖が、自然の設計なのだ。


だが、眼前の胞子は違う。

死ぬはずの箇所が、既に修復された状態で成熟している。


彼は、震える声で呟いた。


「病菌まで治癒している……」


指先が顕微鏡の傍で止まる。


「これは『治癒魔法』ではない。

世界に施された――再生命令だ」


顕微鏡の視界は、救済ではなく拒絶だった。

腐敗を、老化を、死滅を、

自然界の“終了”というプロセスそのものを排除する命令。


その命令は、校庭を侵食していた。


校庭の土壌から採取したサンプルに、魔力測定器をかざす。

数値が上昇し続ける。

彼は迷いなく、ユーフェミアの寮室方面を指した。


「……上昇率、三六パーセント」


通常、回復魔法は術者の意思を媒介にする。

意思が尽きれば治癒は止まる。

術式が崩れれば、回復は終わる。


だがこれは流れ続けている。

植物だけではない。菌類、虫、微生物にまで及ぶ。

対象の境界が存在しない。

まるで“生命”という概念に対して一律に適用されているような、世界規模のフィルタだ。


計器の針が細かく震え、閾値を突破する。

ハーミスは、誰に聞かせるでもなく呟いた。


「……癒しの地脈が形成されている」


魔力の流れは校庭の下で編まれ、管のように広がり続ける。

術者の意思を介さないのなら――

それは壊れた蛇口と同じだ。

止める術が存在しない回復。


彼はプレートを乱暴に片付け、職員室へ向かう。

靴音が硬い床で跳ね、壁に冷たく反射した。


教師たちのざわめきを断ち切るように、

ハーミスは告げた。


「調査に入る。術者は校内に常在する」


沈黙。


彼だけが理解していた。

癒しは祝福ではない。

生存競争の土台を破壊する魔法だ。


死がない世界で、淘汰は止まり、努力は意味を失い、

退屈と膨張だけが永遠に残る。


それを人は、最初だけ“幸福”と呼ぶ。

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