表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーフェミアは今日も眠い。  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
124/273

不良イベント担当のモブ生徒A

昼休みの中庭は、草の匂いに満たされている。

 風が吹くたび、芝生は撫でられるように波立ち、膝を折る者を柔らかく迎え入れる。

 その緑の上に、かつての“問題児”が腰を落とした。


 モブ生徒A――教師からは面倒扱い、仲間からは喧嘩の火種として重宝されてきた少年。

 彼は空を見上げ、あくびをひとつ吐き出す。


「最近、喧嘩する気すら起きねぇ。

 何かムカつくことあっても、五分で忘れる」


 吐き捨てるような言い方なのに、声に棘がない。

 怒りが乾燥してしまった布のように、重力を失っている。


 隣で寝そべる不良仲間のBが足をゆっくり伸ばす。

 彼の長い脚を受け止めるように、芝は柔らかく沈み、背中を支える。


「俺ら、何のためにここにいるんだ?」


 問いに答えはない。

 だが二人は、その空虚さを恐れなかった。

 むしろ、怖がるだけの体力すら奪われていた。


◆怒りの死


 かつて彼らの昼休みは戦争の前哨戦だった。

 視線の衝突、言葉の挑発、取っ組み合い。

 暴力は彼らの存在証明であり、役割だった。


 だが今、怒りは発火しない。

 火薬に湿った雨が延々と降り続けるような感覚。

 心理の導火線が土に埋められ、芽吹きによって無力化されている。


 不満は湧く。

 授業、成績、教師の癖。

 だが苛立ちは分解され、芝生に落とした足跡のように、数分で消える。

 感情は燃料を失ったまま、ただ散っていく。


◆役割の瓦解


 彼らはずっと、**「事件を起こす役」**を割り当てられてきた。

 揉め事が発生すれば、そこに彼らがいた。

 教師の指導は説教に、仲間の笑いは拍手に変わり、制度は摩擦の発生を前提に成立していた。


 しかし今――摩擦はどこにもない。


 悪意は根こそぎ奪われ、怒りは土壌に吸い込まれ、

 暴力性は“発芽前の芽”のように腐り落ちていく。


 彼らの存在意義は、役割の喪失とともに崩壊した。


 Aは草に指を滑らせる。

 新芽が触れられた指先に絡みつき、安心させるように肌を撫でた。

 不自然なほど優しい感触。

 その柔らかさに、少年の瞳はわずかに緩む。


「……まぁ、楽っちゃ楽なんだよな」


 労力も、闘争も、衝突もない。

 ただ、呼吸して、昼寝して、笑っていればいい。


 不健全な平和ほど、人を早く眠らせるものはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ