不良イベント担当のモブ生徒A
昼休みの中庭は、草の匂いに満たされている。
風が吹くたび、芝生は撫でられるように波立ち、膝を折る者を柔らかく迎え入れる。
その緑の上に、かつての“問題児”が腰を落とした。
モブ生徒A――教師からは面倒扱い、仲間からは喧嘩の火種として重宝されてきた少年。
彼は空を見上げ、あくびをひとつ吐き出す。
「最近、喧嘩する気すら起きねぇ。
何かムカつくことあっても、五分で忘れる」
吐き捨てるような言い方なのに、声に棘がない。
怒りが乾燥してしまった布のように、重力を失っている。
隣で寝そべる不良仲間のBが足をゆっくり伸ばす。
彼の長い脚を受け止めるように、芝は柔らかく沈み、背中を支える。
「俺ら、何のためにここにいるんだ?」
問いに答えはない。
だが二人は、その空虚さを恐れなかった。
むしろ、怖がるだけの体力すら奪われていた。
◆怒りの死
かつて彼らの昼休みは戦争の前哨戦だった。
視線の衝突、言葉の挑発、取っ組み合い。
暴力は彼らの存在証明であり、役割だった。
だが今、怒りは発火しない。
火薬に湿った雨が延々と降り続けるような感覚。
心理の導火線が土に埋められ、芽吹きによって無力化されている。
不満は湧く。
授業、成績、教師の癖。
だが苛立ちは分解され、芝生に落とした足跡のように、数分で消える。
感情は燃料を失ったまま、ただ散っていく。
◆役割の瓦解
彼らはずっと、**「事件を起こす役」**を割り当てられてきた。
揉め事が発生すれば、そこに彼らがいた。
教師の指導は説教に、仲間の笑いは拍手に変わり、制度は摩擦の発生を前提に成立していた。
しかし今――摩擦はどこにもない。
悪意は根こそぎ奪われ、怒りは土壌に吸い込まれ、
暴力性は“発芽前の芽”のように腐り落ちていく。
彼らの存在意義は、役割の喪失とともに崩壊した。
Aは草に指を滑らせる。
新芽が触れられた指先に絡みつき、安心させるように肌を撫でた。
不自然なほど優しい感触。
その柔らかさに、少年の瞳はわずかに緩む。
「……まぁ、楽っちゃ楽なんだよな」
労力も、闘争も、衝突もない。
ただ、呼吸して、昼寝して、笑っていればいい。
不健全な平和ほど、人を早く眠らせるものはない。




