第69話 ノーシュヴァイン王の御前
ノーシュヴァイン城は世界的に見ても、豪華でインパクトのある城だ。その中でも、訪れたものを圧倒する玉座の間はフラン城とは大違いだ。
フラン城の玉座の間はだだっ広かったが、ノーシュヴァイン城の広さはそれほどでもない。ただし、2フロア分を使った吹き抜けの空間は、煌びやかな黄金の輝きを放っている。
白の大理石で出来た段数の少ない階段の前には、ローラとエリスが待ちくたびれた様子でこちらに気が付いた。
「遅いぞぉ」
「まったく。妖精王を待たせるなんて良い度胸してるわね」
むくれるローラに、長い髪を自分で靡かせるエリス。
「ごめんごめん。急に呼ばれたからな」
頭をかきながら謝ると「えへへ。良いよぉ」とローラが俺の頭を、ポンポンとしてくれて簡単に許してくれる。
「フレデリカも。急だった」
「あんたは知ってたでしょうがっ」
フレデリカにすかさずツッコミをいれるエリスを見てルナが「みなさん」と声を荒げた。
「ノーシュヴァイン王の前ですよ。ちゃんとしてください」
みんなの仕切り役的な感じのルナが言ってのけると、3人がジト目でルナを見た。
「ちゃんとって……」
「ルナが1番」
「ちゃんとしてないわよ」
3人仲良くセリフを分け合っていた。ルナはいつの間にか俺の右腕に抱き着いていた。
「「「淫乱」」」
「ちょ! ノーシュヴァイン王の前でそんなこと言わないでくださいよっ!」
「美少女コング」
「はい♡ 美少女コングです♡」
あかん。流れで悪口言ったら、性癖持っていかれそうになる。可憐な美少女がコング扱いされても語尾に♡付けてくれるとか……。性癖が捻じ曲がるわ。
「みなの者!」
階段下で騒いでいると、男性の声が玉座の間に響き渡った。
階段を上った先にある玉座の隣でハゲた中年男性がこちらを睨みつけるように立っていた。
「口を慎め! 王の御前であるぞ!」
偉そうな口調で言ってのけるのはノーシュヴァイン城の大臣だ。
「よい」
大臣の隣にある黄金の玉座に深く腰掛けているがっしりとした男性が大臣の言葉を止める。
褐色の肌に、筋肉の鎧を纏い、漆黒の髪をオールバックにしている。
ルード・ノーシュヴァイン。
その強さは世界にも轟き、魔物の軍勢を1人壊滅させた伝説を持っている。
威厳のある顔、鋭い眼光が勇者パーティに向けられる。
するとすぐさま、威厳な顔が少し歪む。
「そなたらは、リッタが来ると雰囲気が変わるな」
先程までの威厳ある顔から、親戚の叔父さんみたいな顔つきに変わった。
勇者パーティは王の声かけに、ピシッと背筋を伸ばした。
が、ルナだけ俺からは離れようとはしなかった。
「ルナ。なんであんたがボケてるのよ。そういうのはフレデリカでしょ」
「美少女コング。ルナ」
ピースサインをそのまま自分の目付近に持っていき、独特のポージングを取る。
「いや、ゴリラはゴリラだけれども」
「あ? エリスさん? あなたにゴリラ呼ばわるされる筋合いはなくてですよ?」
「なんでキレてるの!? 今回わたし悪くなくない!?」
「エリスうるさい」
「そうだよエリスちゃん。王様の前なんだからちゃんとしなよ」
「わたしなの!?」
やはり、最終的にはエリスが悪いことになるみたいだな。ま、妖精王とか言ってイキってるからしゃーない。
「リッタよ」
いつまでも騒がしい勇者パーティを無視して俺に声をかけてくれるノーシュヴァイン王。
「久しいな。して、目的の進捗はどうだ?」
「ぼちぼちですかね」
「そうか。リッタには借りがあるから、そろそろ返さないといけないとは思っているのだが」
「いえ、そんな……」
手を振って、別に借りなんて気にしないで良いというのを伝えようとするが、ノーシュヴァイン王は視線を逸らしてどこか気まずそうにしていた。
「借りを返す前に、また1つリッタに頼み事が増えてしまった」
「頼み……ですか?」
オウム返しで聞き返すと小さく頷いて、また鋭い眼光を見開いた。
「魔王の居場所がわかったかも知れぬ」
王の言葉に勇者パーティと俺に緊張が走る。
瞬間的に真剣な顔つきで全員がノーシュヴァイン王の話に耳を傾けた。
「ノーシュヴァイン王。魔王の居場所がわかったって本当なの?」
エリスが信じられないと言った様子で聞くと王は自信満々で頷いた。
「それはどこなのですか?」
いつの間にか腕から離れたルナが聞くと、王は軽く息を整えてから口を開いた。
「要塞都市『コンティスタンブル』」
!?
全員の顔が一斉に驚愕の顔つきに変わった。
「そんな……」
「まさか……」
「ありえない……」
「そうよ! ありえないわよ!」
勇者パーティの動揺の声に対して俺も青ざめたであろう顔で王に言った。
「コンティスタンブルは魔王によって陥落された滅亡都市。1番初めに調査をし、どこよりも長く、深く調査をした場所ですよ」
俺達の反応が大方予想通りだったのか王を平然と話しを続けた。
「リッタの言う通りだ。10年前。突如新しく現れた魔王が最初に襲ったのがコンティスタンブル。そのため、そこを根城にするやもと思い調査を長年続けたが成果は挙げられなかった。だが、最近の魔物の動向を調査しておると、やはりコンティスタンブル城が怪しい」
「この前の西の大陸に現れた魔物の軍勢は?」
フレデリカが王に尋ねる。
「西の大陸の軍勢?」
ローラが首を傾げるとルナが、ヒソヒソと答えてあげる。
「この間、ノーシュヴァイン城より承った依頼のことです」
「あんたは森に籠もってたから、わたしら3人で行ったのよ」
エリスが補足する。
「なにそれ! あたしも行きたかったんですけど!」
駄々っ子みたいな声を出しながら3人の話が逸れているのを無視して、ノーシュヴァイン王は困惑した顔でフレデリカの質問に答えた。
「勇者パーティが瞬時に壊滅してくれた西の大陸の魔物の軍勢。あそこに魔王の城があるかと思って調査をしていたが、なにも見つからなかった。なぜ魔物の軍勢が西の大陸にいたのかはわからなぬが、その残党の行方を追うと、コンティスタンブル城へと入って行くのがわかった。それとノーシュヴァイン独自で調査を行った結果、魔物の残党はコンティスタンブル城へ入って行くという調査結果を得た」
軍勢を率いる魔物の残党はコンティスタンブル城へと入って行くのか……。
「しかし、王よ。コンティスタンブルもコンティスタンブル城内も既に調査は済んでいると思いますが?」
「うぬ。そうなのだが、今一度コンティスタンブル城内を洗い出したいと思うのだ。魔王の有無はともかく、魔物の残党が城に向かっているのは確かだ」
そこで王は立ち上がった。
「勇者パーティよ、次はコンティスタンブル城の調査を頼みたい。現在、戦力を揃えている最中だ。準備が出来次第招集をかける」
はい。と、そこは4人同時に歯切り良く返事をしていた。
「そしてリッタよ。今回の任務にはリッタの力も借りたい」
「わかりました」
王の頼みだと言うのと、もしかしたら魔王がいるやもしれない依頼ならば断る道理もない。俺の目的である行方不明の父親を探すのは魔王討伐後でもできることだ。




