第70話 空いた時間
俺達は再度の招集待ちとなってしまった。
準備にどれくらいかかるがわからないが、今すぐにと言うわけでもなさそうだし、ゆっくり準備するとも思えない。なんとも微妙な時間が空いてしまった。
玉座の間を離れ、この微妙な時間をどう使うか迷いながらノーシュヴァイン城の中庭に出た。
晴れた心地の良い空の下、石畳をコツコツと足音を鳴らして歩く。
立派なノーシュヴァイン城の建築物を背にすると、中庭からは生い茂った綺麗な森の風景が見えた。
その風景を、長い金髪を靡かせて黄昏れるように見ているエリス。彼女の横に並び彼女と同じ風景を見た。
「エルフの里を思い出すな」
いきなりそう言うと、別段驚いた様子もなく、靡く髪を耳にかけながら澄ました顔で答えてくる。
「エルフの里の風景の方が幻想的よ」
「地元大好きっ子の地元贔屓発言か」
エリスは少し怒った様子で聞いてくる。
「あんたも好きって言ってたじゃない」
「好きだな」
即答するとエリスは頬を赤らませる。
「べ、別にあんたに好きって言われても嬉しくなんかないから」
「感情バグってんのかな? エリスのことを言ったわけじゃないけど?」
「わ、わかってるわよ。ばか」
本当にわかっていたのか疑問は残るが、今はどっちでも良い。
「エリスは招集がかかるまでどうするんだ?」
ルナとローラは用事があると言って早々に城を出て行き、フレデリカもいそいそと姿を消していた。エリスはどうなのか気になり質問をしてみる。
「別に。いつでも招集がかかっても良い様に準備を整えておくだけよ」
「それならさ」
俺はエリスを見ながら彼女へ提案を持ちかけた。
「里帰りしないか?」
「里帰り?」
キョトンとしたエリスが首を傾げる。意味がわからないというわけではなく、いきなりの提案に少しだけ困惑したような反応だ。
「ほら、前にフラン城で約束したろ?」
言うと「ああ」と声を漏らした。
「『じゅーでんき』の件ね」
「そうそう。招集まで微妙に時間が空いたし。じゅーでんきってのを確かめたい」
「そ、そこまで言うなら別に帰ってあげても良いわよ」
顔を背けながら言ってくる辺り、ツンデレキャラを遵守しようとしているのだろうか。もう無駄なのに。
「あ……」
次にエリスは妖精王とは思えない間抜けな声を出した。
「でも、ここからエルフの里までかなり遠いわよ」
「あ……」
俺も間抜けな声が出る。
微妙に空いた時間で調査ができると思ったが、その空いた微妙な時間でエルフの里に辿り着くことはできないだろう。
ノーシュヴァイン城より遥か北にあるエルフの里は、簡単に行き来できる場所ではない。
しまったな移動時間という概念を忘れていた。バカだわ。
「お困りのよう」
ふと俺達の後ろからロリッ子の声が響いた。
「「フレデリカ」」
バアアン! なんて疑問が出ているかのようなポージングを決めたフレデリカ。
「そそくさと帰ったんじゃ?」
「大便してた」
エリスが額に手を置いて呆れた声を出す。
「あんまり言いたくはないけど……。あんた元お姫様でしょ。そんなことを軽々しくいうもんじゃないわよ」
「綺麗な大には棘がある」
「末おそろいい子……」
「こんなスカトロ妖精王はどうでもいい」
「ちょっと! どうしてわたしがスカトロになるのよ!」
「リッタ。困っている」
「無視しないでよ!」
「ああ……。非常に困っている」
「2人で無視しやがって! クソがっ!」
「エリスも大便?」
「行ってくるわよ! ばーか! ばーか!」
拗ねたエリスは可憐に髪を靡かせて大便へ向かった。
「邪魔者は消えた。さ、リッタ。フレデリカがエルフの里に連れて行ってあげる」
「え? でも、フレデリカはエルフの里に行ったことないよな? それにいくらフレデリカの最強魔力でも、知り合いもいないエルフの里の人間の魔力を感知することはできないろ」
「ふっ。リッタがフレデリカをアッパーコンパチブルすれば良き」
「あ! 本当だ!」
テンションが上がり、パチンと指を鳴らすと氷の剣が出てきた。
「おっと……」
すぐに氷の剣を遠くの森に投げておく。まだヴァンパイアのスキルに慣れないみたいだ。いつでもヴァンパイアのスキルが使えるのは便利だが、コントロールすることを覚えないとな。
「じゃフレデリカ。やっても良い?」
「う、うん……。優しくして……」
目を瞑り、キスをせがむように唇を差し出してくる。
「いや、目を開けてくれないと俺のスキルが使えないんだけど」
「キスしてからでも良いよ?」
「城の中庭でロリ美少女とキスとかいけない気持ちになるんだけど」
「いけない気持ちを爆発させても良いよ」
「じゃあ……」
俺はフレデリカの目を指で開ける。
「いだだだだだ!」
フレデリカには珍しい声が出ていた。
『アッパーコンパチブル』
俺はスキルを使い、フレデリカの能力を得た。
「強引なリッタも好き」
目をおさえて悶えるフレデリカ。どうやら許されたようだ。
「さ、エフュージョンでエルフの里に行こうか」
「うん。楽しみだね」
俺は賢者の杖を出すと魔法を唱えようとする。
「ちょっと!! なにをわたしを置いて行こうとしてるのよ!」
大便から戻って来たエリスが慌てて俺達に近づいた。
「『エフュージョン』」
「ちょ! まっ!」
俺達はエルフの里へとワープしたのであった。




