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第29話 勇者パーティと海の中へ

 翌日もよく晴れたダイセンの空の下。


 スカイブルーをそのまま映した芸術的に綺麗な海を、ルシオさんから借りた小型の船で駆け巡る心地良さは何にも変え難い。


「「オロロロロロロ」」

「汚っ!」


 ローラと一緒に芸術へ泥を塗るみたいに嘔吐する。


「ちょ! あんた達大丈夫?」

「あたし……2日連続でゲロ……」

「ふっ……奇遇だなローラ。俺もだ」

「リッタくんとお揃い……。好きピと一緒……」


 ドヤ顔でエリスを見つめるローラ。


「そんなお揃い羨ましくないわよ!」

「むぅ……」


 俺達の様子を見ていた聖騎士風のルナが膨れ顔で隣に来ると「おええ」と可愛く嗚咽を吐いていた。


「ルナ! ちょ! 汚いからやめなさい!」

「エリスさん止めないでください! 私も好きピとお揃いが良いので吐きます!」

「可愛い顔と声で何を言ってんのよ! あんたメンヘラ飛び越えてサイコパスよ!」

「メンヘラでもサイコパスでもリッタ様とお揃いじゃないと嫌なんです! いきますっ!」


 そう言って指を口に入れようとするルナを羽交い締めで止めた。


「だああ! 可愛い顔なのに! まじでやめなさいって!」


 2人のやり取りを見ていたローラがしたり顔でルナを見ながら言葉を発す。


「リッタくん……。王都に帰っても一緒に嘔吐しようね♡」

「ローラ! つまんないこと言わないの!」

「離してください! わ、私もリッタ様と王都で嘔吐したいです!」

「ほらあ! 変なスイッチ入った! リッタ! あんたも良い加減に止めなさいよ!」

「オロロロロロロ」

「今のはわたしが悪いわね」

「バカしかいない……」


 舵取りをしているフレデリカの呆れた声を最後に、俺は気を失った。




「着いた」


 フレデリカの声が遠くから聞こえた気がすると、軽く体が揺れる。


「リッタ様。到着したみたいですよ」


 優しい声が近くからしたので「んっ」と瞼を開けると、ぼやけているのに美少女とわかるルナの顔が近くにあった。


「もう……着いたのか……」

「ええ」


 体を起こすとルナは申し訳なさそうな顔をする。


「すみませんリッタ様。私には嘔吐の才能はありません。リッタ様と一緒でないルナをお許しください」

「はぁ……」


 この美少女は何を言っているのだろう。


 近くにエリスがいたので目で助け舟を出すが、どこか疲れた様子でそっぽを向いていた。


「ですが! ですがリッタ様。逆に! 逆にですよ! 私に吐いてください! リッタ様の全てをルナの身体全体に吐いてください! リッタ様のものなら、その全てを受け入れます。愛せます!」


 はぁはぁと息遣いが荒い。


 このプラチナ髪の変態は何を言っているのだろう。


 近くにそっぽを向いているエリスがいたので眼力を強めたら、背中を向けられる。もう疲れたみたいだ。


「ルナちゃん……。それじゃ、遠慮なく……」


 そう言って、ヨロヨロとやってきたローラがルナの身体に嘔吐しようとするのを、華麗なでんぐり返しで交わした。


「何をしようとしているのですか!」

「だって……受け入れてくれるって……」

「リッタ様だけに決まってるじゃないですか!」

「ウエエエ……気持ち悪い……2日連続はやばいって……」


 そう言いながらローラは、ふらふらと柵に手を置いて青空が映った海へ自分のものを吐いている。


「ん? 青空?」


 自分の考えに疑問を持ちながら上空を見上げると空は昨日と違って青いままだった。


「フレデリカ。ここ……だよな?」

「間違いない」


 舵取りを終えたフレデリカが甲板の方へやってくる。


 感知の魔法やスキルがない俺でもわかるほどの膨大な魔力の跡。


 昨日の俺とフレデリカとリヴァイアサンの魔力の波動が残っている。


 まぁ、そのために魔力を解放したのもあるのだけどね。こんな海の中じゃ目印がないから、魔力の波動を残したってわけだ。


「凄い魔力の跡……ですが、今はリヴァイアサンの魔力の波動は感じませんね」


 ルナが感知のスキルを使ってくれたみたいだ。


「ええ。それにしても、人類最強の魔力の持ち主である、フレデリカの魔力量を余裕で超えてるのね。はは。そりゃ神話の魔神って呼ばれるだけあるわね」


 エリスも感知の魔法を使ったのか、唖然とした声を出す。


「リヴァイアサンの膨大な魔力は空にも影響を及ぼす。黒い雲が出るはずだけど、今日は出ていない。確実にこの付近にはいないみたい」


 フレデリカの言うとおりだ。


 リヴァイアサンはどこに行ったのだろうか。気まぐれで現れたから、気まぐれに去ってしまったのだろうか。


 魔神と言う強さ故に、自由に海を泳いでいるのか……。


「昨日と同じ場所に来てもいないんじゃどうしようもないわね」

「どうする?」

「そうですね……」


 考え込むルナがローラを見る。


「リヴァイアサンがいないのであれば『海のオーブ』の捜索をしましょうか」

「ええ!?」


 ローラの驚愕の声を無視して。


「「賛成」」


 フレデリカとエリスは即答で肯定した。


「賛成じゃないよ! あたしが今しがた出してる物は酸性だけどね!」

「ローラ……。さっきから汚いわよ……」

「無理だって! 帰ろう! まじで帰ろうよ!」

「ローラさんはここで待機でも良いですよ? 私達はリッタ様と海底デートを楽しみますので♡」

「海底デート! 行くっ!」


 ローラがちょっぴり元気になった。


「海底デート? ごめん。どういう意味?」


 俺はそっちが気になりルナに問う。


「あ、申し訳ありませんリッタ様。説明をしていませんでしたね」


 コホンと咳払いをしてルナが解説してくれる。


「『海のオーブ』は海溝、海の奥深くに眠っています。泳いでいくことはできません。そこで『人魚のハープ』を使って海底に潜り捜索するのです」

「人魚のハープ?」

「これよ」


 エリスの手が光ると、そこからハープが現れる。


「大昔にエルフ族が人魚族と友好条約を交わした時にもらった貴重なハープ。このハープを聞いた地上の生命体は一時的に海でも生きることができるわ」

「へぇ。つまり海で呼吸できるってことか?」

「ええ。まぁ簡単に言えばね。その他にも水圧に耐えれたりって……そこら辺の解説はいっか。大事なのは効果時間。もって1日程度かしら。もう1度聞けば大丈夫だから安心しなさい」

「ですです。なのでこれでリッタ様と」

「リッタくんと」

「リッタと」

「「「海底デートできる!!!」」」

「あんたら遊びに行くんじゃないからね!」

「「「良いから早くハープを弾いて」」」

「わ、わかってるわよ……。ったく……」


 ぶつぶつと文句を言いながらエリスはハープを弾いた。


 ♫〜♫〜♫〜。


 ハープからは……。うん。なんか……。


「綺麗な海にゲロを吐いた感じな音だね」

「それはあんたでしょ!」


 ローラが代表して俺達の意見を言うと、エリスもまた尤もな返しをした。


「難しいのよ! 人魚のハープ! もう! とにかく、これでみんな海の中に入っても大丈夫だから! 行くわよ!」


 怒ったエリスが先に、ザブンっと海の中に入っていく。


「ヤッフー!」


 ローラが続いてザブンっと入った。


「いえ」


 フレデリカも景気良く、ザブンっと行った。


「あ、リッタ様。私、怖いです。手を繋いでもらってもよろしいですか?」

「うん。一緒に行こう」

「はい♡」


 俺とルナは手を繋いで一緒に海の中にダイブした。

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[一言] やはり船は敵だ! /w ルナと夜のデートの続き/w
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