第30話 勇者パーティと海底
まるで別世界だ。
海の中の世界というのは地上とは全然違った景色を見せてくれる。
飛び込んだ時、無意識に呼吸をせず息を止めていた。
しかし、限界が来てしまって息を吐き出した時、地上にいる時と変わらずに呼吸が出来るなんとも不思議な感覚。
その感覚と共に視界に入って来たのは地上から見る海の色とはまた違った景色。
海の表面越しに光が差す様は、教会のステンドグラスに光が差すかのように神秘的で。でも、それとはまた違った様子で。
頭上の光を浴びながらゆっくりと沈んで行くと、魚の群れが、まるでダンスをしているかのように踊り泳いでいる。
「綺麗ですね」
手を繋いでいたルナが小さく言ってのける。
振り向いた彼女を見て俺の時は止まってしまった。
海の中で光を浴びた彼女の美しさは例えるものがない。
後世へ『〇〇はまるで、海の光を浴びたルナの様に美しい』という例え文句ができてしまうのではないかと思うほど。
「ルナな方が綺麗だよ」
心に思っていることがつい出てしまい、照れ笑いを浮かべてしまうと、ギュッと手を強く握ってくれる。
「海の中の美しい景色よりも、あなたの言葉で私は満たされ、心踊ります」
俺の手を握っていない方の手を胸に置いて、祈るように瞳を閉じた。
「今は神様に感謝します。あなたに出会えたことを……」
「なに良い感じになってんだよ!!」
神に感謝の意を込めて祈っているとローラの声が聞こえてきた。
かと思うと「きゃ!」という言葉と共にルナの姿が消えた。
ローラが下から思いっきりルナの足を掴んでテーブルクロスの要領で引っ張ったみたいだな。
そのまま、すごい速度で海底の方まで行ったかと思うと。
「きゃあああああ!!」
俺の横を螺旋状に回転しながら海上して行くルナの姿があった。
多分、フレデリカの風魔法だ。
「とりあえず海の中でも魔法は使えるみたいだな」
人魚のハープのおかげか、海の中でも地上と変わらずの行動ができるみたいだ。
「はいっ! というわけでみなさん! 海底に到着しました! パチパチパチ!」
俺達が足の着く海底まで辿り着いてから、しばらくするとルナが女神の様に海上から舞い降りて来た。
ゆっくりと足をつけると、テンション高く手を叩いて言ってのける姿を3人がジト目で見ていた。
「性悪」
「腹黒」
「詐欺師」
「ちょっと! なんですかみなさん!」
ルナが焦った様子を見せるがお構いなしの3人。
「どうせリッタくんが最後ってわかってて」
「『怖い』とか言って」
「手を繋いで潜ったのがバレバレ」
三者三様の物言いに反論しようとするが。
「剣士って硬派ぶってる」
「むっつり」
「スケベよね」
「うぐっ……」
海底でひざまつく聖騎士風のむっつりスケベは何も言い返せないでいた。
「き、切り替え! 切り替え! みなさん! 切り替えて『海のオーブ』を探しますよ!!」
むっつりスケベの精神力は聖騎士並だったみたいだ。
まぁ見た目が聖騎士なだけで、ルナは別に聖騎士ではないのだけど。
「そういえばルナちゃん。『海のオーブ』のありかってルナちゃんの感知のスキルで探せるの?」
勇者パーティの切り替えは早い。
ローラが既に天罰モードからクエストモードへと切り替えてルナへ問う。
「すみません。私の感知のスキルは魔物や魔力の波動を読み取るものですので……。エリスさんの感知の魔法はいかがでしょう」
「やってみるわ」
エリスは左手を突き出して瞳を閉じた。
「なにか宝具級のものを感じるわ。近い……。近いわ! うそ……もう目と鼻の先……」
そして、右手に握っていた人魚のハープを天にかざす。
「これよ!!」
しばらく時が止まる。
「エリスさんの考えるボケってなんでしょう……」
「センスがないというか」
「古い」
「それです」
「そーだよねー。そもそも、金髪ツンデレエルフってのが時代遅れ感あるよね」
「古参」
「あんたら本当に勇者なの!? ちょっとボケたらこれよね!! 言葉のナイフが過ぎるわよ!!」
うずくまるエリスに俺は肩をトンっと置いてやる。
「俺はツンデレ好きだよ」
「リッタ……。ふ、ふん! 別にあんたに好きって言われたら嬉しくてキスしてあげるわよ!!」
そう言って顔を近づけてくる。
「「「させるかっ!」」」
「ぶっ!」
3人がそれぞれエリスの体を拘束する。
「なにをしているんです!? いきなりキスなんてバカなんじゃないですか!?」
「だって! あんたらが古いとか言うから! ツンデレに新しい風を吹かせたのよ!!」
あー。確かに、いつものエリスらしくなかったな。
「それはただのデレだよ!」
「良いからさっさと感知!」
フレデリカの言葉に「わかってるわよ」とむくれたエリスが再度左手を突き出す。
「こっち……。こっちに宝具級のなにかを感じるわ」
今度はちゃんと歩きながら言っていたので、俺達はエリスの後を追う。
彼女の後をしばらく追うと、ピタッと止まる。
エリスは感知の魔法をやめた。
「ここよ」
俺達の目の前には巨大な船があった。
随分と昔に沈没してしまったのか、船木は割れて色褪せている。
帆の先にドクロマークが描かれた旗が見えたので海賊船と予想できる。
「この中に感じるわね」
「海賊船か……。財宝の中に『海のオーブ』が混じっているって感じかな」
「多分ね」
そう言いながらエリスが中に入ろうとするのを「待ってください」とルナが止めた。
「この中に魔物の波動を感じます。いつも通りの隊列で向かいましょう」
「ルナが言うなら間違いないわね」
エリスはルナの指示に従い、前衛のローラ、ルナ。後衛のフレデリカ、エリスのいつもの隊列を組んだ。
「リッタ様はいつも通り、遊撃隊でお願いします」
「おっけー」
勇者パーティと同行して、魔物がいるダンジョンを進む時は、大抵その立ち位置だ。
俺のスキルは臨機応変。その位置でこそ輝くからね。
「今回は魔物が出ますので気を引き締めていきましょう」
ルナに続いて俺達は大昔に沈んだと思われる海賊船の中へと入って行った。




