EP14 アイリス戦
今回は戦闘話のはずなのに、ほとんどが心理的描写とアイリスの過去のお話です。
ではどうぞ!!
「やれそれ・・・」
迫りくる炎を幻想創造で打ち消しながら、俺は一人そう愚痴る。
俺の前では、険しい表情をしたアイリスが、すぐさま新しい炎を生み出して放ってくるのが見えた。
「もういい加減気づけよな。」
俺はため息をつきながら、近づく炎を消滅させる。
「っく!!」
アイリスが、もう何度目かわからない苦痛な表情になる。
しかし何故彼女が自分に攻撃してくるのか、俺にはわからない。
「確かめる必要があるか・・・」
彼女には聞こえない程度に俺は呟いた。
このままでも良くないのは俺でもわかるし、何よりせっかく部屋で寝ているエリスにも迷惑だ。
俺が先程の彼女らのやり取りを見る限り、アイリスはエリスに忠誠を誓っているみたいだし、仲も悪いようには見えない。
むしろ良い方だと思った。
でも今、アイリスはこうして俺に武器を向けてくあたりには、何かしらの理由があるのだと感じ始めた。
「とにかく・・・・今は、彼女の心情を把握しないとな。」
そう考え、俺はあまり使いたくない方法を使うことにした。
俺自身も、この方法には反対だが、今の状況を考えるとそう思っている暇もなかった。
「我望むは・・・・」
それは、幻想創造を使って、彼女の想いを確かめるというものだ。
何でも願いを叶える幻想創造
人の心を知るのも、幻想創造に掛かれば造作もない事なのだ。
「・・・汝の想いを知ることを望む。」
俺が唱えた瞬間、俺の心にアイリスの想いが流れ込んできた。
私が主に出逢ったのは、私が7つの時だった。
その時の私の心は、絶望のどん底にいた
何故なら・・・その時の私は
「おい!!さっさと歩け!!!この奴隷が!!」
後ろから奴隷商人の声が聞こえて、その直後に背中に痛みが走った。
それが後ろから商人に蹴られたのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
私は口答えなどせず、ただ言われたとおりに歩いていく。
服もボロボロで、至る所に穴があき、その身体は傷や痣だらけだった。
そう、あの時私は親に捨てられ、彷徨っていた所を商人に捕まり、奴隷として生活していたのだった。
当時のカ―ラス王国はまだダイハート王の即位が行われておらず、その為治安が一時悪化した時期があった。
なにせ前の国王が、自らの欲望のままに、法などの改善など行い続けた結果だった。
さすがに、奴隷制度はなかったものの、商人にとっては、絶好の得物だった為、私の様な親に捨てられた子や親のいない孤児などが捕まる事は多かった。
私の親も、そうした王の欲望の為に、心身ともにボロボロにされてしまった。
そうして親は、生活苦に苦しんで、当時幼かった私を置いて姿を消した。
だから私は、こうして奴隷として生きているのだった。
たぶんもう、元の生活には戻れないんだろうな・・・・
そう思っていた時だった。
「これ、そこ商人よ。待つのじゃ!!」
凛とした女性の声が、私に聞こえてきた。
「あぁ!!誰だ?!」
背後から、商人の怒った声が聞こえてくるが、私にはもうどうなっても構わない。
もう私には、生きる意味なんてなかったのだから・・・・
だからこのまま・・・・・
だが、その後聞こえてきたのは、予想外の言葉だった。
「わらわはエリス・フォン・カーラスライトじゃ!そなたの後ろにいるのはなんじゃ?見るからに、そなたの子ではないようじゃが。」
私はゆっくりと後ろに振り返った。
そこには、護衛の兵を連れた、エメラルド色の髪をした私より年下の姿をした主がいました。
「なっ!!あのダイハート伯爵の娘が何故ここに?!」
主を見た瞬間、商人が見るからに動揺したのが見えた。
その反応に主の眼が微かに動くの見えた。
「ほう・・・わらわがいては迷惑なのかの。もしやと思うが、その子はもしや奴隷ではあるまいな?そうならただではすまさんが?」
主の傍にいた護衛の兵たちが、一斉に剣を抜く。
その行動に、商人の表情が青ざめた。
「くっ・・・・・・何を言ってるんですか?こいつとは何の関係もないですよ。唯の気の所為じゃないですかね?」
商人は私とは無関係の様に振舞うが、主はそれを見逃さず真実を突き付ける。
「うむ、先程『さっさと歩け!この奴隷が!!』と言っていたのは、誰じゃったかな?わらわの聞き間違いではなかったように思えるのだが?どうじゃった?」
「はっ!!確かに私もそのような言葉を聞きとりました。」
エリスが近くにいた兵に確認すると、兵はそれを肯定した。
もはや、完全に詰みの状態だった。
「というわけじゃ。覚悟はよいな?」
エリスの言葉と共に兵が一斉に、商人を取り囲む
「まっ!!待ってくれ!!これには訳が・・・」
必死に弁解しようとする商人。
その時私は、主の兵によって、主の近くに誘導されていた。
そして私は主を見た。
主は私を見て微笑むと、ゆっくりと商人を睨みつけた。
「もはや手加減は無用じゃ。今後おぬしには、二度と日の光は浴びせぬ。徹底的にボコボコにしてやるから、覚悟すのじゃぞ!!」
「う・・・うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
主の断罪の言葉が放たれた瞬間、商人は兵たちによって、文字通りボコボコにされたのだった。
「うむ。それほど大した怪我はしておらぬが、あちこちボロボロじゃな。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
主の言葉に私は何も言えなかった。
今私は、主とともに、主の馬車で主の屋敷に向かっているところだ。
馬車の中には、私と主だけしかおらず、護衛の兵達は、馬車の後ろからついてきている。
と
「うーん?何か言ってくれぬと、わらわとしては困るのじゃがな・・・」
主がそう私に問いかけてきた。
そこで私は、ずっと聞きたかった事を聞いてみる事にした。
「・・・・・・・・どうして?」
「うむ?」
「どうして・・・・・・私を助けたの?」
そう・・・どうしてわたしなんかを助けてくれたのだろう?
それだけがずっと引っ掛かっていたのだ。
その言葉に、主は女の子なのに胡坐をかいて、あぁ、その事かと言いながら頭をわしゃわしゃとかいた。
「・・・・・・・・」
その行動を見ると、私にはとても貴族には見えなかった。
「何故と言われてもな。わらわは唯、あのままそなたを放っておくのはいかんせんと思ったから、助けただけじゃ。」
「え・・・」
主の言葉に、私は動揺した。
何の得も利益もないのに私を助けた?
唯の奴隷の私を?
その言葉は私とって理解するには難しい事だった。
「そんな・・・・それだけの理由で?」
私の問いに、主はうむとしっかりと頷いた。
「そうじゃ!それだけの理由があれば、助ける理由は十分じゃ。」
「でも・・・・わたしなんか『だからじゃ』・・え?」
私が言おうとした時に、主の声が聞こえたのと同時に身体に温もりを感じた。
「誰がどう言おうと、わらわはそなたを助けたであろう。」
「あ・・・・・・・」
「唯助けたい。理由はそれだけで十分じゃ。」
主が私を抱きしめて、語りかけてくれる。
「これからそなたの人生は大きく変わってゆく。そこでじゃ、一つそなたに頼みがある。」
「頼み?」
温もりを感じながら、私は主の言葉に耳を傾ける。
「なに・・・・大したことではないのだがな・・・」
そう言って、主は私から離れる。
離れた主の顔は、若干赤くなっていた。
「うむ・・・・いざ言おうとすると、緊張するものだな。お父様には普通と言えるのだがな・・・」
主の言葉に私は首をかしげた。
主は、視線をあちらこちらに彷徨わせるが、やがて意を決したかのように私を見た。
「・・・・・わらわの・・・・・・友達になってほしいのじゃ!」
「・・・・・・はい?」
主の言葉に、私はそう問い返してしまった。
「だから・・・・・わらわの友達になってほしいといったのじゃ!」
「うん・・・それは分ったけど、どうして?」
私がそう問うと
「っ!!」
主は顔を真っ赤にして、オロオロしだした。
それがすごく面白くて・・・・
「・・・・ふふっ。」
「む!なんじゃ、わらわに対して、笑うとはなんじゃ!!」
そんな主の姿を見て、おもわず私は笑ってしまった。
それを見た主が、怒りながら頬を膨らませる。
でもその表情は、怒るというよりも、むしろ楽しんでいるように私には感じ取れた。
「・・・・・うん、わかった。なります、あなたの友達に。」
「う、うむ!!そうじゃな!それがいいだろう。」
そう言うと、主は何故か腕組をしながらうんうんと頷いた。
「そうじゃ!まだ名を聞いてなかったな。」
「あぁ・・・そうだね。」
そう言って、私は自分の名前を言った。
「私の名は、アイリス。アイリス・サーテチカです。よろしくお願いしますエリス様!!」
それを聞いた、主はムッとした表情になる。
「様は不要じゃ。今は普通にエリスと呼んでくれたほうがよい。流石に公共の場とかではそう呼ばねばならぬが、今はよい。」
「うん、じゃあエリス!よろしくね!!」
私がそう言うと、主は満足そうにほほ笑んだ。
「うむ!!こちらこそじゃ!よろしく頼むぞ、アイリス!!!」
その後、私は主の屋敷の執事として働くこととなった。
同時に、ダイハート様から、主の世話係を命じられた。
執事として働いている内に、主の事が徐々にわかってきた。
まず、主には友達が少ない。
私が聞いたところによると、主は幼い時から、ダイハート様の仕事上の関係で、家にいることが殆どで、滅多に家から出る事はなかったのだという。
その為に、主はさびしい思いをしていた事を、当時世話係をしていた執事長が話してくれた。
ダイハート様もその事はとても気にしていたそうで、何とか出来ないものかと考えていたのだという。
そこに私という子が来たのだから、その喜びようはすごかった。
更に、私が奴隷だということも、ダイハート様は重く受け止めてくれて、すまなかったと私に謝罪してくれた。
私としては、こうして新しい生活が手に入ったのだがら謝られる必要はないのだが、ダイハート様はそれでもと言ってくれたことが、非常にうれしかった。
現にダイハート様が王に即位されてからは、奴隷問題が一気に激減したのは、私が原因なのだと、私は思っている。
そこからは充実した毎日だった。
毎日執事長から厳しいレッスンをうける日々だけど、それが何より楽しい。
主と毎日いろんな話をして、色んな所に出かけて、本当によかったと今では思う。
それから12年という月日が過ぎた。
成長した私は、執事から主の護衛係となり、日々公務で忙しい主を支える立場となった。
執事となってから習いだした魔法を、日々鍛錬したことで、今では王女精鋭護衛部隊の中でトップクラスの実績を収めるまでになった。
だが最近、王都内で不穏な空気が流れ始めるようになった
そうしたなか起きたダイハート様の死
主の悲しみはとてもじゃないが言葉に表す事は出来ないだろう。
そして襲いかかる賊を倒しながら、私は何もできない自分を呪った。
どうして私は、こんなにも無力なのだろう・・・・
そう考えるうちに、敵に囲まれてしまい、手段がなくなった時
彼は現れた。
私たちが苦戦した相手を、いとも簡単に蹴散らした彼に、私は恐怖を感じた。
だからだろうか・・・・
このままだと、私は・・・・・・
「・・・・・なるほどな。」
俺は、アイリスの想いを感じ取りながら、彼女が放つ魔法を消し続ける。
既に開始から20分近くが経過しており、ずっと攻撃しているアイリスの顔が徐々に青ざめ始めている。
なんせ数時間前まで戦っていた人間が、ろくに回復もせずに全力で魔法を放ち続けたらそうなるのは無理もなかった。
だからこのまま、彼女を戦わせるのは危険だった。
「仕方ないか・・・」
もうここまできたら、少々荒っぽいが強引に終わらせるしかない。
今の彼女が、話し合い程度で止まるのはおそらく無理だろう。
「・・・・・ん?」
そう思って行動に移そうとした時、突如家の方から気配を感じた。
俺は気配を感じながらも、アイリスから視線は外さない。
「・・・・・・・よし。」
考える事数秒、俺は行動に出た。
「なぁアイリス!」
「・・・・・・・」
俺は動くのをやめて、立ち止る。
同時にアイリスも杖を俺に向けたまま立ち止る。
静寂が辺りを包み込む。
「お前が俺を襲う理由は、大体想像がついた。そこでだ、俺が今から話す事は推測だが、もしよければ聞いてほしい。」
俺の言葉に、アイリスは依然杖を向けたまま、俺を見る。
「まぁ、失礼だと思ったんだが、お前の心を読ませてもらった。」
「・・・・ぇ?」
そこで初めて、アイリスは動揺の表情を見せた。
「お前・・・・・俺のもつ強さに、嫉妬したんだろう。」
「ッ!!」
驚くアイリスを見ながら、俺は更に問いかける。
「そりゃあ、自分が歯が立たなくて叶わない相手を、一瞬で蹴散らしたんだから、そう思うのはわかる。」
「・・・・・・・」
アイリスは視線を漂わせながら、どうしてといった表情を向けてくる。
だが、彼女が思っている本当の理由はそこではない。もっと根元の部分だ。
それを確かめる為に、俺はアイリスに問いかけた。
「まぁそうだとしてもだ、例え俺が強かろうが、お前の主はお前を見捨てたりはしないと思うぞ。」
「!!!!」
アイリス眼を見開くと、そのまま地面に膝をついた。
同時に持っていた杖を手から離れる。
それを確認した俺は、彼女に優しく問いかける。
「アイリス。お前とエリスの仲は、その程度で断ち切れるものではないはずだ。お前自身もわかってるんだろう?」
「・・・・・・・・(コクッ)」
うつむきながらも、アイリスはゆっくりと頷くのが見えた。
わかっていても、納得できない事がある。
それは誰だって起きるものなのだ。
今回のアイリスの様に、わかっててもつい行動に出てしまうものも少なくない。
更に、自分を助けてくれたダイハート王や、彼女の仲間たちの死もそれに拍車をかけたのだからなおさらだ。
だからこそ・・・・
「俺が聞きたかったのはここまでだ。後は頼むな・・・・・・・エリス。」
そう言うと俺は、家の扉の方を見る。
その瞬間、ガチャという扉が開く音が聞こえて・・・・
「・・・・まったく、何をしておるのじゃアイリス。」
エリスがその姿を現した。
夜が明けるまで、あと少し・・・・・




