EP 7
ツナマヨ丼で最強のビジネスパートナーを得て、これからのバラ色のデリバリー生活に胸を躍らせていた、まさにその瞬間だった。
ダァァンッ!!
事務所のドアが蹴破られ、紅蓮の鎧を着た女が、巨大な魔導式ショットガンの銃口をこちらに向けた。
「そこまでだ、違法薬物の密売人! その危険なブツ、私が全て叩き斬る!」
紅蓮の戦乙女と名高い賞金稼ぎ、ダイヤ・カギタ。
全身に暗器を仕込み、背中には身の丈ほどもある大剣『天魔竜聖剣』を背負った彼女が、殺気を放ちながら俺を睨みつけていた。
「い、違法薬物!? 拙者、しがないルナ・イーツの配達員でござるよ!?」
「とぼけるな! 国境付近の兵士たちが『あの肉とタレの結晶がないと生きていけない』『もっとよこせ』と涎を垂らして泣き叫んでいるという情報が入っている! 兵士を廃人にする洗脳薬物め!」
(それ、ただ牛丼の美味さに依存してるだけでござるゥゥゥ!)
異世界の飯がマズすぎるせいで、完全にヤバい麻薬の売人扱いされている。
ダイヤが魔導式ショットガンの引き金に指をかけた。
「リ、リベラ先生! 顧問弁護士として助けるでござる!」
「あー、これは刑事事件の現行犯逮捕の体じゃから、一旦逮捕されてから呼んでええよ。私、お茶飲んどるし」
「ニャングル殿!」
「ワテ、争い事は好かん主義やねん。ほな!」
極道弁護士と猫耳商人は、サッと机の陰に隠れてしまった。頼りにならない!
「覚悟しろ、悪党!」
ズドンッ! と放たれた魔力弾を、俺はロードの背中に隠れてギリギリで回避する。
事務所の中で大立ち回りが始まり、ダイヤは次々と武器を切り替えながら猛然と迫ってくる。圧倒的な戦闘力。このままではミンチにされる。
「ならば防御特化の丼で凌ぐでござる! 【丼マスター】! 『石焼きビビンバ丼(激熱)』を召喚!」
ポンッ!
俺の手の中に、カンカンに熱せられた黒い石鍋の丼が現れた。
ジュージューと焼けるナムルと牛肉の音。俺はそこへ、特製のコチュジャンだれとごま油を一気に回し入れた。
ジュワァァァァァァッ!!
「なっ、なんだこの煙は!?」
「日本の『石焼き』の概念でござる! 300度に熱せられた石鍋に水分の多いタレをぶち込むことで起きる、急激な水蒸気爆発! さらにごま油と焦げたコチュジャンの暴力的な香りが、敵の嗅覚と視覚を同時に奪う『熱源・嗅覚ジャミング』となるでござる!」
立ち込める濃厚な焼肉の匂いと猛烈な湯気が、事務所内を真っ白に染め上げた。
「くっ……小賢しい真似を! だが、私の正義は煙などでは揺るがない! 『バーニング・オーラ・ブレイク』!」
だが、相手はSクラスの賞金稼ぎ。
ダイヤは天魔竜聖剣を引き抜くと、闘気を纏わせた一撃で、石焼きビビンバの煙幕ごと部屋の空気を真っ二つに両断した。
「ヒィッ!?」
吹き飛ばされた俺の首筋に、熱を帯びた大剣の刃がピタリと突きつけられる。
勝負ありだ。冷や汗が滝のように流れ落ちる。
「……年貢の納め時だ、売人。最後に言い残すことはあるか?」
氷のように冷たい声で、ダイヤが死刑宣告を下した。
俺はギュッと目を閉じ、死を覚悟した。しかし、剣が振り下ろされることはなかった。
代わりに。
――ギュルルルルルゥゥゥゥ〜〜〜……。
静まり返った事務所に、ひどく間の抜けた、そして盛大な腹の虫の音が響き渡った。
そっと目を開けると、俺に剣を突きつけたまま、紅蓮の戦乙女が顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。
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