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EP 6

煙管の甘い煙と共に現れた猫耳の男は、チャカチャカと算盤を弾きながらリベラの事務所に上がり込んできた。

「まいど! ゴルド商会のニャングルでっせ。ええ匂いに釣られて来ましたわ」

ピンと立った猫耳をピクピクさせながら、彼は俺の顔と『ルナ・イーツ』の四角いバッグを交互に見て、ニヤリと笑った。

ニャングルはポポロ村の財務担当でもあり、どうやらリベラとも面識があるらしい。

「リベラ先生、リーザはんの借金、ウチの商会がマグローザ漁船の業者から債権を買い取らせてもらいましてん」

「チッ、また抜け目ないことしよって。で、私らはスイーツ顧問契約で忙しいんじゃが、何の用ね?」

パフェ丼を完食して機嫌のいいリベラが、お茶をすすりながら返す。

ニャングルの金色の瞳が、俺をギロリと射抜いた。

「あんさんやな。『ゲロオムレツ』で発狂寸前やったルナミス兵を、たった一杯の丼で黙らせたっちゅう魔法の料理人は」

「魔法使いではなく、善良なデリバリー業者でござるが」

「どっちでもええわ。ええか兄さん、今、ポポロ村周辺の緩衝地帯はお宝の山やねん」

ニャングルは算盤を弾きながら熱弁を振るう。

ルナミス帝国の『ゲロオムレツ』、天使族の『聖なるレンガ黒パンと青汁』。各国のレーションは兵士の士気を底なし沼に沈めるほど絶望的にマズい。

「そこに、あんさんの美味い丼をデリバリーする。兵士は金貨を積んででも買うで。ウチが流通と護衛を仕切る。利益はウチが八、あんさんが二でどや?」

ふっかけられた。

しかもニャングルの目は、相手の微細な表情の変化や発汗を見抜く『神眼の動体視力』。嘘やハッタリは一切通用しない。

「利益二割……拙者、社畜として搾取されるのはもう御免でござる!」

前世のトラウマが蘇り、俺は対抗策に出た。

「【丼マスター】! 『特製ツナマヨ丼(極上鰹節まぶし)』を召喚!」

ポンッ!

温かいご飯の上に、マヨネーズで和えたツナがたっぷり乗り、その上から踊るような極上の鰹節が山のようにまぶされた一杯だ。

「なんやこれ、魚の匂いが……」

「日本の『ツナマヨ』と『極上鰹節』の概念でござる! ツナの良質なタンパク質とマヨネーズの脂質、そして鰹節のイノシン酸が、猫科の本能を限界まで刺激する劇薬となる!」

ふわりと香る濃厚な鰹節の匂いに、ニャングルの金色の瞳孔が限界までまん丸に広がった。

「あかん……この匂い、脳髄が痺れるわ……!」

「交渉の主導権は、胃袋を握った者が得る! さあ、食うでござる!」

ニャングルは算盤を放り出し、ツナマヨ丼に顔を突っ込んだ。

「フニャァァァ! まろやかなマヨとツナの旨味が、鰹節の香りで無限に広がるんや! アカン、理性が、商人の理性が溶けてまうゥゥゥ!」

コテコテの関西弁商人が、猫のように喉をゴロゴロと鳴らして丼を夢中で舐め回す。

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「ぷはぁっ! 負けや……兄さん、あんたの勝ちや。利益は五分五分でええ。その代わり、このツナマヨ丼、毎日ワテの賄いにしてくれ!」

「交渉成立でござるな!」

こうして俺は、ゴルド商会という最強のコネとビジネスパートナーを、ツナマヨ丼一つで手に入れた。

これで借金問題もビジネスも軌道に乗る。そう安堵した直後だった。

ダァァンッ!!

事務所のドアが蹴破られ、紅蓮の鎧を着た女が、巨大な銃口をこちらに向けた。

「そこまでだ、違法薬物の密売人! その危険なブツ(丼)、私が叩き斬る!」

平穏なデリバリー生活は、まだまだ遠いらしい。

お読みいただきありがとうございます!


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