EP 5
「絶対見捨てないでね良樹さぁぁん!」と泣きつくリーザを引きずり、俺はポポロ村の一角にある古びた建物にやって来た。
バチバチッ!!
ドアを開けた瞬間、青白い火花が散り、強烈なオゾン臭と極道のオーラが俺の鼻腔を殴りつけた。
「よう来たね。あんたがこのポンコツアイドルの『パトロン』兼、連帯保証人じゃな?」
そこには、仕立ての良いスーツを着こなし、片手にスタンガン、もう片手に分厚い六法全書を持った女が立っていた。
桜田リベラ。ポポロ村で『悪人専門の法律事務所』を営む、元・日本政府首席国際法務官だ。
そして彼女の足元では、三つの頭を持つ魔犬――ケルベロスが、俺を値踏みするように低く唸っている。
「ち、違うでござる! 拙者はただ海鮮丼をツケで食わせただけで、連帯保証人なんてサインしてないでござる!」
「嘘はいけんよ。うちの『アモン』は、嘘つきの匂いを嗅ぐと鼻がピクッと動くんじゃ」
リベラが冷たい視線を向けると、ケルベロスのアモンの真ん中の鼻がピクリと動いた。
「ほら、嘘じゃ」
「いや動いたの犬の鼻でござるよね!? リーザ殿、お主いったいどこからお金を借りたでござるか!」
俺が問い詰めると、リーザは目を泳がせた。
「そ、それは……マグローザ漁船行きか蟹工船行きかっていう優しいお兄さんたちから……」
「超絶ブラックな闇金じゃないか!」
リベラはため息をつき、スタンガンのスイッチを切った。
「まったく。法外な利息を取る業者に対しては、債務不存在の確認と過払い金請求で徹底的に叩き潰すんじゃが……あんた、裁判費用はどうやって払う気なん?」
「出世払いで!」とリーザが胸を張る。
「アモン、やれ」
「グルルルル!」
「ごめんなさい良樹さん払ってぇぇぇ!」
泣き叫ぶリーザと、容赦なく詰め寄るケルベロス。
俺は絶体絶命のピンチに陥ったが、ふとリベラのデスクの上に目を向けた。
難解な法律書に混じって、可愛らしい『お菓子作りのレシピ本』が置かれている。さらに、室内にはほんのりと上質な紅茶の香りが漂っていた。
(……この極道弁護士、もしや大の甘党でござるか?)
俺は中二病のハッタリをかなぐり捨て、営業スマイルを浮かべた。
「リベラ先生! 裁判費用、お金の代わりに『至高の甘味』でお支払いするのはいかがでござるか!?」
「あぁん? 私は生半可な菓子じゃ誤魔化されんよ……」
「【丼マスター】! 『特製抹茶白玉パフェ丼』を召喚!」
ポンッ!
俺の手の中に、ガラスの器に入った色鮮やかな丼が現れた。
濃厚な抹茶アイスクリーム、もっちもちの白玉、艶やかな粒あん、そして甘さ控えめのホイップクリームが、美しい層を成している和洋折衷のスイーツ丼だ。
「な……アイス、だと? 魔法冷却じゃなく、本物の……?」
リベラの目が、スタンガンを見た時より鋭く光った。
彼女は六法全書を放り投げ、スプーン(タローマン製)をひったくると、抹茶アイスと白玉を同時にすくって口へ運んだ。
その瞬間。
バキィッ! という幻聴が聞こえるほど、極道弁護士の顔面から険しさが崩れ去った。
「ぶち美味えが……ッ!」
彼女の口から、本気の岡山弁が漏れた。
「なんなんこれ! 抹茶の奥深い苦味が、小豆の暴力的な甘さを完璧に調和させとる! そしてこの白玉……噛めば噛むほどモチモチと反発して、脳の報酬系を直接ぶん殴ってくるわ!」
「日本の『パフェ』の概念は、温度差と食感の層によるエンターテインメント! 冷たいアイスとモチモチの白玉のコンボは、疲れた現代人の血糖値を爆速でハッピーにするでござるよ!」
「ああっ……法に縛られ修羅を生きる私の心が、ホイップクリームみたいに溶けていくゥゥゥ……!」
さっきまで極道だったリベラが、ふにゃふにゃの笑顔になってパフェ丼をかき込んでいる。足元のアモンも、こぼれたクリームを舐めて尻尾を千切れんばかりに振っていた。
《ピコン♪ 修羅に落ちた弁護士の心を癒やしました。善行ポイント400P獲得!》
「リベラ先生、これでリーザ殿の件、お願いできるでござるか?」
「ふふっ……ええよ。その代わり、あんた、うちの事務所の『専属スイーツ顧問』になりなさい。嫌とは言わせんよ?」
甘いものには勝てなかったらしい。こうして俺は、最強の悪人専門弁護士を胃袋で買収することに成功した。
「よしよし、これで一安心ね!」とリーザが立ち上がった。
その時、事務所のドアがガチャリと開き、煙管の匂いと共に聞き慣れない声が響いた。
「まいど! なにやら甘ええ匂いがしまんなぁ。ワテの鼻は誤魔化せまへんで!」
そこに立っていたのは、算盤を片手に持った、猫耳族の商人だった。
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