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EP 4

ポポロ村の薄暗い路地裏。ルナ・イーツの初依頼に向かった俺とロードは、信じられない光景を目にしていた。

「ウゥゥ……ガルルルル!」

「シャーッ! このタローソンの廃棄弁当は私のよ! 渡さないんだから!」

野良犬と本気の威嚇合戦をしている、芋ジャージに健康サンダル姿の美少女がそこにいた。

「……兄貴、あれが依頼主か?」

「拙者にも分からないでござるが、とりあえず犬と弁当を奪い合ってる時点で色々と限界突破してるでござるな」

俺は咳払いを一つして、路地裏に足を踏み入れた。

「あの、ルナ・イーツでござる。美味しいものを求むという通信はそちらからで……」

「ハッ!?」

美少女は野良犬から弁当を死守したまま、こちらを振り向いた。

ルナミスデパートの化粧品テスターでバッチリとメイクを決めているが、片手にはタローソンの廃棄弁当、もう片方のポケットからは『パンの耳』がはみ出している。

「わ、私は海中国家シーランの元・人魚姫! 今はルナミス帝国で大人気の絶対無敵スパチャアイドル、リーザよ! べ、別に野良犬と喧嘩なんかしてないんだから!」

「いや、バッチリ威嚇してたやんけ」とロードが的確にツッコむ。

「ぐっ……そ、それは……アイドルの過酷な生存競争の一環であって……」

言い訳をしようとしたリーザの腹から、ギュルルルルルゥゥと、地鳴りのような音が響いた。

虚勢を張っていた彼女の瞳から、ポロポロと涙がこぼれる。

「うぅ……本当は、パンの耳と茹で卵しか食べてないの……。キャルルちゃんの家で出される朝ごはんは美味しいけど、アイドルのプライドが施しを受け取るのを拒否して……」

同居人キャルルの朝ごはんは食べるんかい!)

内心でツッコミつつ、俺は彼女の哀れな姿に『善行ポイント』の気配を感じ取った。

「泣かないでござる、リーザ殿。拙者が至高の食事を提供するでござるよ! 【丼マスター】!」

俺は善行ポイントを消費し、彼女の前に『究極の海鮮丼(豪華ウニ・イクラ・マグロ乗せ)』を召喚した。

酢飯の上に、これでもかと乗せられた新鮮な海の幸。キラキラと輝くイクラ、黄金色のウニ、そして脂の乗った大トロ。日本の海鮮技術と酢飯の概念が詰まった一杯だ。

「え……? お魚? でも、焼いても煮てもないわよ? 生のままなんて……」

海中国家出身とはいえ、アナスタシア世界では海鮮の生食文化が未発達らしい。

「フッ、騙されたと思って食べてみるでござる」

リーザは恐る恐るマグロの切り身を口に運んだ。

その瞬間。

「ッ!?」

リーザの目が、金貨を見つけた時のようにカッと見開かれた。

「な、なにこれぇ!? 口の中でとろけた!? 酢飯の爽やかな酸味が、お魚の濃厚な脂を包み込んで……それにこの、プチプチ弾けるイクラの塩気! 私の知ってる海鮮と全然違う!」

日本の『酢飯と生魚の絶妙なマリアージュ』という概念は、海を知り尽くしたはずの人魚姫の味覚すらも完全に破壊した。

「美味しい、美味しいよぉぉぉ! パンの耳より何万倍も美味しいぃぃぃ!」

リーザはアイドルとしての矜持を完全に捨て去り、芋ジャージの袖で涙を拭いながら海鮮丼を爆速でかき込んだ。

《ピコン♪ 飢えた元・人魚姫を救いました。善行ポイント400P獲得!》

「ぷはぁーっ! ごちそうさまでした!」

空になった丼を抱え、リーザは満面の笑みを浮かべた。

「さて、お代は銀貨一枚でござるが」

「あ……」

リーザはサッと目を逸らし、両手で顔を覆った。

「お、お金はないわ……! でも、代わりに私の歌『Love & Money』を歌ってあげる! だから出世払いでお願い!」

「歌で払えるのはスナックだけでござるよ!」

結局、俺は彼女に海鮮丼の代金をツケる羽目になった。

だが、この出会いが更なるトラブルを引き起こすことになるとは、この時の俺は知る由もなかった。

翌日。ルナイーツの配達準備をしていた俺の元に、リーザが涙目で駆け込んで来た。

「助けて良樹さん! ヤバい借金取りの魔の手が迫ってるの! すっごく怖い弁護士のところに連れて行かれちゃう!」

「はぁ!? 拙者、そんなトラブル聞いてないでござるが!?」

俺の平穏なデリバリー生活は、早くも崩壊の危機を迎えていた。

お読みいただきありがとうございます!


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