EP 3
キャルルの重い愛(朝から山盛りの人参サラダ)を笑顔で受け流しつつ、俺は配達用の乗り物を探すため村の牧場へ向かった。
「せやからワテは、そんな下等なトカゲとちゃう言うとるやろが!」
檻の中で、コテコテの関西弁を喋るトカゲ(ジオ・リザード)が、農家のおっさんと口論していた。
「うるせえ! お前みたいな言うこと聞かねえ賢竜もどきは、解体して串焼きにしてやる!」
「やったろやないかい! ワテのプチブレスで黒焦げにしたるわ!」
プップッ、とトカゲの口からチャッカマン程度の小さな火の玉が吐き出され、おっさんの髭を焦がす。
「あちち! ええい、今日という今日は肉にしてやる!」
おっさんがナタを振り上げた。
(ヤバい。あいつ、喋るトカゲのくせに絶体絶命でござる!)
俺は慌てて間に割って入った。
「待つでござる! そのトカゲ、拙者が買い取るゆえ!」
「あ? あんた、キャルル村長んとこの……。まぁ、銀貨三枚払うなら持っていっていいぞ」
俺は女神リリスから転生時に押し付けられたエンジェルすまーとふぉん(財布機能付き)から銀貨を払い、トカゲを引き取った。
《ピコン♪ 殺処分寸前の命を救いました。善行ポイント300P獲得!》
(よし! チョロい!)
「フン。助けられたからって、ワテが素直に背中を貸すと思うなよ? ワテは誇り高き竜やからな!」
助けられたトカゲ――ロードは、腕(前足)を組んでふんぞり返った。
「な、なんだと? 拙者の竜撃砲(※ただのドワーフ製筒)の餌食になりたいでござるか!?」
「ハッ、そんなオモチャでワテがビビるかいな」
完全に舐められている。
中二病のハッタリは関西弁には通じないらしい。
だが、俺には最強の武器がある。
「ならば、これでどうでござる! 【丼マスター】!」
俺は手の中に一つの丼を召喚した。
『海鮮漬け丼(出汁茶漬け付き)』だ。
新鮮なピラダイ(鯛より美味い凶暴魚)の切り身を特製醤油ダレに漬け込み、熱々のご飯に乗せた一品。さらに横には、カツオと昆布から抽出した極上の黄金出汁が入った急須が添えられている。
「なんやそれ。魚の切り身乗っけただけやんけ」
「フッ、まずはそのまま食い、次にこの『出汁』をかけるでござる」
ロードはペロッと舌を出し、漬け丼を一口食べた。
「……ん? この魚、ピラダイか? 漬けダレの甘みと塩気が絶妙に絡んで……悪くないやんけ」
「ここからが本番でござるよ」
俺は急須を傾け、丼の半分ほどに黄金の出汁を注いだ。
湯気と共に、芳醇なカツオと昆布の香りがフワリと立ち昇る。
ロードがズズッ……と出汁茶漬けをすする。
ピタッ。
ロードの動きが完全に止まった。
瞳孔が限界まで見開き、鱗がブルブルと震え出す。
「な、なんやねんこの複雑で深い旨味はァァァ!? 古代大戦の時に食うた幻の魚より美味いやんけ……! 舌の上の細胞が、出汁の旨味で全部リセットされていくゥゥゥ!」
「日本の『出汁』の概念は、アミノ酸とイノシン酸の相乗効果! 異世界の野生の味覚には劇薬でござるよ!」
「あかん、旨すぎる……! 兄貴! 一生ワテにこれ食わせてくれ!」
さっきまでのプライドはどこへやら、ロードは俺の足元にすり寄り、完全にデレた。
「フハハハハ! 拙者のルナイーツの足となるなら、安いものでござる!」
俺と喋るトカゲの、異世界デリバリーの凸凹コンビが結成された瞬間だった。
その時、俺の首から下げた『魔導通信石』がチカチカと点滅し、震える声が響いた。
『ポポロ村の路地裏ですぅ……至急、パンの耳と雑草より美味しいものを求む……報酬は、出世払いで……』
記念すべき、ルナイーツの初依頼だった。
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