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EP 2

ルナイーツの四角いロゴ入りバッグを背負い、のどかな農村――ポポロ村の入り口に辿り着いて一息ついた、その時だった。

ドゴォォォンッ!!

村の入り口で、白うさ耳の可愛い美少女が、筋骨隆々の大男をダブルトンファーで空の彼方へ殴り飛ばしていた。

「あははっ! 村の平和を乱す人は、ミンチにして畑の肥料にしますね♡」

宙を舞う男を背景に、ラフな現代風の服と安全靴を身にまとった美少女が、可憐な笑みを浮かべて言い放つ。

その足元には、全身の骨を砕かれて白目を剥いたならず者たちが、すでに5、6人転がっていた。

圧倒的暴力。

牛丼屋で酔っ払いに絡まれるのとは次元が違う、異世界のリアルな死の気配。

「ヒィッ!?」

俺が思わず短い悲鳴を上げると、ウサギ耳の美少女がクルリとこちらを振り返った。

その手には、まだ鈍く光るトンファーが握られている。

「……あら? あなた、この辺りでは見ない顔ですね。もしかして、あのゴミたちの仲間ですか?」

笑顔のまま、彼女から放たれる凄まじい殺気が俺の喉を締め付ける。

俺は本能的に中二病のスイッチを入れ、両手を挙げて全力で降伏のポーズをとった。

「ち、違うでござる! 拙者はただの通りすがりの……デリバリー業者、ルナ・イーツの配達員でござるよ!」

「ルナ・イーツ……? 帝国の新しい諜報部隊ですか?」

「違う違う! 食べ物を運ぶだけの善良な一般ピーポー!」

ジリッ、と彼女が一歩踏み出した瞬間。

――グゥゥゥ〜〜〜。

俺の腹から、盛大な虫の音が鳴り響いた。

転生してから歩き通しで、実は何も食べていなかったのだ。

静まり返る村の入り口。彼女はキョトンと目を瞬かせた後、ふわりと殺気を引っ込めた。

「ふふっ。お腹、空いてるんですか? 嘘のつけない可愛い音ですね」

「……面目ない」

「私はキャルル・ムーンハート。このポポロ村の村長をしています。怪我をしていないなら、少し休んでいきませんか?」

     *

案内された村長宅で、キャルルは手際よく陽薬草という青々とした薬草をすり潰していた。

しかし、その顔色はどこか蒼白で、息も荒い。

「村長さん、大丈夫でござるか? 顔色が悪いけど……」

「平気ですよ。ちょっと昨日、村の皆さんに『月光薬』を作りすぎて……ケホッ!」

キャルルが口元を押さえると、指の隙間からタラリと赤い血が垂れた。

平気じゃない! 明らかに吐血してる!

「ちょっ、血! 血が出てるでござる!」

「あはは、気にしないでください。人を癒やすと、少しだけ私の体力が削れるだけですから。村のみんなが笑顔になるなら、私の命なんて……」

「自己犠牲が重い! ていうか休んで!」

どうやら彼女は、自分の身を削ってまで村人や旅人を治癒し続けているらしい。

このままじゃ、可愛いウサ耳村長が過労死してしまう。

それに、ここで彼女を助ければ、間違いなく大量の『善行ポイント』が手に入るはずだ。

「キャルル殿、ここは拙者に任せるでござる! 【丼マスター】!」

俺は溜まっていた善行ポイントを消費し、虚空から一つの丼を召喚した。

『スタミナ豚丼(温玉乗せ・ニンニク増し)』だ。

分厚く切られた豚肉を、甘辛い醤油ダレとおろしニンニクで豪快に炒め、熱々のご飯の上に乗せた凶悪な一杯。さらに中央には、とろける温泉卵が鎮座している。

「こ、これは……?」

「拙者のスキルで作った『豚丼』でござる。豚肉のビタミンB1とニンニクのアリシンは、疲労回復に絶大な効果を発揮する! さあ、食うべし!」

キャルルは恐る恐る箸(タローマン製)を持ち、豚肉とご飯を一緒に口へと運んだ。

その瞬間。

ピクッ! と、彼女の白うさ耳がピンと天を突くように立ち上がった。

「な、なんですかこれぇぇっ!?」

獣人特有の鋭敏な味覚と嗅覚に、ジャンクなニンニク醤油の香りがダイレクトに突き刺さる。

さらに、過労で限界を迎えていた彼女の肉体に、豚肉の強烈な旨味とビタミン、そして温玉のまろやかさが爆発的なエネルギーとなって染み渡っていった。

「お肉が……甘くて、スパイシーで……それにこの、トロトロの卵が絡んで……っ!」

キャルルは無我夢中で丼をかき込み始めた。

「美味しい……こんな美味しいもの、初めて食べました……!」

あっという間に丼を空にした彼女の顔には、先ほどの蒼白さは微塵もなく、ほんのりとした桜色の血色が戻っていた。

しかも、目に見えて凄まじい闘気が全身から立ち上っている。

《ピコン♪ 自己犠牲の少女を食で救いました。善行ポイント500P獲得!》

「ふふ、お粗末さまでござ……」

俺がドヤ顔でキメようとした、その時。

キャルルが立ち上がり、無言で俺の元へと歩み寄ってきた。

そして、俺の両手を、彼女の小さな両手でギュッと力強く握りしめた。

「良樹さん……」

「は、はい?」

彼女の赤い瞳が、ゾクッとするほど甘く、そして暗く濁って見えた。

「あなたがいれば、私はもっともっと村のために戦えます。良樹さん……あなたはずっと、私のそばで丼を作ってくれますよね?」

「えっ」

「他の女のところへ配達なんて、行きませんよね? この村から、絶対に出ていきませんよね? ね?」

俺の手を握る彼女の力が、ギリギリと骨を軋ませる。逃げようものなら、あのトンファーで足の骨を粉砕される未来が確実に見えた。

(拙者、とんでもない地雷を踏んだでござるか!?)

お読みいただきありがとうございます!


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