14話 渡すものがある、という召喚状が届いた
短いですが、きりがいいので…。
夕暮れ時、領地にオーギュストが帰ってきた。
予定にない帰宅だった。
アルノーが玄関に出ると、父の顔が青かった。旅装のまま、荷もほとんど持っていない。取るものも取りあえず、という様子だった。
「父上?」
何故だか思いつめたような表情の父は、アルノーを見るなり、アルノーを引き寄せ、抱きしめた。
「……すまない」
その口から洩れたのは、そんな言葉だった。
アルノーは少し固まった。父にこういう形で抱きしめられたのは、いつ以来だろう。母が亡くなったとき以来かもしれない。
「……私が関係する何かがありましたか?」
おそるおそる尋ねると、父がアルノーを離し、顔を見た。何かを確かめるような目だ。
「……シャンブル侯から、呼び出しがあった」
シャンブル候。アルノーがイメトレに励む原因となったパーティを主宰していた方だ。
「はい」
「お前を、名指しで」
アルノーは頷いた。表情を動かさなかった。
「使者はなんと?」
「渡すものがある、とだけ言って帰った。日時と場所と、侯のサインだけの手紙を置いて」
渡すものがある。
アルノーは頭の中でその言葉を転がした。
「……それから、帰り道に、あの広場を通ったんだが」
「はい」
「舞台のようなものが設えられていた。それから——」
父が少し間を置いた。
「ラ・ミゼリコルドが、設置されていた」
部屋が静かになった。
ラ・ミゼリコルド。それは貴族たちの中で上品に呼ばれる、スパっと君の別名だ。あの日、皮肉な名前だと言っていたバルテルミの表情が脳裏に浮かぶ。
「私が呼び出されたのは、その広場なんですね?」
アルノーの声が震える。
なんで。聞いてない。さすがに急展開すぎる。こんな展開はイメトレしていなかった。
「……ああ」
父の声も重々しかった。
広場に……、召喚状の、指定された場所に。
アルノーは一瞬だけ、頭が真っ白になった。
何もしていない。少なくとも、罪を犯した覚えはない。でも、スパっと君が広場に設置されていて、シャンブル侯から名指しで呼び出されて、渡すものがある、って。
……この流れで渡されるのって、もう死出の招待状しかないのでは??
何もしてないのに本当に処刑コース? なんで??
「アルノー」
父の低い声で、我に返った。
「……はい」
「何か、心当たりは」
「……ありません」
これは本当のことだった。
そして、こう尋ねてくるということは、5年前からアルノーが想像していたような、オーギュストに着せられた濡れ衣の余波、というわけでもないのだろうことが察せられた。
よかった。父上や兄上がどうにかされる、というわけではないんだな、とぼんやり思った。
「そうか。……まあ、私の見間違い、勘違いということもある。脅すようで悪かったが、気にするな」
父がアルノーをもう一度見た。
アルノーは、できるだけ普通の顔をした。
大丈夫。心の準備は、ずっとしてきた。イメトレだってばっちりだ。
「父上」
「ああ」
「明日、ちゃんと寝てくださいね」
父が、少し目を細めた。
「……お前もな」
※少し駆け足になりますが、エピローグで回収します




