第三十二話
交差点から少し西に少し歩くと、歩道は木陰に入り少しだけ涼しい風が芯太の頬を撫でた。
右側には竹藪、車道を挟んで左側には、芯太の住むマンション群。そしてその手前の歩道に街路樹が並んでいる。何もなければ、散歩するのに絶好の日和。芯太は背筋を伸ばして大きく深呼吸をすると、足取を少し早める。
暫く歩くと竹藪が途切れ、フェンスの張られた高台が見えてきた。小学校のグランドだ。芯太は小学校の手前の道を右に曲がり、グランド沿いに校門の方へ向かって歩く。それから通用門の手前にある歩行者用の側道に入り坂を上る。道なりにしばらく歩くと、公園の入口に到着した。
公園の入口は緩い石段になっている。小学校の高学年以上であれば、押すかまたは持ち上げて公園まで自転車を持っていくことはそれほど容易ではない高さではあるが、小学校低学年ぐらいには少し荷が重い。入口の周りに子供の自転車が停められていないのを確認すると、芯太は石段を登り通路より公園の中を見渡した。
公園の中は縦長で、手前にブランコが二基、奥にちょっと高めの飛び石と、富士山型の滑り台が見える。昭和の時代にどこにでもあったような昔ながらの公園。人影はブランコに立ち乗りしている小学校高学年程度の男の子が二人、あとは母親らしき女性と一緒に奥の滑り台あたりで頼りなげな足取りであるいている幼児がいる程度で、目当ての低学年の女の子の姿は見えなかった。
芯太は公園には入らず、そのままコンクリート製の歩行者通路を歩き、公園の対面にある北側の広場を見渡す。広場では数人の子が遊んでいるが、こちらにもそれらしき子供はいない。芯太は注意深く人影を追いながら、北西に見える池の縁まで歩き、そのまま池を回り込むように北東に伸びる歩行者通路を歩く。池を挟んだ向こうにこの公園の敷地で一番広いグラウンドがあるのでそこを目指す。フェンスの張られた歩行者用の側道を早足で進み、グラウンドに足を踏み入れた。
グラウンド内は、先程の公園や広場に比べるとだけ少し人が多いが、混んでいるという程ではなくその場に居る全員を一人一人チェックすることができた。
会話をしながらグラウンドを横切って側道を目指している子連れの家族、ふざけ合っている中学生か高校生ぐらいの五人程の男子のグループ。新たに石段から降りてグラウンドの方に入ってきている同じく高校生ぐらいのカップルらしきペアが二組。それと残りはパーゴラでベンチに座って携帯ゲーム機でゲームに興じてる四人組小学生。もう一度一から奥の方まで見渡してみたが、縄跳びをしているそれらしき女の子の姿は見つからなかった。
芯太はスマホを取り上げると、メッセージアプリのから志乃を選択し通話ボタンをタップする。三度ほどのコールの後、志乃と通話が繋がった。
「もしもし。今公園来てるけど、こっちには居なさそう。そっちはどう?」
「まだ全部見たわけじゃないけど、こっちにも居なさそうだよ。少年野球かな? 野球やっててあんまり子供は遊んでないみたい」
「そっか」
芯太はスマホを一旦耳元から話して画面上の時計を見る。現在の時間は午後五時の手前の四時五十六分。
「とりあえず、オレはこのまま公園の抜けて三叉路の方に向かうから、もう少し見たら吉行は公園と道との合流地点まで戻ってて」
「うん。わかった」
志乃の返事を聞いた後、終話ボタンを押して一旦会話を終了する。志乃と直ぐに連絡が取れるよう、スマホは左手に握ったままだ。
芯太は下りてくる高校生のカップルと入れ違いに北側の出口への石段を上った。時間が近づき、少し心臓が高鳴っているため、落ち着けるように大きく息を吸って吐く。芯太はそのまま周りを注意して見ながら街道に出ると、交差点のある東の方へと少し歩く。途中、団地の入口があり、団地内で遊んでいる可能性も考えたが、敷地内を見て周る時間は恐らくないので素直に三叉路の方へと向かうことにした。
三叉路は北から南の主道路まで抜ける街道と、芯太が歩いてきた住宅街から伸びた街道が合流する丁字路になっている。道幅はそれ程広くなく二車線の車道と両端にガードレールやガードパイプで仕切られた歩道があり、それぞれの道の先に伸びている。芯太は歩道を東に渡り、北側の道路の先に目をやる。左向きに緩くカーブした道の先の右側に歩道橋と生い茂った木々が少し見える。志乃が調べてくれている境谷公園だ。
芯太はそちらから自転車の子供が来ていないのを確認すると、横断歩道を渡り直して隅切り辺りに立ち止まる。後ろの竹林のおかげで日影ができて、少しだけ涼しかった。
芯太は手に持ったスマホのロックを外して画面を見る。時計の表示は午後五時十八分、残り時間は三十分程度。
芯太はもう一度通話ボタンを押してスマホをハンズフリーモードにする。すぐに志乃の「もしもし」という声が耳に入った。
「とりあえず交差点まで来た。そっちにもやっぱり来てない?」
「そうだね。私が公園入ってからは、ユニフォーム来た野球の子以外は、たぶん一人も小学生は来てないと思うよ」
「そっか……」
芯太は視線を上げ、志乃がいるであろう公園の方に目を向ける。道のカーブの兼ね合いもあり、こちら側からは公園の入口は見えない。少しだけ横断歩道の方へ寄って見ようと思った時、公園の方から小学校の高学年ぐらいの四人組がふざけ合いながら、こちらに向かって歩いてきているのが見えた。
その姿を見て芯太は首を傾げる。
「なあ、吉行。公園小学生いなかったんだよな?」
スマホの通話で呼びかける芯太に「うん」と返す。
「高学年も?」
「たぶん……野球のユニフォームの子はいたけど。 どうしたの?」
「いや、今目の前にそっちの方から来た子供が、いるから」
「ねえ、ちょっと聞いていい?」
芯太はスマホを手にしたまま、サッカーボールを手にしたオーバーサイズのTシャツに縦にラインの入ったレギンスを穿いた男の子に声を掛けた。
「?」
声を掛けられた男の子は首を傾げて芯太を見る。
「妹を探してるんだけど、公園にいなかった? 小1ぐらいで縄跳び持って行ってるんだけど」
男の子は、首を傾げながら連れの三人と顔を見合わせる。他の男の子も首を横に降ったり手振りで見てない旨を伝えあう。
「今日公園、野球やってたから行ってないんです。だから学校の方行ってたんだけど、たぶいん小さい子はいなかったと思う」
馴れない敬語交じりにそう答える男の子に「そっか、ありがとう。止めてごめんね」と片手を前に出して謝るポーズを作る。男の子はえに応えて
手で合図をすると、そのまま交差点の方へと歩き出した。




