第二十六話
「オレってM気質なのかな?」
心で思ったこ事が、思わず言葉で出てします。
「……」
志乃は、その時は答えず歩いていたが、ショッピングセンターの入口に辿り着き、ガラスドアを開ける為立ち止まった際「自分がそう思うなら、きっとそうよ」と、芯太にぼそりと言った。そして、少しだけ気が晴れたのか笑顔を向けた。
「そういえばさー」
建物内を横断し、反対の出口に向かう志乃に追いつきながら芯太が声を掛けた。
「美紗姫の奴、起きてたっぽいけど、何か連絡とかあった?」
朝家を出る時、部屋が留守だったのが少しだけ気になっている。
「んー、私の所にメッセージとかは来てないわね」
人差し指を頬に当て少し首を傾げながら志乃が答える。
「ちょっと一度連絡してみるよ」
そう言ってポケットからスマホを取り出すと、歩きながらスマホに文字を入力する。
「歩きスマホ危ないよ?」
反対側の外に出るガラスドアまで辿り着き、ドアを開けて芯太を通す。
ドアを出ると、目の前はロータリーになっていて、路側帯にバスが何台か停まっているのが見えた。
芯太は外に出ると、とりあえず壁際に立ち止まって、メッセージを送ってみると、少しして美紗姫からメッセージが返って来た。
『これからバイト。今家出るところ』
『熱は大丈夫なのか?』
『ばっちぐー』
親指を立てた手のスタンプ付きでメッセージが返って来た。芯太はそのやりとりをしたスマホ画面を志乃に見せる。
「美紗姫ちゃん熱下がってよかった」
志乃はホッと胸を撫でおろして笑顔を見せた。
芯太は最後に『無理すんなよー』とだけメッセージを送っておいた。
「ごめん。じゃあそろそろ行こうか」
待たしていた志乃に一言謝って、ロータリーの方へ向かう。
「いいよ。美紗姫ちゃん心配だったし……」
志乃は本心からそう答えて首を横に振った。
「ええと……」
美紗姫にメッセージを送った後、手に持ったままだったスマホでブラウザを開き、行先の経路検索をする。
「一番早いのは松尾大社までバスで行って、そこから別系統のバスに乗り換えかな? よく使うのはバスで桂まで出て電車だけど……どっちがいい?」
「電車の方がいいかな……」
肩に掛かったトートバッグを気にしながら答える。
「分った。じゃあ乗り場こっちだな」
芯太はそう言って阪急桂駅行のバスが停まる二番停留所の方へ向かう。停留所にはすでにバスが到着していた為、二人はそれに乗り込んだ。
日曜日の午前中という事もあり車内は込み合っている。降りるのが終点の為邪魔にならないよう、乗車口の折り戸より後ろ側の通路のつり革に捕まった。それから程なくしてバスは走り出した。
団地の竹林の挟まれた生活道路をゆっくりと走り、最初の停留所である小学校前に停車する。
「ここオレが通ってた小学校」
何かを考えるように目を細めて窓から見える学校のグランドの方をぼーっと見ていた志乃は、芯太の言葉にそれほど興味なさそうに「ふぅん」とだけ答える。それから、芯太の方に視線を移すと、顔をじっと見た。
「なに?」
少しだけ狼狽えながら芯太が聞く。
「君の小学生の頃、どんな感じだったか想像してた」
「どんな感じだったと思う?」
「んー……」
少しの間考えるふりをした後、
「やんちゃで、いつも外を走り回ってて……」
悪戯っぽい笑顔で指を立てながら言葉を続ける。
「チビで、女の子をよく泣かせていて……そのくせにエロくて」
「おいおい、後半なんか悪口になってるぞ……」
「合ってるでしょ?」
「少なくとも女は泣かせてない」
「……いや、やっぱ泣かせてたかな……」
自嘲気味にそう訂正する芯太を見ながら「それって美紗姫ちゃん?」と尋ねる。
「前に隣の部屋に住んでいた子。引っ越し行って、ちょうど入れ替わりで美紗姫が越して来た」
「ふーん……じゃあ、一つ付け足すね。空気読めなくて、浮気性で……」
「ちょっと待て、何で浮気性なんだよ? あとそれと、二つ付け足してるぞ」
両手でつり革を持ったまま頭をうなだれる。
「だって、その子がいなくなってからすぐ美紗姫ちゃんに乗り換えたんでしょ? どーせ前に住んでいた子には手紙の一つも出してないんでしょ?」
「いや、乗り換えるとかそういう問題じゃねーし……ていうか、美紗姫が引っ越してきてから暫くは、殆ど話もしてないぞ」
手紙の事は図星だったので、あえて無視する。
「そうなの?」
興味ありげに目をくりくりさせて芯太の顔を覗き込んだ。
「まあ、お互い丁度お年頃な時期だったし……」
誤魔化すような笑顔でそう言った後、声を落としてぼそりと呟く。
「あと、何ていうか……最初はちょっと気に食わなかった」
活発で、馴れ馴れしくて、都会から来たかのように垢抜けていて、見た目は自分よりも幼く見えるくせに妙に年上ぶる……以前そこに住んでいた子と正反対のような。そんな美紗姫が当時の自分に対する当てつけにのように感じて好きにはなれず、自然と避けていた。そんな意味合いの事を志乃に説明する。
「そうなんだ、今は仲良いのにね。何かきっかけがあったの?」
「まあ、中学の時に色々あって……ちなみに吉行はどんな小学生だったの?」
露骨に話題を変えた為、そのことはこれ以上追及するのは止めた。(今度美紗姫ちゃんに聞いてみよう)そんな事を考えながら芯太に答える。
「私? 私は別に、とっても普通の小学生だったよ。勉強ができるでも運動ができるでもない地味な地味な女の子。今と全然変わらないよ」
窓の外に流れる景色を見ながら何でもないといった口調でそう話す志乃に、
「勉強できるし運動もできそうに見えるけどなぁ。あと、全然地味じゃないし」
と告げる。志乃は首を大きく左右に振って少し黙った後「それはたぶん、君が鈍いだけだと思うよ」と返した。




