第十一話
「で、誰かオレと一緒に補習受けてくれる気の優しい友人はいないのか?」
昼休み。いつものように四人での昼食を終えた後、芯太は三人を見回して言った。昼休みに入った直後ぐらいに山田から補習者の発表があった。
芯太を含め六人程が肩を叩かれた。特に芯太の場合は、テスト結果はそれ程悪く無かったが、解答は合っているのに計算式が無茶ぶりで、逆に何故そうなるのかが知りたいと興味津々だという事だった。どうも余計なことをしたのが裏目に出たようだ。
「骨は拾ってやるよ」
「同じ学費で、他人よりも多く授業受けられるなんてお得ね、あー羨ましい」
「それって、僕達の授業料を少なからず芯太の為に使ってるってことだよな」
「そうよ。芯太、お詫びに今度何か奢ってね」
流石は親友ども、好き放題言う。
芯太達の通う沓掛高校は、教科を問わず、抜き打ちの小テストが頻繁にある。そして平均点以下の生徒は放課後に補習を受けるのが常であった。
それは罰といういう意味よりは、同じクラスの生徒が皆、一定のレベルの学力を有するように指導する。落ちこぼれを出さないといった、学校の教育方針に依るところが大きかった。
「あの、良かったらノート貸そうか?」
心ある友人たちの言葉に憮然としている芯太に、志乃が話し掛けた。
「一応関連付けて纏めてるから、教科書だけより少しは役に立つと思うよ」
そう言って数学のノートを差し出す。「いいの?」と言って芯太はノートを受け取った。
「ありがとう、コピー取って来るよ」
「あ、いいよ。返すの明日でいいし」
ノートを持って席を立ちかけた芯太に志乃が制しながら言った。
「そう? じゃあ悪いけど借りとく」
座り直してノートを机の中にしまう。
「大体、文明の利器に頼ってないで、自分の手で書き写さないと身に付かないわよ。ね? 志乃ちゃん」
美紗姫が横槍を入れる。以前、自分だったらコピーすると言っていたのに、どの口が言っているのだろう。
美紗姫のその言葉に、志乃は苦笑いしながら曖昧に頷いた。
「で、どれぐらいで終わりそう?」
「んー? 多分一時間ぐらいじゃないかな」
補習の内容は、まず教師ができていなかった所を復習がてら教壇で教える。その後確認のテストを行い、合格したものから順次解放されるといった流れだ。
「どうする? 校庭のいつもの場所で待ってようか?」
そう提案する美紗姫に「あー、いいよ」と断りを入れる。一時間とは言ったものの、実際どれ位掛かるかは受けてみなければ判らない。
「そう? じゃあ、とりあえずは集まってるけど適当な時間に帰るわ」
そういう美紗姫に志乃は話を遮って言った。
「ごめん。私今日は予定があるから」
「おばあちゃんの病院?」
すまなそうに言う志乃に美紗姫がそう聞き返すと、志乃は「まあ、ちょっと」と曖昧に答えた。
「じゃあ、要佑はどうする?」
「僕はどっちでもいいけど、昨日帰りが遅かったんで、今日は継美の為に早く家に帰ってあげようかなとは思っている」
妹思いの兄は、臆面もなくそんなことを言う。
「そっか。じゃあ今日は芯太の補習のせいで放課後はそのまま解散ってことで」
「何でオレだけのせいなんだよ?」
芯太はちょっと不満そうに口を尖らせた。
そんな会話をしている間に昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り、美紗姫達は机を並べ直した後、自分の席へと戻っていった。
志乃も椅子を前に向け直し、背中を向ける。
「芯太」
ふと思い出したかのように、顔だけ振り返り、芯太に声をかける。
「ん?」
突然名前で呼ばれた為、少しだけドキッとする。
「補習の前に、ちゃんと予習しておかないとダメだよ」
そう言って前を向き直す。志乃のその言葉を聞いて、先程借りた数学のノートを開いてみる。
少し丸みを帯びた女の子らしい丁寧な文字が整然と並んでいた。
数式や計算式に混じり、文章で解き方や説明、例題等が注釈されており、大変解り易い。まるで誰かに見られる事を意識して書いているような印象がある。
芯太はパラパラとページをめくりながら、それを流し読む。すると書き込まれたページの最後に、メモが掛かれた水色のブロック付箋一枚貼られていることに気付いた。
「芯太へ 渡したいものがあるから、補習が終わるまで自習室で待ってる」付箋にはそう書かれていた。
芯太は顔を上げて志乃の背中を見る。彼女は何事も無いかのように、いつも通り教科書の内容をノートに書き写し予習をしていた。
芯太はその付箋を剥がして制服のシャツの胸のポケットに入れた。そしてノートに視線を戻すと、付箋の貼られていた位置に直接何か書かれているのを見つけた。
「変な期待はしないように!」そしてその横に、ネコがあかんべをしている小さな手描きのイラストが添えられていた。
芯太は昨日帰り際に見た志乃とそっくりの表情のそのイラストを見て、思わず頬がゆるんでしまった。




