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第十話

 着替えを終え、更衣室から教室に帰ってくると、志乃はすでに席で美紗姫と世話話をしていた。

 一限目の体育の際、学校に着いてすぐに更衣室に向かった事と、男子と女子がグランドと体育館に分かれての授業だったため、今日志乃とは初顔合わせだった。

「おはよう吉行」

 芯太は少しだけ緊張しながら声を掛ける。どう思われるか少し不安だったが、呼び捨てで呼んでみる。

「おはよ」

 志乃は振り向いて、案外普通に返事をくれたのでほっとする。

「昨日はどうもありがとう。結局あれから歩いて帰ったの?」

 機嫌良さげに聞いてくる志乃に少しほっとして答えた。

「文姉……姉ちゃんに学校まで車で迎えに来てもらった」

 文絵には美紗姫が先に話していたらしく、送り終わったら連絡を寄こすようにとスマホにメッセージが来ていたのを帰り際に気が付いて返信していた。三十分位の待ち時間かはあったが、それでも歩いて帰るよりはずっと早く、夜の九時前には家に帰り着いていた。

「ごめん、スマホにメッセージ入れておいたら良かったね」

 そう言った芯太に、「キミが無事帰れたならいいよ」と返す。今度は芯太と呼んでくれなかった事に少し不満だったが、特に表情には出さず、少し微笑みながら言葉に応えた。

 二人のやり取りをニヤニヤしながら見ている美紗姫に二人は気付き、同時に彼女の方に視線を向ける。

「何だよ?」

 芯太が美紗姫を睨みつけながら言った。

「いや、べつに」

 と、すっとぼけたように視線を逸らして言う、そして少し芝居掛かったような口調で続けた。

「ちょっと進展したみたいね。青春してて、おねーさんは嬉しいよ」

「美紗姫ちゃん!」

 からかわれているのに気づき、志乃も照れ隠を隠すよう美紗姫を睨みつける。

「あはは、じゃあお邪魔虫は一時退散するわ。二限の数学、小テストだったっけ? 予習する時間残ってるかな」

 わざとらしい事を言いながら、美紗姫は自分の席に戻って行った。

「……ちゃんと勉強した?」

 椅子ごと芯太の方に向いたままだった志乃は、声を潜めて聞いた。

「小テスト……今思い出した。そういえば昨日そんな事言ってたなーって」

「点数悪いと放課後、補習あるよ。補習のあと雨降るけど、傘持ってる?」

 志乃は小さくため息をついた後、椅子を正面に戻しながら言った。

「何で補習受ける事も前提なんだよ……」

 芯太は志乃の言葉にそう返したが、右前の席からの返事は無かった。


 志乃の予告通り、二限目の数学は小テストだった。

「平均点の三分の二以下の者は放課後補習ね」

 担任でもある数学教師の鈴ちゃんの宣言に、教室内にブーイングが起こる。

「まあ、昨日の授業でやった内容だから問題は難しくないから安心して」

 そう言って答案用紙を回す。昨日の数学の授業は考え事で全く頭に入っていなかった芯太にとっては、気休めにもならなかった。

 小テストが開始され、とりあえずは飛ばし飛ばし解かる設問から解いていく。最後ま確認したところで芯太は頭を抱えた。

 答案は全体の三分の二程度しか埋まっていない。回答は解るのだが、計算式が判らず、結果答案も埋まらないのである。

 芯太は以前より、数学に関しては同様の傾向があった。数式を読むと瞬時に答えは浮かぶのだが、何故その答えになるのかを他人に説明できない。答えが頭に浮かんで来るからとしか説明できない。

 とりあえず悩んでいても仕方ないので、計算式を適当にでっちあげて答案用紙の空白を埋め始める。空白でなければ、正解になる可能性がゼロではない。

 空白を埋めながら、ふと顔を上げて右前の席の志乃の背中を見ると、彼女は答案を全て埋めたのか机に伏せ居眠りでもしているようだった。

 芯太はそんな志乃の仕草を何となく意外に感じた。イメージ的には姿勢よく目でも瞑って時間まで待っていそうなタイプだと思っていた。

 ふと時計を見ると、残り時間は十分を切っていた為、急いで答案を埋める。そして何とか埋め終えると、志乃とは違う理由で机に突っ伏した。


「試験どうだったー?」

 授業の終わるチャイムが鳴り、美紗姫と要佑が集まって来る。芯太は机にうつ伏せのまま、お手上げというように両手をひらひらさせた。

「志乃ちゃんは?」

 美紗姫が志乃の方を向いて尋ねる。志乃は「うーん。まあまあ」と言いながら椅子を後ろに回して、話に加わった。

「吉行は余裕でテスト終えて寝てたじゃん」

 と言って頭を上げる芯太に「だって今習ってるところ、前の学校ではまだ習ってない範囲だったから、昨晩は殆ど徹夜だったんだもん」と答えた。

 そして、居眠りしているところを芯太に見られていたのが恥ずかしかったのか、ぷいと視線を横に向ける。

「そんなにオレと一緒に補習受けるの嫌だったのか」

 芯太は冗談ぽく言う。

「キミがいようがいまいが、補習受けるのは嫌だよ」

 笑いながら志乃が答えた。

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