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「はいー。本日の裁判の時間ですー……」


「……」


 ガシッ!


 無慈悲に閉められる扉に咄嗟に足をつっこむべぇだ君。


 わずかに出来た隙間に全力で足先をねじ込み、強行突入の姿勢である。


 一分くらいがんばっていたホルスト君だったが、隙間から顔を覗かせる。


「……何の用だ?」


「だから裁判の時間なんです。ボクは見てしまったので」


「帰れ」


 心底迷惑そうな顔と、無慈悲な一言だった。


 ただこのままべぇだ君が締め出されては話が始まらない。


「まぁそう言うなって!」


「おじゃましまーす……」


「お前らな……」


 『べぇだ君が見ていた裁判』第二段で部屋に突撃することになった僕らだったが、せっかくの機会なので友達の部屋に遊びに行ってみることにする。


 ホルスト君はいやいやながら僕らを部屋に招きいれた。


 だが扉の先に広がる、思ったよりも別世界に僕らのテンションは跳ね上がった。


「うわ! この部屋オレ達のより広くねぇか? いや明らかに広いだろう?」


「ホントだ! なんかボクらの部屋と違う!」


「まぁ多少改装したがな」


「めちゃめちゃ現代風だな。オレはてっきり神殿でも造っているとばかり」


「お前、ファラオをなんだと思っている」


 多少というには、ホルスト君の部屋は何もかもが違っていた。


 高そうな家具はどう見ても高級品。家電も最新式のものがそろっていて、なにかこう、学生の部屋とは一線を画している。


「うわ! この冷蔵庫でっか! わざわざ買い換えたのか!」


「コーヒー入れる奴だよね! どっかで見たことある!」


「部屋の天上にでっかい扇風機がついてる……」


「やかましいぞ。家電ごときでうろたえるんじゃない」


「このソファーどこで買ったんだよ! どこ産だよフカフカだな!」


「ベッドでかくない! フワッフワなんだけど!」


「本棚いいなぁ。やっぱりデータもいいけどこういうのもなぁ」


「家具でも同じだ! いいから用事があるならさっさとしろ!」


 ホルスト君に怒られて、リビングに正座させられてしまった。


 だが正座させられた程度で、おとなしくなるようなべぇだ君ではない。


 彼は玄関前のテンションに立ち戻り、偶然見かけたという内容について語り始めた。


「なんか女の子の顔を覗き込んで話をしていた現場をこの目で目撃したんです。それはもうキスでもしてるんじゃないかという覗き込みっぷりでした。殴られたり罵倒されたりしないのはずるいと思います」


「……ピンポイントで目撃しすぎだ。それに、お前はいわれもなく殴られたり、わけもなく罵倒されるなら訴え出ろ」


「いや、スキンシップが行き過ぎて抱きついちゃった的な?」


「殴られろ。よしこれで判決は出たな? 帰れ」


「ハグくらい罪ではないと思うんです! 挨拶では!」


「馬鹿を言え、場合によるはそんなもの。双方理解がなければ呼吸すら気に障るものだろうに」


「呼吸すら!? 地球人了見狭すぎる! いや! ちがう! ボクが裁きたいの! 何話てたのかなーと思って軽く訊問したかっただけなのに!」


「……結局それか。安心しろ会話と呼べるものですらない」


「えぇー。ほんとにー? うそだー」


「嘘など吐くか」


 僕は自分も盗み見ていたわけだが、特に口を出すことは控えた。


 いや、そりゃぁ盗み見して、ついでに盗み聞きまでしていたとか、気まずいにもほどがあるし。


 べぇだ君ももはやここからは好奇心だけだと、隠すことすらあきらめている。


「おいべぇだ。毎度思うが騒ぎすぎだ。女子と会話くらい、お前毎日してるだろうが」


 そんな態度が透けて見えるからか、今回時坂君はホルスト君の味方に付いた。


 だが時坂君の物言いは、べぇだ君にしてみれば不本意だったようで、大きく頬を膨らませていた。


「むごいことを言うね君も! ボクは楽しい会話がしたいんだよ! けして喧嘩のとばっちりでぶっ飛ばされたりするのが好きなわけじゃ……いや、あれはあれでいいと言えばいいんだけど」


「うわっ、ダメだなーておくれだなー」


「理解しがたいぞ宇宙人」


「いや今のはなしで」


「もう遅いんじゃないかなぁ」


「山田君まで!」


 つい口をついてしまった。


 べぇだ君はいよいよアウェイだと察すると、広い部屋の隅で膝を抱えてしまった。


 申し訳ない言いすぎた。


 ただ以外にも先ほどの話はまだ続いているようで、引き継いだのは時坂君である。


「それで、何話してたんだ?」


「時坂よ、お前もか……本当に大した話じゃない。山田もいたから聞いてみるがいい」


「そうなのか?」


 ばれてた――。


 心の中で頭を抱えつつ、僕は頷いた。


「うん……。大和君を助けて、マリーベルさんとホルスト君の能力が似ているとかそんな話をしてただけだったよ?」


 記憶の中では、確かに距離は近かったが真面目な話だったと思う。


 それも真面目な雰囲気で、浮いた感じは全くなかった。


「そうなのか。でもよ。マリーベルってあいつだろ? 大人しそうなちっこいの。お前と似てるとこあったか? 炎と植物とか真逆みたいなもんじゃないか?」


 確かにそれは時坂君の言うとおりだと僕も思った。


 その時はあまり気にしなかったが、ホルスト君とマリーベルさんはあまり似ている能力だとは思えない。


 僕と時坂君が不思議そうに首をかしげると、ホルスト君は自信ありげに笑う。


「植物を操るだけならな……まぁ勘みたいなものだ」


「へぇ。お前の能力も大概変わっているからなぁ。何かシンパシーでも感じたか。それとも感じたのは運命とか?」


「たわけ。お前もべぇだに随分感化されて来たんじゃないか?」


「……わりぃ」


「素直に謝らないでよ!」


 心底後悔して謝る時坂君に叫ぶべぇだ君の声は鋭かった。


「まぁまぁ。ホルスト君かっこよかったんだよ。僕はてっきり身勝手な人だと明かり思っていたけど、コミュ力高いなって感心しちゃって。先生と呼びたい気分だよ」


「せんせぇねぇ。なぁんだ、なんだかつまんないなぁ」


 結局、思っていた話と違っていたらしくべぇだ君は今迄のへこみっぷりが嘘のようにケロッとして唇をとがらせている当たりさすがだった。


 こういうメンタルの強さは真似していきたいような、そうでもないようなジレンマに襲われていたその時だ。


 ピンポーン


 とホルスト君の部屋に珍しい音が響き渡り、全員が顔を上げ、一瞬困惑が表情に出た。


「ああ、はいはい。ボクが出ていい?」


「ああ、構わないぞ。一体誰だろうな」


 手を上げたべぇだ君が気楽なのもわからないではない。


 ごく限られた人間しかいない学園では訪問者も限られる。


 大抵は、ここにいる男子寮にいるメンバーが主だが、今日はここに全員そろっているのが気にかかった。


「はいはい!どちら様……」


 インターフォンを確認したべぇだ君はなぜか笑顔のまま表情をこわばらせ言葉を詰まらせる。


 様子がおかしいと思ったのだろう、ホルスト君がべぇだ君の肩越しに、インターフォンの画面を確認して、やはり意外そうな顔でこちらは楽しそうにニヤリと笑う。


「あの……ここは。ホルスト君のお部屋でしょうか?」


 その声は女の子の声だった。


「……」


自然とべぇだ君はホルスト君を目で追い、焦点を彼の顔に合わせると信じられない物をみる切ない目を向ける。


「ああ、意外な客が来たものだ。さてどうしたものか」


「……せ、先生。ボクにもご教授お願いしていいでしょうか?」


 べぇだ君はまるで無視して、ホルスト君はインターフォンに出る。


「ああ、そうだ。今行こう。部屋に招くというのもまずかろうからな。そうだな、いつもの駄菓子屋に行ってみるか」


 そしてずいぶん気を使った返事をしていた。


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