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「空気を読む。空気を読まない。……僕にはとても難しい」
空気を読むのは高等技能。まったく持ってその通りだと思う。
そもそも空気を読むなんてことが本当に出来る物なのだろうか? 見えないものを読むなんてそれこそ特殊能力だと僕は思うわけだ。
「その上相手の気持ちなんて、もはや予想では? わかるものなの? それってもう仏?」
悩みつつ学園内をうろついていると、校庭で大和君を見つけ僕は立ち止まる。
頭をよぎったのは彼の異常とも言える対人スキルであった。
「大和君はただ者ではない……」
微かな希望に、僕は呟く。
彼を見習えば、空気を読むくらい造作もないような気がする。
僕はさっそく声をかけてみようかと思っていると先約がいることに気が付いた。
「あの……大和君。お願いがあるんです」
緑色の髪の女の子が頭を下げている。なにか相談しているのはマリーベルさんだった。
大和君に頼みごとをしているようだが、他の女の子達は見当たらない。
さてここで問題なのはここで割って入るのは空気が読めているのか否か。
おそらく深刻そうなマリーベルさんの表情を見るに、割って入るべきではないと僕は判断した。
「よし! 一回やってみよう!」
大和君は剣を構えて彼女にそう呼びかける。
マリーベルさんは頷き、今から何か始めるようだった。
彼女は、その場で目を閉じて、集中を始める。
なにか力を使おうとしているのは明らかで、僕は窓からこっそりとその様子を見ていた。
「お願い。力を貸して……」
マリーベルさんの周囲の地面から植物の蔦のようなものが伸び、蔦は彼女を守る籠になって複雑に絡み合う。
「おお!すごいな!」
「……
しかし籠の形は長くは続かない。
形が崩れ、うごめき出した蔦に、大和君は巻き込まれて突き飛ばされた。
「うわっと!」
「……あぶない!」
僕は咄嗟に飛び出していこうとしたが、先に空で大和君を受け止めた誰かを見つけた。
猫をつまむように大和君の首根っこを摑まえて見せた誰かに、僕は単純に驚いていた。
「随分景気よく吹き飛んでいたじゃないか」
ホ、ホルスト君!?
いつかの殺気立ちようからして 自分から話しかけることはないんじゃないかと思ったが。
僕は嫌な想像がふと頭をよぎった。
ホルスト君が大和君に今朝の攻撃の様な事をしたら大変なんじゃないだろうか?
僕は蒼白になって腰を浮かせたが……どうにも攻撃しようという雰囲気ではなさそうで、ホルスト君は大和君を掴んだままゆっくりと降りてきて、彼を地面に無事下す。
しりもちをついた大和君はホルスト君を見上げ、まだ事態についていけていないのか頭を揺らしていた。
「えっと……君は」
「ホルスト。女の顔だけでなく、クラスメイトの顔くらい覚えておいてほしいものだ」
「顔くらいは覚えてるよ。でも俺の事なんか睨んでただろ? 自己紹介の時も名前は聞けなかったし」
「そうだったか? 睨んでいたつもりはなかったが?」
あ、とぼけてる。まぁ睨んでましたよという人はいなさそうだけど。
思いのほか穏やかに会話し始めた物だから、僕はほっとしていた。
ただ、ホルスト君も単純に友達になるために話しかけたというわけではないらしい。
ホルスト君はマリーベルさんの方に歩み寄る。あまりにもためらいなく顔を覗き込むホルスト君に彼女は身をすくませていた。
「お前のその力、植物を操る能力だと聞いたが本当か?」
「あ、あの……はい。……そうですけど」
「ふむ……」
ホルスト君はマリーベルさんの顔をじっと見つめたまま唸る。
「なるほどな。お前と私の能力はどうやら似たところがあるようだ」
「えっと……どういう意味ですか?」
「いや、そのうちわかる。邪魔をしたな」
ホルスト君はいったい何をするつもりなかとひやひやしたが、アドバイスともいえない質問を呟いた。
しかし、マリーベルさんはほんの少しのやり取りだけで相当動揺しているようで、手を握りしめホルスト君をじっと見ていた。
「ひとまず受け止めたが、派手に飛んだからな。お前も医務室に行っておくべきだろう」
さらに細やかな気遣いを見せるホルスト君にようやく立ち上がった大和君も頭を下げた。
「あ、ああ、ありがとな」
「いや。たまたま見かけただけだ。気にする必要などない」
「もう行くのか?」
「ああ、面白そうな事をしていたから見ていただけだ。クラスメイトの実力は気になるだろう?」
「実力か……あのさ、ホルストから見て、俺ってどんな感じなんだ?」
それはほんの少しいつもの大和君とは違う、気弱な物言いだった。
ホルスト君は興味もなさそうな表情で、あっさり告げる。
「……まぁ今のところは期待外れもいい所だ」
「はっきり言うなぁ」
「正体不明にしても、もう片方の方は、未知数だったが」
そしてさりげなく僕を引き合いに出す。
大和君にもそれがすぐに僕の事だと分かったようである。
「……それって山田の事か?」
「ああ。そうだ。あいつはなんというか、でたらめだ」
「……山田。すごく強いよな。リオンやかりんに話してもあんまり興味なさそうだったけど」
そいつは地味にショックだ。好きの反対は嫌いじゃなくって無関心って聞いたことある。
ホルスト君は、そのまま帰るかと思いきや、大和君に振り返って言った。
「羨んだところで、何も変わらん。知っているか? あいつは毎朝、学園の周囲を一人で見て回っているのを。あの強さ生まれ持ったものだけではないと思うがな」
「……!」
それを聞いた途端、悔しそうに黙り込む大和君。
一方、僕も完全に出ていくタイミングを逸して、ただただ唖然とするばかりだ。
そして僕は物陰に隠れ呟く。
「……なんという、フォロー力。僕は、修行が足りない」
それはもうあらゆる意味で。
僕はふらふらと立ち上がる。気の抜けていた僕は、周囲にもう一つ視線があったことにまるで気が付かなかった。




