33
「……なんだかなぁ」
時坂は妙な違和感があった。しかしそれはとても身近な感じなれた物でもある。
それはどうしても無視することが出来ないもので、時坂はもうしばらく様子をうかがう事にする。
テストは運動場で行われた。
時坂はようやく地べたの上から解放され、運動場に作られた、防壁兼客席の、なるべき見えにくい位置から様子を窺っていた。
結局手伝うと言い出せなかったのは、何やらきな臭い空気を感じ取ったからだ。
やってきた男の態度におかしなところはなかったが、俺たちのような異能を前にして堂々としている相手には何かある。
すでに下準備は整っているようで、テストが始までにそう時間はかからない。
オリンピックでも開催可能なグラウンドの真ん中に早乙女は陣取っていた。
『それではテストを始めます』
テスト開始を告げるアナウンスは、先ほど名刺を渡していた男のもので、その姿は運動場を一望できる特殊ガラスに守られた部屋に確認できた。
「はい! よろしくお願いします!」
返事を合図に運動場の地下から早乙女を取り囲むようにコンテナが競りあがってくる。
重々しい音を立ててコンテナの扉が開き、中から出てきたのはメタリックな外装のアンドロイドだ。
瞳に赤い光を灯し一体、また一体と起動するアンドロイドは、人間を模して造られた金属の身体に熱を入れてゆく。
身の丈は2m以上の合金の怪物は目標を定めて、重い足音を響かせる。
早乙女もコンテナから出てくるそいつらを前にして、短く息を吐いた。
「よし! 行きます!」
気合の入った大声を置き去りにして、早乙女の姿が掻き消えたように見えた。
ボンと空気の弾ける大きな音から、一気に最高速に達した早乙女の拳は、金属の外装をまるで紙の様にたやすく貫通する。
『ギ……ギギ!!』
そのままアンドロイドは軽々と振り回され投げ飛ばされた。
数体を巻き込み、耳を劈く音を立て運動場の壁にめり込む。
爆発し、黒煙を濛々と上げるアンドロイドを意にも返さず、早乙女は構えなおした。
「次、お願いします!」
まさしく速攻だった。
改造人間の名にふさわしく、人間を遥かに超越した身体能力だ。
『素晴らしい……では、これならどうかな?』
続いてさらに追加で現れた、アンドロイドの数は二倍以上の数だった。
しかし一度目の戦いを観るにその程度では埋められないパワーの差が感じられた。
「正面からは行くわけがないか……」
時坂はその様子を眺めて、呟く。
するとアンドロイドたちは、今度は早乙女の周囲を高速で飛び回り始めた。
アンドロイドの機動力は高い。その上疲れを知らないのだから逃げに徹すればかなり手ごわいだろう。
早乙女は腰を深く落とし、力をため攻撃を仕掛けた。
ミシリと地面にひびが入り、上空に飛び上がった早乙女の蹴りは、ちょうど真上にいた一体に突き刺さると体の半ばから叩き折る。
「ふっ!」
更にその反動を利用し、目に入ったアンドロイドが回避する前にその頭を捕まえて握りつぶす。
さらにはアンドロイドたちは、目からビームを放つが、それすらかすりもしない。
『確かに性能は私の作品より上のようだ。まったく忌々しいことだ』
どうあがこうとアンドロイドに負けるようなことはない。
そのはずだった。
しかし着地した早乙女はどこか動きがおかしくなり、膝を突く。
本人も戸惑っているのか、早乙女は自分の体を掴み目を見開いていた。
「なに……これ、体が」
『動けないだろう? まことに残念ながら君にはここで死んでもらわなければならない。薊博士ともどもね』
その声を歯スピーカーから聞こえてきた。
先ほどまでの営業トークの声とは明らかに違う声色は、憎憎しげな憎しみに満ちている。
その変化に気がつき、早乙女の視線は鋭くなり、自分を見下ろす男に向けられた。
「……どういうこと?」
『君達は存在自体が邪魔なんだよ。科学の発展には。薊博士が別行動だったのには正直参ったが、どうせ私はここで終わりだ。なら派手に行くことにしたよ。ちょうどロールアウトしたばかりの新作が手元にあってね。今頃お友達ともども綺麗に一掃してくれているはずだよ!』
「なにを言ってるの? なぜこんなことを?」
饒舌に語る男に早乙女は質問をした。だがその質問は男の怒りに火をつけた。
『決まっているだろう! 魔術だ妖術だと今まで理論として成立すらしていなかった物を当然のように科学面して引っ張り出しやがって! こんな異常なことがあるか! この流れは危険なんだよ! 特にお前の存在は危険だ! 人間を人間のまま別の生き物にするようなおぞましい所業が日常になりかねない!』
声を荒げ、こぶしを振り回す男の言葉に、早乙女は息を呑む。
「それは……」
『だからお前達にはここで消えてもらわないといけないんだよ!』
スピーカーからまくしたてられる男の言葉。
やたらと正論ぶってまくし立てているが、あんなものは恨みぶしでこねくり回したグチでしかない。
付き合う必要なんて毛筋ほどもないだろうに、早乙女は唇を噛みしめていた。
アンドロイドが大量に詰まったコンテナがまた浮上してくる。
こちらが本命なのだろう。アンドロイドは次々に動き出し、動けない早乙女に、まるで亡者の群れのように集まっていった。
実際このアンドロイドたちは亡者みたいな物なのだろう。
早乙女 かりんと薊 マイが示した新しい可能性に潰されつつある可能性の一つ。
戦うことしか能の無い人形は、同じく戦うことに特化した人間にすがるように襲い掛かる。
「おい。こいつはそこのガラクタの性能テストのはずだろう? 何だこれは?」
気がついたら体の方が動いていた。
「え? どうして?」
戸惑う早乙女を抱え上げ、スタジアムから周囲を囲む塀に着地した時坂はこちらを監視しているであろうそいつを睨みすえた。




