エピローグ
ガンダルムが陥落してから2週間が経った。かつて栄華を誇っていた魔法の都は、今や灰色の廃墟となっていた。
ガンダルムの城壁を超えられてからも、首都内での抵抗は激しかった。市内に潜伏した魔法使いによる奇襲に加えて、瓦礫に巧妙に隠された魔法による罠によって戦車すら吹き飛ぶような状況にあっては、勝ち気分の機械派の人間の神経をすり減らさざるを得なかった。
想定外の被害の大きさに、首都内に進軍した機械派の軍は再編を余儀なくされ、最終的に区域ごと完全制圧してから次へと進むという時間のかかる手段をとった。
抵抗が激しかった最後の区域として王城を制圧することで、ようやく機械派は勝利宣言をすることができた。
それからも、市内になお潜んでいた抵抗勢力の排除が行われ、完全に制圧が確認できたのが2週間。
ようやく機械派の将軍たちは入城を果たした。市内は砲撃と魔法使いたちとの戦闘によって瓦礫がないところはないほどの荒れ具合になっていた。まともに車両を入れられないため、CTRが最低限の復旧作業を代行しているほどだった。皮肉にも元来の用途として。
「閣下、足元にお気を付けを。」
「大丈夫だ。そこまで耄碌していない。しかし、ここはほかに比べて特にひどいな。」
「そうでしょう。魔法派の本部、王城の前ですから激戦は予想に違いないです。」
二人は護衛に囲まれながら王城に入ろうとしていた。王城へと至る道の周囲は、激戦を思わせる荒れ具合だが、それにに比べて王城そのものには砲撃による損壊は認められなかった。
「最後までここの旗は落ちなかったそうだな。魔法派の執念がなせる力かな。」
「でしょうね。入り口を守っていた魔法使いたちも精鋭ぞろいで、こちらの被害はとんでもないことになっていたと聞きました。」
「ふむ、・・・ここの焦げ跡はなんだ。ここだけおかしいではないか。」
ジラードは自らの足元の黒い跡を指し示す。城の正面、正門前は王城において唯一といっていい傷跡だった。
「ここは、確かにひどいですね。少しお待ちを。・・・君、これが何かわかるか?」
部下は近くで警備を担当していた兵士に尋ねる。
「ああ、そこは魔法使いが自爆した後です。自らの身体を犠牲にこちらの前線を消し炭に変えてしまったんです。」
「そんなことがあったのか。災難だったな。」
「ええ、まったく災難でしたよ。自爆した魔法使いはまだ年若い青年でしたからね。」
「っ!?」
「最後にここを落とそうって時に、俺たちの前に立ちふさがったのがその青年だった。他の魔法使いどももいましたが、一番強かったのがそいつでした。青年と言いましたが、二十いくか行かないかぐらいですよ。」
「そいつの扱う雷が強力で、こっちの機械が狂わされてやられていきました。それで1日。次の日に総攻撃を仕掛けたところで、奴が自分の命を懸けて周囲に雷の嵐を解き放って、立て直すのに1日。たった一人に2日足止めされてしまいました。」
「まあ、戦士としての覚悟をもっていたからこそ、迷いなく死んでいったのだから救いはありますがね。あれで、洗脳されていたのであれば夢に出てきちまいそうです。」
そう言って兵士は口を閉じた。
「失礼しました、閣下。あまりお聞きになりたくないことを耳に入れてしまいました・・・」
「良い。我々も同じだ。今更罪悪感に飲まれることなどない。時に、スレイプニル隊の失敗報告。あれはどう思った。」
「ああ、彼らですか。」
二人は王城内に入り、玉座を目指しながら話を続ける。
「正直、意外でした。彼らは命を賭してでも救出してくれると思っていたのですが、目標を前にして謎の敵の妨害で逃げられたとは、降格も止む無しでしょう。」
「あの報告だが、あれは嘘だ。」
「はあっ!?」
ジラードの迷いない断言に副官は思わず、上官の顔をまじまじと見てしまった。そこに偽りを見ることはなかった。
「直接奴と話して分かった。奴は、逃がしたというより見逃したといった感じだった。近衛の連中をひっとらえたのは良いが、護衛についていた2つ名持ち、首都防衛戦の最終局面で西へと逃れる2つ名持ちのことが一切なかった。」
「それが関係すると?」
「魔法派にも令嬢の境遇をよく思わない奴がいて、そいつが先に令嬢を救出していたとすれば、辻褄は合う。」
「もしそれが本当なら、降格どころじゃあありませんよ。・・・裁判にかけられるのでは?」
「奴はそれを承知しておった。まったく、せっかくの出世街道だというのに。だが、奴も変わったということだろうな。」
「閣下がそうおっしゃるならそうでしょう。この件については私は口外しません。」
「うむ。助かるぞ。さて、玉座が見えてきた。空席のな。」
二人がたどり着いた玉座の間。もぬけの殻だった。
「まさか、隠し通路なんて古典的なものがあるとはな。ここを死守していた奴らは知っていたのか。知っていなかったのか。」
魔法派の国王、重臣たちは、確かに首都攻防戦にいたのだろう。だが、首都陥落間際に隠し通路より脱出しており、今は軍港セルダムに至っていた。機械派が手に入れたのは首都だけで、戦争を止めるための鍵は手に入れられなかった。
「戦争はまだ続くのでしょうか。」
「いや、それはないだろう。図らずもスレイプニル隊のおかげで、魔法派は機会を得た。」
「どういうことでしょか?」
「「私たちは戦争を終わらせようとした。その証として大統領令嬢を返還しようとした。しかし、継戦派が令嬢を攫ってしまった。だから一旦戦争をやめて、令嬢を探そう。」と、そんな感じに言い出してくるに違いない。切り札がなくなったことを切り札とするぐらいはしてくるだろう。」
「厚かましすぎやしないですか。それに、結局戦争は続くのではないですか?」
副官の問いはもっともだった。しかしジラードはすでに結論を己の中で出していた。
「令嬢を攫ったのは単独犯だ。おそらく、紅い死神だな。捕虜どもの話では、令嬢を最初に攫ってきたのは死神だ。そして西に逃げたのは炎の使い手。それに、奴はスレイプニル隊とは因縁がある。」
「それではっ・・・令嬢の命の保証はないじゃないですか!!」
「そう声を荒げるな。最初に言ったであろう。スレイプニル隊はわざと見逃したと。」
「っ!!」
「少なくとも、令嬢は無事だとわしは思っているよ。」
どこかの森の中
戦争の気配はなく、人々の喧騒ははるか遠く。二人の旅人はつかの間の休息をとっていた。
「昼食ができたわ。いただきましょう。」
「ああ、ありがとう。」
女性は焼いた猪の肉と森でとれた山菜を盛り合わせた料理を二人分の皿に盛りつけて、片方を差し出す。男は受け取るや、感謝の言葉と共に口に入れる。
「・・・ふむ。うまいな。最初に教えた時からだいぶ料理も上達してきたな。」
「ううっ、ありがとう…まだまだこれからよ。」
「それは楽しみだな。俺一人だとどうしても内容が偏ってしまうから助かるよ。」
「スープもどうぞ。そうね。あなたは身体が第一なんだから、私が管理してあげてもいいわ。」
「ありがとう。いや、完全に任せるのは駄目だ。分担しよう。お互いに自由な時間はあるべきだ。」
二人の間にわだかまりはない。お互いの心が通じ合い、これからのことに夢を膨らませていく。二人にとってすでに戦争は過去のものとなっている。今あるのは、二人だけの道とその先の未来だけだ。
「本当に夢みたい。グレンと一緒にこうしていられるのが。」
「そうか。俺もだよ、ララ。もう一度こうしていたいと心の底から思っていた。それが叶ったことがすごくうれしいよ。」
「そうして面と向かって言われると恥ずかしいね。」
二人は食事をとる間会話が尽きることはなかった。食事が終わり、後片付けも済んだところで、この後の道のりが改めて気になり、ララから尋ねる。
「ねえ、本当に北に行くの?あの、天に突き刺さる塔とかいう場所まで。」
「そうだな。東の海を渡って日向帝国に行くにも、今は、戦時で乗船時の検査は厳しそうだし、西の山脈はまだ早い。あそこは今のララには厳しいところだ。そうなると、まだ見ぬ場所というと、あの塔ぐらいだろう。」
二人は北を見る。そこには、うっすらとだが天へと一本の線が走っているのが見て取れた。すでにアイリスタ北部の森林地帯に入っている。森林地帯の大地は春の季節が雪を溶かし、すでに緑が戻り始めていた。
「誰も見たことがない景色か。楽しみね。あそこから帰ってくるまでに戦争が終わっているといいわね。」
「そうだな。形はどうあれ、平和になっていれば、もう少し旅もしやすくなるだろう。」
「ええ。そうだといいわね。」
二人は歩き出す。春の陽気は祝福するように、空の青さはこの先の未来が透き通るかのように。
戦争は多くの悲劇を生んだ。怒り、憎しみ、絶望。負の感情が渦巻き戦火は拡大し続けていた。
しかし、そのさなかで新たに生まれる繋がりもある。グレンとララ。二人は異なる立場でありながら、お互いに憧れ、お互いに惹かれあった。そして一つの道を往くようになった。
大いなる運命は変わらない。しかし、小さなこの出会いが、やがて世界を変える瞬間に立ち会うことに繋がるとは、この時は誰も知る由もなかった。
戦争が終わったのは、二人が歩き始めてから2日後。
魔法派の国王は、首都とセルダムとその周辺のみを領土として、それ以外を機械派に渡すという要求を行った。当然、大統領令嬢の捜索も含めてだった。機械派はこれを受けて当初は紛糾した。
大統領令嬢を保護していないという怠慢に加えて、魔法派を完全に解体するつもりだった継戦派は、簡単に飲めるようなものではなかった。
一方、終戦派は今までの犠牲の多さ、国民の厭戦気分、なにより魔法派のよりどころがなくなることによる永続的な復権運動を危惧していた。
両者の対立が深まる中、時の大統領は機械派の要求を呑むことを決定した。それは、自身の娘を助けたいという気持ちよりも、機械派の将来を考えての決断と周囲はとらえた。
それにより、1190年5月。両者は2年にも渡る戦争を終わらせた。魔法派の当初の要求は叶えられ魔法の形が残ることはできたが、多額の賠償に加え、未来永劫以前の立場が戻ることがないことが約束されたようなものだった。それでも、戦争が終わったことに魔法派も機械派も両者喜ぶものが多かったのは事実だった。
アイリ・スタという国は、魔法による統治から機械による発展を遂げていくことになる。グレンとララの二人がそれを知るのは、1年後だった。
ようやく完結になります。
自己満足の小説ですが、今まで読んでいただきありがとうございます。
やる気に左右されて、1年近く投稿が空くことがあったのは想定していなかったです。(当初の予定では2~3年で今よりコンパクトに収まると思っていました。)
それでも、こうして完結できたことは一つの自信につながったと思います。
今後ですか、本編(本小説の4~5倍の内容がある)か、全く毛色の違う話かどちらかを書こうと思っています。
もし、そちらも読む機会があればよろしくお願い致します。
以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。




