22話 「英雄の行く先」 中編
まさか前話から1年近く空くとは、やる気が出なかったとは言え申し訳ないです。
暗雲立ち込める荒野の中心で金属と金属がぶつかり合う音が響く。片方は騎士然とした格好で周囲に剣を浮かべながら、一本一本を相手に射出し切りつけている。
もう片方は、どこにでもいるような普通の恰好ながら達人のごとき振る舞いで刀を振るい、迫りくる剣の群れを迎撃している。
「お前はいつだってそうだ。自分が全部救ってやらないと思ってなんでも成そうとする振りをしていたのに、実際は目の前のことしか考えない奴だったとはな。」
「勝手に俺に求めすぎだろ!! 俺は自分の手の届く範囲しか守ったことしかないぞ!!」
「その手で、砦を、町を数えきれないほど救った。それが俺たちにどれだけの希望になったかわかるか!!」
「わかるさ。だが、俺一人だけで戦争に勝つことなんて不可能だってことは知っているだろう。他の二つ名持ち達も同じだ。」
「それでも、今、負けなければ良い。未来永劫我々が負った憎しみを忘れさせないことで、いつかは勝つことができるのだ。」
「そのためにララを利用することが、俺は許せないんだ。お前の娘を殺した奴らと同じところまで堕ちるのか!!」
「ぐっ、貴様に言われる筋合いはない!!」
ランスロットの魔法は、剣という武器を魔力によって生成することにある。しかし、それだけで剣聖という二つ名を持っているわけではない。本質は、生成した剣を自由に扱うことにある。
「ちっ、いつも思っていたがその魔法、敵からすると厄介だな。」
「ふんっ!!」
ランスロットは、生成した剣を周囲に浮遊させると、あらゆる方向からグレンへ向けて射出する。
常人であれば、その速度に対処することが出来ずあっという間に細切れになるだろう。しかし、グレンは持ち前のセンスで剣を一つ一つ切り払っていく。
剣の射出の合間を縫ってランスロットに斬撃を飛ばす。一太刀振るたびにランスロットの従属剣をたやすく切断していく。
それを見て実力差を理解しながらもランスロットは剣を補充してグレンに射出していく。
ランスロットの魔力はグレン程あるわけではない。しかし、それでも平均的な魔術師以上のモノは持っている。だからこそ、グレンは前に出れず切れ間なく打ち出されれる剣をはじいているだけだった。
戦いのさなかでありながら、グレンの思考は加速している。
グレンは復讐をすることを否定はしない。グレン自身も言ってしまえば復讐のために戦っているのだから。しかし、無関係な誰かを犠牲にしてまで復讐を遂げようというのであれば、それは止めなきゃいけない。それが、好きになった少女でなかろうとも。
従属剣を躱しながらランスロットに斬りかかるが、二、三回切り結んだあと切り払われて距離をとられる。ランスロットはあくまでグレンの間合いでは戦わせてくれないようだ。
「(それだけじゃない。ランスロットに生きて欲しいから、戦友だからこそ死んでほしくないんだ。そのために、いまここで止める。止めることができれば奴は諦めるから)」
「私を止めようとしているようだがもはや遅すぎる。とっくに止まれないところまで来たのだ。」
魔力が一気に放出されると、ランスロットは従えていた剣の剣先を外に向け輪のように
広げる。詠唱を唱えると、それらはランスロットが持つ剣へと吸い込まれていった。
全てが吸い込まれると、爆発が巻き起こった。そう認識してしまうほどその斬撃は重かった。
「従剣一閃っ!!」
「ぐあっ!?」
瞬間移動でもしたかのような加速で突っ込んできたランスロットの斬撃を受ける。しかし、その重さ、鋭さをまともに受けきれず吹き飛ばされた。二転、三転したところで土煙が上がりその姿が隠される。
「ふうぅぅぅ・・・」
全力の一撃だった。私がグレンに見せたことは一度たりともなかった奥義。それを受け止められた。土煙が晴れなくても殺した気がしないのが感触で分かる。
「(まだ足りないのか。奴を殺すには、どれだけの力があれば・・・この国を守れるっ!!)」
ランスロットが逡巡していると土煙が吹き飛ばされた。原因はグレンでしかない。
「さすがだな、ランスロット。剣聖の名は伊達ではないか。」
土煙が晴れた先には魔力を開放しているグレンが見えた。一瞬あまり効いていないように思えたが、よく見ると体はボロボロだった。口から血を流し、服がところどころ敗れている。先ほどの奥義を食らって相当なダメージを負ったようだ。それでも立ち上がり、ランスロットに向き合ってきた。すでに尽き欠けているはずの魔力をこれでもかと練り上げて見せつけてくる。
「本当にお前は強いよ、ランスロット。いつも俺の隣に、後ろに立って、支えてくれていた。軍隊の中で少年兵という弱い身分の俺をいつもかばってくれた。本当に感謝しているよ。」
「くっ・・・」
今更過ぎる素直な賛辞に苦虫を噛み潰したように顔をゆがめる。本当に今更なのだ。もし戦いの前、奴に会ってその言葉を受け取っていたら、もっと言葉を交わしてこちら側に誘っていたはずなのに。
「だが、俺はお前の敵になった。ララを救うために。・・・お前を救うために。」
本当に取り返しがつかないところまできて、今更戻ることなどできやしないのだ。
さらに剣戟は続く。従属剣の鋭さは増し、炎は激しさを増す。
ランスロットはあと一撃当てれば勝ちであるというのに、その一撃が遠かった。対するグレンは、いまだ目立った外傷のないランスロットを一撃で打ち倒すための隙を伺っていた。
「(中途半端な攻撃では、あの守りを崩せない。かと言って全力を出し続けるだけの魔力は残っていない。いや・・・)」
己の命すら燃やせば届きうるか。その考えがよぎったとき、左手で握っている刀から魔力が流れる感触があった。自身の魔力とは異なる刀から生み出された魔力がグレンへと伝わってくる。
その量は、全力を出すには十分だった。
「よくわからんがありがとう。あいつを必ず倒すよ。」
刀にお礼を告げ、グレンは最後の力を開放する。それはかつてランスロットの前で一度見せたことがあるものだった。
「在りしの故郷はすべての終わり、すべての始まり、「幻想の零」」
グレンを中心に魔力が広がっていく。それはランスロットを、倒れている護衛の騎士たちを、周囲の荒野を飲み込んでいく。少し遅れて荒野の戦場に朧気ながら街が現れていく。しかし、街は荒れ果てていた。炎が燃え盛り、空は黒く染まり、遠くには巨大な化け物が二体見える。まさに地獄の光景だった。
それがグレンの故郷、奴から聞かされていた最後に見た光景。
「(それを俺の前で見せるか、俺が焼かれた故郷と同じ光景をっ・・・)」
グレンが長くも短くもある戦いに終わりに告げる。
「終わりにしよう、ランスロット。」
「やってみるが良い!!」
ただ、前を見据えて動く。目に映るのは自らが作り出した光景ではなく、ランスロットと従えている剣のみ。
ランスロットは従属剣で迎撃するが、先ほどとは見違えるほどの速度で切り払っていく。
一本、二本と剣が射出されるが、瞬時に切り払う。数が足りないと判断したのか、十を超える剣を展開してはほぼ同時に発射してきた。
しかし、覚醒をはたしたグレンにとってそれは緩慢な速度でしかなかった。三本は切り払う。五本は最小限の動きで避ける。残りすべては魔力で吹き飛ばす。
何もかも聞かないことを本能でランスロットは理解していたのだろう。瞬時に新たな剣を作り出してこちらへと向け射出しようとしていた。
だが、周囲を形作る炎がそれを許さなかった。炎は形を変えランスロットの周囲を薙ぎ払う。それだけで、従属剣はあらぬ方向へと飛んで行った。予想外の一撃に一秒意識がそちらへと向けられる。意識を再び正面に戻したときにはすでに遅かった。
それだけの時間で、グレンはランスロットの目の前に辿り着いた。
「ランスロットぉぉぉ!!」
「うおぉぉぉぉっ!!」
お互いの雄たけびが響き渡ると同時にお互いの武器がぶつかり甲高い音が戦場に響いた。
刀を振りぬく。ランスロットはこちらの速度についてこれず、ただ受けただけだ。体勢を崩したところにもう片方の刀を掬い上げるように振り上げた。ランスロットは二撃目を目で追うのではなく勘で防ぐ。それ故に体が中空に投げ出されてしまった。
「しまっ!!」
弾き飛ばされれるランスロット。容赦はしない。刀を構えなおし、無防備な体をめがけて大上段から振るう。
「無限一刀流、参の型「覇黒・天照」」
炎と闇の魔力を刀に乗せ、すべての力で振りぬくグレンの最終奥義。それは以前一度だけ使われた。その時は、機械派の戦艦を真っ二つにしていた。
それを今まさに受けようとするランスロットは従属剣を含むすべての剣を体の前に出し衝撃を緩和しようとする。しかし、あっという間に飲み込まれていった。その威力は荒野に大穴を穿つほどだった。破壊が終わり土煙が晴れた後、ランスロットは倒れ、グレンは立っていた。
長い戦いは終わった。今日一日、ここに来るまでに戦いの連続で疲労は限界だった。ランスロットから受けた一撃も影響が大きく、腕に足がしびれて今にも倒れてしまいそうだった。
周囲に展開した炎は1分とたたずに霧散した。それだけ魔力が枯渇寸前だったのだろう。
それでも力を振り絞って、ララのもとへ行こうとしたが、動く気配を感じて、ランスロットを見る。
身体はボロボロ。まともに魔法を使えず従属する剣はカタカタと震えてるだけだった。それでも剣を杖に奴は立ち上がった。
「まだだ。まだ負けたわけではない。俺が生きている限り・・・負けではない。」
もはや精神力だけで立っているのが一目でわかる。刀の一振りであっさりと倒せるだろう。しかし、ランスロットに生きていて欲しいと願っている俺自身にしてみれば、そんなことはできない。
「お前の負けだ、決闘する前の約束は守れよ。騎士なんだろう。」
騎士という言葉を聞いたランスロットは一瞬逡巡してから力なく跪いた。奴にとって騎士という言葉はとても重いものだ。それを再度自覚したからこそ諦めたのだろう。
「ララは諦めてもらう。その代わりお前は殺さない。生きてくれランスロット。」
「っ・・・」
ランスロットは顔を上げる。すべてを失ってそれでもまだ地獄の中に居ろと言っているようなことは分かっている。それでも、憔悴しきった顔に向かって告げる。
「今は生き延びろ。そしてどこかで機械派の連中に復讐し続けろ。今は駄目だが、いつか俺を殺しに来ても良い。生きてくれ。分かり合うことはもう無理かもしれないが、お前と友人だったことは間違いじゃないから。」
俺の言葉がランスロットの中でどう響いたかはわからないが、奴はボロボロの身体で立ち上がる。そして何も言わず背を向けて俺の前から立ち去り始めた。
足取りは朧気で、今にも倒れそうだったが見送ることしかできなかった。
「さようなら、戦友。いつか、また・・・」
俺の言葉にランスロットは答えなかったため、独り言として風に流されていった。




