21話 「戦場の架け橋」 中編
首都ガンダルム西側郊外
乾いた草木がはるか西にある山脈まで続く大地を、八機のCTRが駆動音を響かせながら駆けていく。
目標は一人の少女の救出。敵対勢力は魔法派の上位魔導士部隊。戦局の趨勢はすでに決定していてイレギュラーはほとんどなし。それでも、彼らの中にある一抹の不安は解消されることはなかった。
すでに支援部隊は主戦場に置いてきた。ここでは自分たちだけが頼りだった。
「目標はまだ見つからず、敵は人一人っ子いませんね。」
「はずれを引かされてしまったってことか? それなら、俺たちはどうすればいいのかわからなくなるぞ。」
「おとなしく帰るってか。それこそないだろう。」
「問題はない。奴らは必ずこの先にいるはずだ。儂の感もそう告げている。」
「隊長、あなたがそのような神頼み的なことを言うなんてなかなかないですよね。」
「長く戦場に居続けると自然と感覚が鋭くなってしまうからな。あまり気持ちの良いものではない。この任務が終わったのならばゆっくりとしたいものだ。」
部下たちの会話を聞きながら、ジンテツは軽く息を吐いた。
「あんたはもう十分戦ったさ。長めの休暇をとってもいいんじゃないか?」
それを聞いて部下の一人は冗談めかして言う。軽い気持ちで聞いたその返答は思いがけないものだった。
「それもそうだな。」
「なっ、隊長!? あなたはもっと上を目指せるお人です。ここで一線を引いてしまったらそれもできなくなってしまいます。・・・レイラさんもそれを望んでいるはずですよ!!」
「おい、グラバス!! それを言ったらおしまいだろ。」
「っ・・・!!」
新しく副隊長になったグラバスは尊敬する上司の言葉に反論するが、先任に警告されたことで押し黙ってしまう。
「そうだな。・・・しかし、レイラならば休めと言うだろうな。」
「あっ・・・」
無線の中に静寂が訪れる。すでに戻れないところまで来てしまっていることをいまここで改めて、全員が認識してしまっているのだ。
静けさはすぐに甲高い音で破られる。
「っ!! 魔力反応確認。これは・・・でかいぞ。」
「目標の部隊か!?」
「違う・・・これは単騎だ。左からくるぞ!!」
8人が全員そちらの方に目を向ける。CTRのカメラ越しでもわかる異様な光景がそこにはあった。陽光を受けて禍々しくも光り輝く一条の炎が迫ってきて、CTR達の左前方に降り立ったのだ。あっけにとられる9機をよそに身に纏われた炎を解いて、中から現れるのは忘れもしない子供の顔だった。
「紅き・・・死神!!」
「(出会ってしまったか・・・)」
グレンは心中で愚痴る。ララは魔法派にとっても大切な存在だが、機械派にとっても奪還に動くぐらい大切な存在であることは分かっていた。
それでも、いまだ、ランスロット達の行方がはっきりとしない中で、出会いたくない連中に出会ってしまうことは不幸であったかもしれない。
グレンは身に纏う魔法を一時的に解いて、CTR達を見回す。相手も同じことを考えているに違いないと理解したうえで、刀を抜いて戦闘態勢をとる。同時に、8門の銃口がグレンへと向けられた。
開戦の合図はどちらからともなくおこなわれた。グレンは初撃を展開した炎魔法でかき消すと、一番近くにいたCTRへと斬りかかる。
CTRはとっさに判断して左手を前に出し斬撃を受け止めた。今までの感覚で切り落とせると思っていたものの左手は斬撃痕こそあるもののいまだ健在だった。
「硬くなっているのか!? ならば、こうだっ!!」
受け止められた刀を振り切る反動と炎で作った足場を巧みに使い、空中で回転し相手の頭上を越える。
背後に回られたと悟ったCTRはすぐに振り向こうとしたが動作が緩慢だった。強化されたとはいえ鈍重なのは変わらずすぐには対応できなかったのだ。
グレンは背後に回りこむと同時に再び切りかかろうとする。しかし、周囲から向けられた殺気を感じ取り、すぐに飛びのいた。同時に、2機のCTRが剣を交差する形でグレンがいた場所に振り下ろされた。さらに他の機体からもグレンの軌道を追いかける形で追撃がはいる。
スレイプニル隊は作戦開始前にこの場面を想定していなかったわけではない。令嬢を奪還するにあたり相手の中に二つ名持ちがいることは想定していた。そのための訓練も事前におこなっていた。それでもグレンの初動をつぶすことができず、戦況は拮抗していた。
「くそっ、動きが速い!! 前よりも強くなっているのか!?」
「左右から挟み込め、包囲網を敷いて追い込むんだ!!」
「駄目です、抜けられました!! 右腕損傷、稼働しません!!」
「変われ、俺が担当する!!」
めぐるましく動く死神をなんとか止めようとするがすぐに包囲を抜けていかれるため、部隊に焦りが見えていく。今まさに死神が炎によって1機の機体を包んだ。当然近くの機体が対応するが、後ろに目がついているかの如く躱される。そして燃え盛る機体に対して一閃すると首が吹き飛んだ。
「対応策は考えていた。機体も強化された。しかし奴はそれを上回っている。この戦争で成長しているというのか。」
「そうであれば、ここで仕留めるべきでは? あれが戦後も残り続けるのは脅威であろう。」
「簡単に言ってくれるぜ!! 弾がかすりもしないのにどう倒せっていうんだ。」
「奴も人間だ。疲れはくるはず・・・むっ、何をするつもりだ!?」
部隊の陣形を整えようとしたところところで死神の動きに変化があった。機体を斬って飛びのいた後今までの縦横無尽に動き回る様子はなく、ただ静止していた。そこにロケットや銃撃を浴びせても炎の壁によって阻まれてしまう。
「何をしようとしているんだ?」
「この空気、ロック砦と同じだ。気をつけろ、奴は本気を出してくるぞ!!」
「・・・了解っ!?」
爆風と風切り音にさらされながらグレンはこのCTR達を行かせてはならないと直感で理解していた。しかし、一刻も早くララのところに向かわなければいけないという気持ちもあり、それらがグレンのなかでせめぎあっていた。
「(こいつらを置いて行ったところで、ランスロット達との戦闘後に追いついてくるはずだ。ならば、こここで倒すしかない。)」
すでに連戦に次ぐ連戦でグレンの消耗は見た目以上にひどかった。神の力による自然治癒があっても、人の身体が耐えきれていなかった。これ以上長引けば最後に目的を達成することができないと考えたならば残すはもう一つの力を使うことだった。
「命を捧げろ、この力は死をもたらすのではない、守るべきものを助けるために使うんだ。・・・邪竜葬想。」
闇の力が、右手からあふれ出す。すぐに周囲に広がりだし右手の刀が黒く染まっていく。そして、侵食するかの如く大気を、大地を飲み込んでいく。
CTR達は以前にも見た光景に緊張が走ったのが見て取れた。それでも戦意は崩さず攻撃を続ける。彼らにも意地と信念があるのだ。
「悪いが死ね、紫電!!」
火の力と闇の力、それらが合わさった一撃は、一瞬でCTRの目前まで到達し強固な装甲をものともせず両断した。
一機が崩れ落ちて周囲の意識がそちらに向く。その瞬間にグレンは地を駆けだした。彼らの一瞬の隙は致命的な判断の遅れに繋がっていた。それを見逃すつもりはなかった。
「カースバインド!! フレイムストーム!!」
魔法の連続詠唱。一小節ながらも神の力で底上げされた魔法は、新型のCTRを拘束するに十分の威力を発揮する。一機のCTRが闇の霧との炎の嵐に飲み込まれながら周囲に助けを求めるがそれよりも早くグレンが到達する。
「参の型、覇黒っ!!」
先ほどの斬撃以上の威力を持ったそれはCTRを形なき残骸へと変えていった。
死神に変化が起きてからは一瞬の出来事だった。ロック砦で見た黒い何かがあふれ出した途端空気が変わった。そう認識した時にはすでに遅かった。
「これは・・・総員気を付け・・・」
「ぐぁっ・・・」
赤黒い何かが走ったと思い横を振り向けば、隊員の一人が物言わぬ骸となっていた。
「んなっ!!」
「アントニオ!」
「動きを止めるな!! 死ぬたくなければ動け!!」
ジンテツの命令はしかし次の死神の標的となった隊員まで聞こえはしなかった。
「うわあああ、隊長ぉぉぉ!!」
「機体を動かせ。止まっていては的だぞ!!」
「何かにつかまれてっ、びくともしないです!!」
そちらを見ると、機体は燃えているだけでなく黒い霧に覆われそこから延びる無数の手によって機体を絡めとられていた。
「待っていろ、スケール。すぐに向かう!!」
「早くしてくださっ・・・」
「「・・・っぁ!!」」
言葉を交わした直後、炎と闇に覆われていたスケールの機体は巨大な剣閃にて跡形もなく吹き飛んでいた。2人は開戦以来スレイプニル隊の一員として戦ってきた歴連の兵士たちだった。それがあまりの速さで死んでいったことで部隊の全員が絶句していた。
「くそがぁ!!」
隊員の一人が、剣を振りかざし死神のいる場所にたたきつける。死神はひらりと身を躱すが、すぐさま他の機体からの銃撃を受けた。しかし、死神の身体に纏わる炎と闇にかき消されてしまう。
「なんなんだ、あの化け物はっ!!」
「落ち着け!! まだ、負けちゃいない。」
「そうだ。 各員、推進材を使い切るつもりで回避に専念しろ。 奴とて無尽蔵に動けるわけではない。不意打ちに気を付けて包囲を続けろ!!」
「「「了解っ!!」」」
「想像以上に消耗しているな。 火と闇の両方を使った覇黒で魔力の1割は持ってかれたか。回復するとはいえきついな。 ・・・だが、ここで倒す。」
2機を不意打ちで倒したにも関わらずいまだ戦意が衰えないCTR部隊に対して、グレンは決意を新たにする。
「(すぐに助けに行くからな。待っていろよ、ララ。)」




