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19話 「交叉する意思」 後編

更新間隔が開いてきてすまぬ。

 グレンはガンダルムに滞在してからは修行に明け暮れていた。来たるべき決戦で敵を多く倒すために、死なずに生き残るために刀を振るっていた。しかし、それは迷いを振り切るためのものでもあった。


 剣を振ることを止めれば周囲の仲間のことを考えてしまう。ランスロットのこと。ルークスのこと。今までともに戦ってきた戦友たちのこと。そしてララのことを。


 「(強くなるためだけに戦っていたのにいつの間にか守るべきものが出来ていたもんだな。前なら師匠一人だったし、守られる立場だったから気にはならなかった。)」


 グレンの最大の目標はこの世の悪を潰すことだ。だが、それと同じくらいに悪によって苦しめられる人々を助けることも目標としている。大切だった家族、友人、街、それらすべてを失ってしまったからこそそう考える。それは今この戦争において機械派と戦っている仲間たちのことでもあった。


 「(世界を救うとまではいかなくても、これでも十分救うべきものは多いものだな。同情はしても協力するだなんて最初は思わなかった。)」


 以前言われた言葉を思い出す。あの時は本当に自分のすべてをさらけ出してしまっていた。それを受け入れてくれた少女の存在はとてもありがたかった。


 「(もう一度会うべきか、会わないか。・・・でも、会おうにも許しはでないだろうな。ランスロットは許さないだろう。・・・・・・この戦争が終わった後はどうだ? いや、その時にはもう遠い世界か。)」


 ララは機械派のもとへ戻る。そして俺は魔法派の人間として捕まるか再び旅に出ている。


 グレンは振るっていた刀をいつの間にか止めて、物思いにふけっていた。それに気づいて気持ちを切り替える。


 「今日はもうやる気が出ないな。・・・・・・帰るか。」


 そうして宿泊先である士官部屋へと足を進めた。




 「火ノ鳥グレン殿ですかな?」


 「ん?」


 グレンが宿泊している宿舎まで戻ってくると入口に見慣れぬ服を着た人間がいた。


 「貴族の執事か?いったい何の用だ?」


 グレンはそれを見るやすぐに嫌悪を表した。グレンにとって貴族は一部の人間以外は信用をしていなかった。自分たちが戦場にいる中で屋敷に閉じこもっているような人間の用事なんてたかが知れていたが、今回は事情が異なっていた。


 「主アリクア様からの言伝です。明日の午前、屋敷にて話し合いを行いたいとのことです。」


 「アクリア・・・?そうか、ロック砦で会った人か。」


 「お会いになるようお願い致します。」


 「拒否権はないってことだろう。」


 「ええ。明日また、お迎えに上がりますので。」


 「わかったよ。ここで待ってるさ。」


 「同意いただき感謝します。それでは失礼します。」


 言うべきことだけ伝えて執事は颯爽と部屋の前を離れていった。グレンは何も聞けずそれをただ見送っていた。


 「アクリアか。あいつならもしかしたら・・・いや、余計なことはしない方がいいか。会えばまたランスロットに迷惑がかかる。」


 グレンは漠然とした思いを胸にしまいこんで自分自身を納得させた。




翌日、早朝から執事は訪ねてきて、出立を促された。グレンは日課で早起きをしていたのですぐに支度をして部屋を後にした。そして、半刻ほど馬車に揺られて目的地に到達した。


 「ここが、アクリアの屋敷か。名のある貴族だけあってでかいな。」


 「お嬢様だけでなくお父上の力もある故この規模となっております。では、部屋まで案内いたしますのでこちらへ。」


 「ああ、分かった。」


 グレンは執事に連れられていくつもの廊下を通り通り抜けて目的の部屋へとたどり着いた。執事が部屋をノックすると中から入室の許可が下りる。


 「では、どうぞ。」


 「・・・ああ。」


 グレンは促されて、少し緊張しながら部屋へと入室した。そこには、以前会ったときと変わりない彼女の姿があった。


 「お久しぶりですね、グレン。どうぞお掛けになってください。」


 「確かに久しぶりだな、アクリア。半年くらいか。」


 「ええ、あれからあなたも随分と活躍されたそうですね。ランスロット様とともによく耳にしていますよ。」


 「まあ、な。それより何の用事で俺を呼んだんだ?おれは指揮官じゃなくて傭兵みたいな立場だぞ。」


 「お話をするより先に席にお座りになっては?立っているのも億劫でしょう。」


 「じゃあ、そうさせてもらおう。」


 グレンはすぐに終わる要件でもないと思い椅子に腰掛けた。相手の考えを読もうとすると、座るなり案内してくれた執事から緑茶が出てきた。


 「これは・・・」


 「あなたにはそちらの方があっていると思うのだけれど迷惑だったかしら?」


 「いや、久しぶりに飲めるからありがたいくらいだ。こっちでは好んで飲む奴はあまりいないからな。」


 「それなら出した甲斐があるものね。・・・・・・それで要件なんですけれども。」


 お互いが数口飲んでからアクリアは話を切りだした。グレンは飲むのを止めようとしたけれども、飲みながら話す方が良いとのことでその通りにした。緑茶の味は貴族が出すだけあっておいしい物だった。


 「前にも話したようにあなたは特別な力を持っていますよね。そして、それを使いこの戦争を戦っているとも。」


 「その通りだな。強くなるために俺はこの戦争を利用しているんだ。ほかの奴らには悪いとは思っているけど。」


 実際にグレンは死ににくい身体のため他の人間より死の恐怖は薄い。そしてそんな力を持っていても自分自身のためにしか使っていないことも自覚している。


 「ならばあなたは、魔法派のために戦っているわけではないのですよね。」


 「そうだな。あくまでも自分のため。今だと自分が守りたいと思った人、物のためだな。」


 グレンの中では既に後者の考えが理由の半分を占めていた。


 「だからと言って次の戦いで死ぬ気はない。守りきれないものは捨てるしかないし、その覚悟も少しはしてる。」


 「そうね。私も立場のある人として、守るべきものもあるし、犠牲にしなければいけないものもあるわ。」


 グレンはアクリアの言わんとしてることが分からなかった。ただ雑談をしにきただけのようにも思えた。


 「聞いてもいいかしら、あなたがもしこの戦争が終わった後も生きていたらそこに何があると思いますか?」


 「それは、俺が生き残ったら・・・・・・なにがあるんだろうな。」


 グレンはすぐに出せるだろうと考えた答えに悩んだ。強くなった自分がそこにいるのだろうか。いや、だれかがいるのか?だとしたら・・・・・・


 「あなたが本当に守るべき人や物がそこにいますか?」


 「いないな。」


 「そこは即答なんですね。もっと悩むものかと思っていましたけど。」


 「分かりきっているから、仕方ない。」


 そう答えたグレンは悲しい顔をする。いてほしいと願ってもそれは不可能だから。それを察したアクリアは毅然とした顔で話を切りだした。


 「・・・・・・分かりました。ではここからが本題ですね。」


 「貴族との話し合いって雑談するだけじゃなかったのか。」


 「私はそこまでダメな人間ではないですよ。」


 アクリアは咳払いをしてから話し始めた。


 「機械派の大統領のご息女は機械派との最終決戦が始まった後にここ首都からアステルダムまで護送されます。もちろんランスロット様もご同行致しますよ。」


 「それはっ!?」


 「どの段階で移動するかまでは分かりませんが、少なくとも戦いが始まるまではこの地は首都として機能せざるを得ないため、すぐにとはいかないと思いますよ。」


 アクリアはグレンが一番知りたかったことを教えてくれた。同時に内心を見抜かれているのではないかと驚きもした。


 「・・・・・・なぜそれを俺に教えてくれるんだ?}


 「ふふっ、聞きましたよ。あなたが彼女を保護していたこともランスロットと一悶着あったことも。そして、今日あなたがこうして私の元を訪れてくれたことが何よりも証拠です。」


 そう言って聖女のような微笑みを返した。


 「・・・・・・隠してるつもりだったんだがな。というか、それを教えてくれるってことは止めはしないのか?」


 「さっきの反応でだいたいわかりますよ。本来なら止める立場でしょうけど、私はあなたに生きてほしいから。守るべき大切な人が傍にいた方が生きようとも思えるでしょう?」


 「それは、そうだが・・・・・・」


 グレンは思いがけない助けを受けて素直に受け取れなかった。ララのことを知りたかっただけなのに、それを助ける手助けまでしてくれるとは思っておらず、アクリアは王様の意向に逆らってまで手助けしてくれていた。


 「いつものあなたらしく、自分のしたいことをすればいいんですよ。その方が期待できるんですもの。」


 「ははっ、分かった。素直に受け取らせてもらうさ。こんなにしてくれてありがとうな。いつかこの借りは返す。」


 「楽しみに待っているわ。それで、具体的な手段ですが、近衛騎士団を使っての移送になります・・・」


 アクリアは手に入れた限りの情報をすべて開示する。言葉の通り、グレンがやりたいことを完全にお膳立てしていた。二人は陽が完全に中空を過ぎることまで三刻ほど話し合っていた。


 「少し話し込んでしまったわね。そろそろお開きにしましょうか。」


 「分かった。アクリア、本当にありがとう。」


 「どういたしまして。後はあなた次第なんですから頑張ってください。」


 そう言い終えるとアクリアは執事を呼んだ。すぐに彼は出てきて帰り支度をしてくれた。グレンもそれにならって部屋を出る。そうして元来た道を戻り屋敷の外まで来た。


 「帰りの馬車はいらない。考えることもあるしな。」


 「では気を付けてお帰りください。」


 「ああ、あんたも気を付けてな。」


 グレンはそれだけ言って屋敷を後にした。




 「「俺が何をしたいか」か。やりたいことはララに会うこと。それをすればランスロットと戦わなければいけないし、ほかの奴らを裏切ることになる。それでもやるかってことか。」


 いままで漠然としていたものがまとまってきた。しかし、それを形にするにはあとひとつきっかけが足りなかった。グレンは思索にふけりながら帰路についていると、ふと爆発音が聞こえた。それと同時に警鐘が鳴り周囲が騒がしくなる。


 「敵襲だー!!機械派が攻めてきたぞー!!」


 「よりにもよってこんなときにかよっ!!」


 グレンは悪態をつくやいなや戦闘準備のため宿舎へと駆けだした。

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