19話 「交差する意思」 前編
お久しぶりです。生きてました。
短めですが、重要なお話です。
グレンとランスロットがガンダルムに入ってから数日が過ぎた。首都にはいまだ機械派の軍勢は見えておらず、街には活気がまだあった。魔法派の意地を見せようとする者、街を離れたくない者、行く当てを無くしてしまった者、それぞれが来たるべき決戦のために準備を整えていた。
ランスロットは街の活気から離れ王宮の中にいた。街に入った初日に新たな命令を受けて、今はそれを実行していた。いくつもある部屋を抜けて最奥にある来賓用客室の扉を開く。
そこには今まで囚われていた機械派の大統領の娘ララが本を読みながら椅子に腰掛けていた。
「あっ、まさかまたあなたに会えるなんて思ってもいなかったわ。もしかして、戦火がここにも迫ってきたってことかしら?」
新たな命令はララ・イラストリアの護衛。戦争を終わらせるための鍵のひとつ。彼女が魔法派の手の内にある間は、機械派も首都の関税破壊を躊躇うだろうという楽観的な考えの元、首都に拘留させていた。ランスロットは、彼女を連れてきたこと、二つ名持ちの実力者の中で明確に貴族だったことから護衛役として選ばれていた。
「まあ、その通りだ。近々ここを離れることになる。貴殿にはこちらで用意した馬車でここを離れることになる。」
「そう、まだ逃げ続けるのかしら。あなた達にはもう残された場所は少ないでしょう。ましてやここは首都でしょう?なぜ逃げる必要があるのかしら?」
ララは読みかけの本を閉じてランスロットに正対した。
「ここが最後だからだ。ここが落とされた後国王陛下は降伏する手はずになっている。その際、交渉の材料となるのはお前だ。」
「やっぱりそうなるのね。・・・・・・国という形を残すためか、でも、お父様は私のことなんて気にもかけないと思うわ。そういう人だったたから大統領になっているのよ。」
「それは、その時にならなければ分からないだろう。私の用事はそれだけだ。用は済んだが言いたいことはそれだけか?ないなら私は立ち去るぞ。」
ララは少し言い悩むようにして、答えた。
「あなたも、国を残すために戦っているの?」
ランスロットは答えをすぐには紡ぎださなかった。そうだと言えばそれまでだ。しかし、その建前すらいえないほどに少女はまっすぐランスロットを見ていた。
「グレンからあなたのことを聞いたの。そして短いけれどもあなたと話して分かったの。あなたはこの国を救うことを考えているのではなくて、機械派に復讐することを考えているって。」
少女は正しくランスロットを見ていた。自身の内情を知られて動揺こそすれどそれを表には出さない。
「お前の考えは分かる。だが国を救いたいことは確かだ。」
「何もかもを失ったのに?」
苛つく。捕虜である少女がすべてを見通しているようで冷静さを失いそうだった。しかし、次の言葉は違った意味で驚いた。
「グレンは復讐だけを考えていたわ。国なんて関係なかった。どうしようもない理不尽にすべてを奪われて、その存在もすでにこの世にいない。だから、今この世界にある理不尽を無くすために強くあろうとしている。それが彼の本質よ。」
「一か月ともに過ごすだけで奴のすべてを知った気でいるのか?」
「そんなことはないわ。でも、私はそう考えただけよ。」
「・・・・・・」
「ねえ、グレンは今どうしているのかしら?」
その言葉は先ほどまでの理知的なものではなく一人の少女のものだった。
「あいつは・・・・・・おそらく首都防衛の戦いに出るだろう。そして、その後どうなるかは分からん。想像だが機械派は許しはしないだろう。あれだけの殺しをしたのだ。少年であろうと知らなかったで済むほど奴は血にまみれてはいない。」
「そうよね。だからこそ、お願いがあるの。」
「一応、聞こう。」
「もう一度だけ彼に会わせてほしいの。一つだけ伝えたいことがあるから。」
「・・・・・・」
不可能だろう。そうランスロットは結論付けた。会えば、止まらないだろう。そして切り札を2つも失えば国を生かすどころではなかった。
「善処はしよう。だが期待するな。」
「そう、ありがとうね。」
悲しげな顔で少女は答える。それに罪の意識を覚えこそすれど考えはしない。
「話はおしまいだ。その日が来るまでおとなしくしていろ。」
「分かってるわ。」
ランスロットは名残を惜しむことなく部屋を後にした。
ララはランスロットが去ることで一人部屋に取り残された。
「・・・・・・グレン、あなたに会いたい。会って伝えたい。私の気持ちを。」
ララは心細くつぶやくと読みかけの本を再び開くことはなく、ベットで横になった。既に本を読む雰囲気ではなかった。
戦争は終わりに近づいている。終わりに近づくほど人は多く死んでいく。ララ自身はいつ死んでもおかしくない。それよりももっとグレンが死ぬ確率の方が高い。
そうなる前にもう一度会って彼に気持ちを伝えたい。彼と別れた時からそれは変わらない。あんな別れをしたのだから、拒絶されるかもしれない。だが、たとえ拒絶されようとも伝えたいことはある。
巡る思いを願いとして言葉に出す。
「死なないでね、グレン。」
それだけつぶやくと眠りに就いた。夢の中にあるのは、今まで生きてきた12年間ではなく、二人だけで過ごした一か月の思い出だけだった。




