18話 「時代の狭間」 前編
「(お前だけは許さない、殺してやるっ!!)」
グレンはクロスストリートを離れて数日、首都までの道中で他の仲間たちと野営をしていた。しかし、仲間の中に溶け込もうとはせず、人はずれの場所でグレンはその言葉だけを反芻していた。この言葉は直接言われたわけではない。だが確かにそう言われたのが分かった。その言葉を発した人間はもう死んでいるだろう。
「あそこにいたのは間違いなく子供だった。なら、ほかの機体にも同じくらいの子供が乗っていたのだろう。そして仲間か友人を殺されたからあんなことを言ったのだろうな。」
ランスロットから先ほど戦ったCTRのことを聞いていた。つい最近現れたあれは新型であり、名前は「ヴァンブレイド」というらしい、グレンが失踪した直後くらいから現れ、魔法派に対して絶大な戦果を挙げていたらしい。特徴として大型剣2丁のみを主武装として、生半可な魔法を打ち消す装甲を持っていた。だが、グレンにはあの装甲がただの装甲ではなく魔力が纏われていることに気づいていた。
「子供の純枠さを利用した人体実験ってやつか。胸糞が悪いな。」
グレンは先日のCTRとの戦いで起こった魔法の無効化が子供の持つ純粋な魔力を魔力元として魔法の結界を装甲に覆わせていたと考えていた。しかし、その仕組みは魔法使いが人形に魔力を吹き込むことと同じだが、どうやって人間から魔力を取って装甲まで伝えているのかが全く分からなかった。
それを考えるよりもランスロットのことが気がかりだった。先の戦闘での取り乱しようはランスロットの子供が関係していないはずはなかった。
「あいつにとって子供はトラウマになっているのか・・・だとしたら、俺はどうなんだろうな?」
ふと、グレンは自身のことを考えた。あいつにとって子供が戦争に巻き込まれることが嫌いなら、俺と最初に会ったころは嫌だったのかと思った。しかしそれはすぐに、吹き飛んだ。
「おまえのことはもう子ども扱いなどはしていないぞ、グレン。」
「っ!! ランスロット、いつからいたんだ。」
「今来たばかりだが、お前らしくもないな。考え事か・・・いや、聞かなくても分かるか。」
「そうだな。」
ランスロットが隣に座る。グレンはランスロットに聞くべきことを遠慮なく聞いていた。
「どうなんだ、子供が戦場に出ているのは?」
「・・・。」
ランスロットは答えなかった。しかし、それは無言を貫いているのではなく、驚き唖然としているものだった。
「どうした?」
「いや、こちらのことを分かったうえで、率直に訊いてくるのは予想外だったからだ。」
「いつもじゃないか?」
「いつもならこんなことは訊かれないし、こちらの過去にも触れていなかったからな。」
ランスロットは止まっていた頭を再び働かせてあらかじめ考えていた答えを出す。
「正直憎いな。娘が戦火に巻き込まれたこともあるが、戦場に強引に駆り出されているのは不愉快でしかない。さっきの子供は実験体だったろう。そして、多くの仲間を殺した。だから憎いんだ。機械派のやることがな。」
「そうか、聞かせてくれてありがとな。」
「ふんっ、お前からこのような形で感謝の言葉をもらうのは慣れないものだ。俺はもう行くぞ。」
「ああ、引き留めて悪かった。」
ランスロットは会話を終えるなりすぐに立ち去って行った。指揮官の立場であるため、道中の指揮を保つ仕事の途中だったのだろう。
「行ったか。・・・・・・じゃあ、ララを利用したことはどうなんだって、聞くことが出来ればどんなに良かったんだろうな。」
グレンはランスロットの言葉を聞いて真っ先にララのことを思い出していた。同時にそれほどまでにララのことを気にかけている自身に寂しさを感じていた。
1189年7月
ロック砦の陥落から3か月、クロスストリートの陥落から半月ほどが経過した。機械派はクロスストリートを首都攻略拠点として部隊を集結させようとしていた。
「いまだ、傷は癒えぬか・・・」
「はい。先月の攻略戦の際に基地の自爆攻撃によって基地攻略部隊が大きな痛手を負ってしまいましたからね。それだけでなく、前線においても主力であった実験部隊が全滅とあっては早々動き出すことは不可能でしょう。」
ロック砦に引き続き攻略軍の総司令官であったジラート大将とその副官は目の前に広がる焼け焦げた廃墟とその隣で右往左往する自軍部隊のあわただしさを観察していた。
「あの実験部隊は子供を使っていたな。私は知っていたが、部下たちは噂程度に実態を知りはしなかったろう。」
「回収に行った部隊が驚愕し、野営地にいた実験部隊の科学者たちはひどく非難されていましたね。」
「まあ、まず倒されることは想定されていなかったろうな。死神が現れるまではな。」
「あれは、同じ子供でも規格が違いますよ。本物の悪魔に魂を売り渡していなければ、あんな力は出せませんよ。」
「私も同意見だ。しかし、あれは最後の戦場にも現れるだろうな。その時は確実に殺しておかなければ後々悔恨しか残さないだろう。我々にとっても本人にとってもな。」
ジラートは素性も知らぬ少年のことを案じはするも同情はしなかった。
「同感です。ただ、数を持って当たるのは愚策かと。貴重な人員を大量に失わせるわけにはいきません。ですので、なにかと因縁もあるジンテツの部隊に当たらせるようにしましょう。」
「彼らか、確かに適任だな。だが度重なる出撃で部隊は消耗しておろう。それに先日も戦死者が出たそうでないか?」
「そうです。そのため彼らにはしばらく後方へと回っていただき新型の完熟操縦を行ってもらおうかと考えています。」
「ふむ、よかろう。その手筈で進めたまえ。」
「はっ!」
副官は了承するやいなや新たな仕事に取り掛かるため駆け去っていった。
「ようやく、この戦争も終わりが近づいてきたか。魔法から機械へと移り変わっていく。次の戦いで我々の時代がようやく来るのか・・・・・・」
ジラートは感慨深く砲火の跡が残る町並みを見下ろしていた。




