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17話 「撤退戦」 後編 

 半刻前、城壁北側。


 今なお魔法使いたちは健在だった。周囲にはおびただしい数の機械の残骸。同じぐらいの同胞も倒れているが、それでも今立っているのは、魔法派だった。


 「新たなCTRの部隊を確認。数は6。現状でもなんとかなるかと。」


 「そうか。そろそろ撤退の機会だろう。他の連中が撤退するまで時間を稼ぐ。総員、抜剣。ありったけの魔法を奴らにぶつけろ。」


 「「「了解!」」」


 騎士の恰好をした身なりの良い魔法使いたちは、魔法剣による魔法砲撃を開始した。CTR達はたちまち爆風に包まれ見えなくなる。今までであれば、粉煙が収まればそこはガラクタの山だったが、今回は違った。CTR達は健在だった。


 「なに。効いていないのか!? こんな時に面倒な。各位、散開。白兵戦で仕留める。伝令、情報を他の部隊に回せ。」


 「はっ。」


 伝令は駆けだす。背後では、魔法騎士たちが戦闘を開始した。しかし、すぐに音がぽつぽつと消えていった。不審に思った伝令は、振り返ってはいけないのに振り返ってしまった。そこには、1分と経たず串刺しにされた魔法使いたちが目に飛び込んできた。




 グレンが向かった先では既に大勢が決していた。多くの魔法使いたちが倒れており、残りの人間はなんとか生き延びているだけにすぎなかった。対照的に機械派の戦力は、わずかCTR六機だけだったがどれもが目立った損傷をしていなかった。それ以外の機械派の兵器や兵士はどこかへと消えてしまっていた。


 「くそっ、おい大丈夫か。」


 CTRが沈黙している間に、グレンは近くに膝をついていた魔法使いに話をしに行った。


 「うぐっ、なんとか。」


 「いったい何があった。あのCTRは何をしたんだ?」


 グレンはCTRの方を見る。新手が来たにも関わらずCTRは沈黙していた。魔法使いもそちらの方を見てから口を開く。


 「あいつには魔法が効かないんだ! 無効化されちまってどうしようもなかった・・・」


 「魔法が効かないだと!? ・・・分かった。とりあえず残っている奴らは門前まで撤収しろ。」


 グレンはそれだけ言うと、CTRと向き合い、歩いて行った。


 「あんたでも無茶だ、魔法が効かないんだぞ!」


 魔法使いは警告するが、グレンは問題ないとでもいうように手を挙げただけだった。彼はしかたなく、二つ名持ちである実力を信じて、残りの生存者たちの救出に向かうようにした。




 「(大丈夫とはいえ、どれだけ戦えるものかな。)」


 グレンは内心で敵の実力を見定めていた。CTR達はいまだに沈黙を続けている。そして随伴兵達が全く見えないこともグレンが迂闊に突っ込めない理由だった。


 またこのCTR達が両手に剣しか持っていないこともグレンを戸惑わせる理由だった。


 「(あまりに近接戦闘に主眼を置きすぎていないか。)」


 しかし事態は急を要しており、いつ増援が来るかも分からない状況のため、選択肢は一つしかなかった。


 「正面から潰すしかないか。」


 グレンは刀を両方とも抜き、刀身に炎を灯した。同時にCTR達が動き始める。今までのCTRとは違い目の前の存在は六機すべてが推力にものを言わせて突っ込んできた。


 「んなっ、覇黒っ!!」


 グレンは一瞬で安全な距離から詰められたため、反応するや否や正面に大質量の斬撃を放った。放たれた斬撃はCTR達に命中した。しかし、わずかながら押されたもののその勢いは衰えることを知らなかった。


 「今のは・・・っ!!」


 グレンは放った技が当たったときの違和感を感じるも、考える間もなくCTRが突っ込んできたため咄嗟に回避する。


 先頭の三機は勢いのあまり通り過ぎたが、残りの三機は足を踏みつけて軌道をずらし、グレンを追尾する。


 「来るかっ。魔法が効かないなら叩き斬るのみだ。」


 グレンは躱した足を止めて、正面からCTRの剣とぶつかる。剣と刀。質量と質量。どちらも膨大な力をぶつけ合った結果、競り勝ったのはグレンだった。


 CTRは仰け反る。しかし、後続の2機が先頭と変わるように左右から襲い掛かる。


グレンはあらかじめ予測していたため、競り勝った勢いでもう一太刀を振るう。さらにもう一太刀を連続でCTRの剣とかち合わせた。


 一瞬の攻防。三機に対して退くことをしなかったグレンはそのまま魔法を行使した。効果が薄いとはいえ目くらましには使えると考えたからだ。


 「ファイアーストーム!!」


 詠唱し、2つの魔法陣を生成する。そして即座に魔法を湧き上がらせた。左右のCTRは突然の炎の渦に視界を遮られた格好だった。


 「まずは一つだ!!」


 グレンは魔法で動きを制限されている左右の二機を置き去りにして最初に仰け反ったCTRへと駆け抜けた。そのCTRはすでに体勢を立て直しているがそれでもグレンは肉薄した。


 CTRが剣を振りおろす。それを躱すと、もう片方の手に握っていた剣で横に薙いできた。グレンはそれを飛ぶことによって回避する。


 無防備状態になったグレンだが、空中に魔法で足場を作り、そのまま踏み込んだ。


 「一の型、紫電!!」


 左手から繰り出される必殺の一撃がCTRへと振られる。一太刀でCTRの装甲が抉られた。しかし、魔法体制が高いのか破壊にまでは至らなかった。


 「(浅いっ! だが・・・)」


 グレンは刀を振り抜いて着地をすると、抜き放っていた刀を納めるのではなく右手に持っていた刀を返す形で二の太刀を繰り出した。


 「燕返し!!」


CTRの無防備な背面に繰り出された斬撃は動力部を真っ二つにした。背面にまで防御が行き届いていなかったためかあっさりとCTRは斬られ、火花を上げるのも一瞬にして爆発を起こした。


 「ちいっ!!」


 退避してはいたものの予想以上の爆発にグレンは体勢を崩した。その瞬間を今まで離れていたCTR達が殺到してくる。銃撃こそないものの振られてくる剣は一撃でグレンの命を奪えるものであり、グレンは必死に避けていく。


 「動揺していないのか、くそっ!!」


 グレンは予想以上の戦闘力を持つCTR達にこれ以上は時間を掛けられないと判断して本気を出すことを決めた。CTR達が固まってきた瞬間を狙い、一気に距離を取る。そしてCTR達がグレンにつられて距離を詰めてくる前にグレンは詠唱をした。


 「覚醒、幻想の零・・・」


 言葉を紡ぐとグレンの周囲に炎が巻き起こる。そしてグレンの両手に持つ刀身も炎を纏う。しかし変化をそれで終わることはなかった。


 「思い出せ、邪竜奏想。」


 次の言葉を発すると、周囲に広がった炎に交じって闇がグレンを中心に溢れ出していた。そして刀身にも闇が混じり、炎と闇の螺旋を描いていた。その異常な光景に先ほどまで恐れを知らなかったCTR達が立ちすくんだ。まるで中の搭乗者ごとCTRが震えているようにも見えた。


 グレンはそれに構わず、むしろ好都合だとしてまず左の刀を頭上に掲げた。数秒の溜め。それだけで膨大な魔力が刀へと纏われていき、ついには数メートルにもなる巨大な刀身が出来上がった。


 「覇黒・天翔!」


 その一振りはCTR3機を一気に吹きとばした。圧倒的質量が高速で駆け抜けていったのだ。避ける間もなく3機は直撃をもらった。わずかに抵抗したのも束の間、あっという間にバラバラの鉄塊となって遥か彼方へと吹き飛んでいった。運よく生き残った2機は即座に散開、挟撃を仕掛けにいく。しかし、それはなされることはなかった。


 「覇黒・天翔っっ!!」


 二振り目の斬撃。今度は左手で上段に構えた刀を振り下ろした。それは瞬く間に左から仕掛けてきたCTRを直撃し大破させた。


 この地点で最後のCTRはグレンを殺すことはほぼ不可能となっていた。しかし、立ち止まることはなく、ましてや逃げることすらせずただ、直進してくるのみだった。


 「開き直って死にに来るかよ。くそっ。」


 「殺、し、て、や、る」


 「なに?」


 グレンは一瞬聞こえた声に惑わされず荒れる呼吸を整えながら迎撃した。やみくもに剣を振りまわしてくるCTRに対して左手、右足、頭めがけて3回振っただけでそのCTRは戦闘能力を奪われ、勢いのまま横向きに地面に衝突した。


 戦場に静寂が訪れる。グレンは展開していた炎と闇を収めると、力が抜けていくかのように膝をついた。


 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・疲れたっ!!」


 自身の魔力をかなり使う「覇黒」のさらに強化版を二度も放ったため、グレンは短時間でかなり疲労していた。


 「覇黒・天翔」

 これはグレンが編み出した現地点での最強の技であり、炎と闇の魔力を刀身に集中させ、一気に解き放つ大魔法のようなものだった。当然、魔力消費は激しく今のグレンでは2発放っただけで魔力が一時的に底をついてしまっていた。


 「だがこれで、撤退の時間は稼げたか。」


 グレンの目的は味方の撤退までの時間稼ぎだった。それが、熱くなりすぎて全部を片付けてしまった。今更後悔しても仕方ないと思い後ろに目を向けると味方は既になく、一人取り残されているだけだった。いや、ひとりが今まさに駆けてきた。




 「グレン、無事かっ!!」


 ランスロットは血相を変えてグレンのそばまで来ていた。


 「なんとかな・・・敵も倒しておいた。」


 「かなりの魔力が使われていたが、こいつらを倒すためだったのか・・・・・・」


 ランスロットはグレンと同じ方向を見た。そこには無残にも破壊されたCTR達が散乱していた。しかしそれ以上にランスロットの中には先ほどの異常な魔力とその破壊力に恐怖しているものもあった。


 「(やはりグレンは敵にしたくはないな)」


 そう心に誓っていると、グレンの様子がおかしいことに気づいた。


 「どうした、グレン? お前らしくもない驚いた顔をして。」


 「・・・・・・子供の声がした。戦場で。いや、まさか・・・!?」


 「子供だと? おい、どこへ行く!」


 グレンが意味不明な言葉を発して立ち上がり歩いて行くのをランスロットは良くわからずに追いかけていく。




 グレンはCTRの傍まで行くと搭乗者が乗っているであろうコクピットの四隅を斬り、外装を斬り落とした。そして中を見てみると、そこにはまだ幼さの残る子供が血みどろに横たわっていた。


 「くそっ、やっぱりか。」


 グレンは悪態をついた。声が聞こえたことは一度あった。だが今度は助けを求める物ではなく、恨み言だった。それでも子供の声がしたことが気になって確認したらこの様だった。追いついたランスロットも中を確認するや否や、怒鳴った。


 「なんだこれは!! どうなっているグレンっ!!」


 「俺も今知ったばかりだ。だがこれは・・・ひどいな。」


 ランスロットの話を聞いた直後にこんなものを見せられれば怒りは当然湧いてきた。だが、ここで問答をしていても時間の無駄だと考えたのかランスロットは撤退の判断をもう一度下した。


 「くっ・・・言いたいことはいろいろあるがここで言っても仕方ない。撤退するぞ、グレン。動けるか?」


 「問題ない、急ぐか。」


 「ああ。」


 二人は子供の生死までは確かめなかった。死んでいることが確かだったからだ。たとえ生きていたとしても、二人が助けることはなかっただろう。


 二人が街を去って間もなく、機械派による占領宣言がなされた。これによって魔法派の残りの要衝は首都を残すのみとなった。


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