16話 「戦友」 後編
だいぶ遅くなってしまいましたが生きています。
草原を進んで首都へと向かっていく馬車があった。その車内ではランスロットとララの二人が沈黙を保ちながら特が過ぎるのを待っていた。
「(この娘が機械派のあの大統領の娘か・・・)」
ランスロットはまだ戦争が始まる前にアトランス市長であったフレンブルグ・イラストリアを見たことがあるが、圧倒的なカリスマと底知れぬ野心を持っていたことを覚えている。それ故にあの男の子供がこんな普通の少女だとは思ってはいなかった。
「(しかし、グレンに別れを告げたときは違ったな。あれは周囲を拒絶する声音だった。)」
少女がグレンと別れるとき、グレンは少女を守る気でいたが、だからこそ俺も剣を抜こうとした。しかし、彼女が割っていることで大事には至らなかったといっていいだろう。
「(才能か、演技か、いずれにしろこうなることを見越していたのならばそれは大物だろうな。)」
ランスロットは目の前の少女を見定め終えるとしばしの眠りに落ちた。無防備といわれようとも、目の前の少女がどんな状況に置かれていてどうすればいいのかなど判別できるのだから心配する必要などなかったのかもしれない。ただ、娘が生きていたら同じ年頃だったのだろうと思いにふけながら眠った。
それからしばらくして王都につくや否や、二人は王宮の玉座へと連れていかれた。捕虜とはいえ敵国の特権階級の人間に謁見しないわけにはいかなかったのだ。このとき、ランスロットは少女には抵抗の意思はないと押し通して拘束具は一切付けさせなかった。
二人の入室と同時に周囲の視線が一斉に集まった。だれもが少女を見ていてたが少女はその視線をものともしていなかった。二人が所定の位置まで来ると国王は娘を見て苦々しい顔を浮かべながらも敵国の人間とはいえかわいそうだから来賓待遇にせよなどとつらづらと命じた。その間も娘は周囲にさらされる恨みや侮蔑の気配を感じていないかのように毅然として国王を見ていた。それに耐えかねた国王は早々に場を立って行ったため早々にお開きとなった。
「こちらがお部屋でございます。」
給仕に案内されて王宮の一室に連れてこられたララとランスロット。ララの服装は小汚いものではなく貴族の令嬢に与えられる小奇麗なものになっていた。
「では、私はここで失礼します。」
給仕はそそさくと下がっていく。後には2人が残されただけだった。
「ふぅ、ようやく終わったか。お前も寛大な処置に感謝するんだな。捕虜とはいえ最低限の生活は保障しなければ交渉の際に不利になるからな。」
「それなら、なおのこと誘拐時の待遇について非難してあげるわ。」
ララは今もランスロットには心を許してはおらず、きつい口調で答える。
「どういうことだ?」
ランスロットは心当たりのない返答に疑問を感じられずにはいられなかった。
「どうもこうも、私は乱暴にされたのよ。グレンが助けてくれなければ初めても奪われていたのよ。あんなならず者が魔法派にいるのならば信用なんて初めからできないわ。」
「・・・それは初耳だな。まさか、グレンはただの善意で助けただけとでも言うのか?」
「あなたもグレンと付き合っているのならばそれぐらいはわからないの?」
ランスロットはもっともな指摘を受けてしまった。確かにグレンは悪人であれば味方でも容赦はしないことをランスロットは知っていた。だからこそ機械派の頂点に位置する男の娘など許しはしないと思っていたのだ。
「確かにお前の言う通りだな。だが、お前はグレンをたぶらかしたのではないのか?お前を守ってくれるようにな。」
「ふふっ、心外ね。私を助けてくれたのはグレンだし、私を連れて行ってくれたのもグレンよ。そして、私に生きることを教えてくれたのもグレン。私は明かさなかったけどグレンは私の正体にうすうす気づいていたわ。でも、私がここに来ることを望んだのよ。グレンがいらぬ疑いを掛けられないようにね。」
ララはあくまで毅然と釈明した。捕虜とは思えない優雅な素振りでランスロットに訴える。
「・・・お前がそこまでする理由はなんだ?」
ランスロットの疑問にララは一瞬顔を落としたがすぐに向き直り答える。
「グレンに恩返しするためよ。・・・私を助けてくれたお礼にね、それだけ。」
ララは付け加えるように話を断ち切って別の話題に移らせた。
「それよりも、あなたがグレンとどのようにして付き合っていたか聞かせてほしいわ。グレンはあなたのことを随分と信頼していたもの。」
「あいつがそこまで俺のことを言ってくれていたのか?」
「ふふっ、言うも何も私のことであなたに頼ろうとしたぐらいよ。」
ランスロットは以外にもグレンから頼られている事実を知るとともにグレンがこの少女にも心を許していたことに驚いた。だからなのか、つい気を許した質問をしてしまう。
「グレンは難しいやつじゃなかったか?あいつはいつも自分勝手な奴だったからな。」
「あなたがそういうのならそうなのでしょうね。でも、私はそれでもよかったもの。あなたにしてもグレンとはなんだかんだ言ってよく付き合っているように思えたわ。」
「俺はあいつに悪いことをしてしまったか。あいつを一番信頼していなかったのは俺の方だった・・・」
「それならごめんと謝るだけのことよ。グレンもまだ子供なのだから本気にしていると思うわ。」
「そうだな。ずっと、前からそういうやつだった。」
いつの間にか2人はグレンの話題で打ち明けていた。ララはランスロットのことを知り、ランスロットもララの人柄を知った。お互いが敵同士であることを忘れ、共通の友人について語り合ったのだ。
ランスロットは起きたことをそのままグレンに話した。グレンは真剣に聞き入っており話し終える頃にはいつもの調子に戻っていた。
「そんなことがあったのか。相変わらず口だけは達者なやつだな。」
「ふっ、貴様に言えたことか。ともかく俺が貴様にやるべきことは謝罪だ。すまなかったな。」
ランスロットは出来る限りの頭を下げた。
「んなっ、そこまでしなくてもいいさ。また一緒に戦ってくれるなら俺としてもありがたいし。」
グレンは戦友の慣れていない行動にたじろいだ。
「それに、ランスロットのことを知って改めて強いやつだって思えた。そんなやつの隣に俺がいたことは初めから幸運だったもんだ。」
「俺も貴様と一緒にいたからこそ生き残れたのかもしれんな。」
二人はわだかまりもなくなって以前のように戦友として接していた。
そんな和やかな雰囲気は突如、破砕音によって破られた。砲音が聞こえたかと思えばクロスストリートの壁が爆発したのだった。
「なっ、敵襲かっ!!」
「くそっ、タイミングが良すぎるのか悪いのか分からないな。」
「とっとと行くぞ!」
「分かってる。」
二人は驚きながらもすぐさま街の方へと駆けだしたのだった。




