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16話 「戦友」 前編

 「ふっ!!」


 刀が振り下ろされる。それをルークスは寸でのところで躱して反撃を行おうとする。しかし、先読みをされたかのように刀の二撃目が横薙ぎに迫ってくる。


 「落ちろ・・・っ!?」


 すぐに詠唱を止めてまた躱す。しかし、二度目の無理な動きで体勢が崩れてしまう。それを見逃さないように三撃目が振り下ろされる。体勢を崩して避けることのできないルークスはすかさず目をつぶってしまった。


 しかし、刃は降りてこなかった。目を空けると刃はルークスに届くことはなく眼前で止められていた。


 「はぁ、はぁ・・・参りました。」


 息を吐きながらルークスは降参するように両手を上げる。すると刀は引込められた。


 「修業が足りないな。こちらの動きが止まっていない以上考えも無しに動くことは禁物だぞ。」


 グレンは弟子を戒めるように指摘していく。




 グレンがルークスを鍛えるようになってから一週間以上が経った。ルークスはめきめきと実力をつけていき、今では実戦訓練まで行うようになっていた。しかし、グレンも手を抜くわけでなくいつも決着はあっけなかった。


 「グレンさんは強すぎますよ。最近刀を直してもらってからはさらに磨きがかかっていますね。」


 「そうか。たしかに前よりも速くなっているがな。」


 グレンはマグニッツに刀を鍛え直してもらってから動きも速さも変わっていることを実感していた。それは今までの刀ではグレンについていけてなかったことも意味していた。


 「やっぱり俺も強くなっているのか・・・」


 この戦争を通して最強になる野望に一歩近づいているのだろう。しかし、昔なら素直に喜べたのに今は拭い切れない不安が胸の中にあった。


 「ルークス、ちょっといいか。」


 「なんですか?」


 「お前は何のために強くなろうとしてるんだ?」


 グレンはルークスが教えを乞うてきた理由を聞いてみた。グレンに憧れているからといって師事するぐらいならそれも理由のひとつだが、本当のところは別にあるのではないかと疑問だった。案の条ルークスは歯切れの悪い答え方だった。


 「えっと。そうですね・・・すこしあって・・・」


 「答えられないか? 悪かったな。」


 「いえ、そうではありません。・・・ただ、言ってしまえば生き残る理由があるからです。」


 「ほう、そのために強くなるのか・・・みんな、そんなものだな・・・」


 グレンの言葉尻は自分に言い聞かせるように消えていった。


 「グレンさんにはどんな理由があるんですか? 前から聞いてみたいと思っていたんです、その強さの秘密を。」


 ルークスは純枠に聞いてくる。その光景はひと月前にララとのやりとりでも見たものだった。


 「(はっ・・・そんな前のことでもないのになぜ遠い過去のように思えるんだ?)」


 突然頭の中で再生された回想にグレンは驚いた。グレンはララとの出来事を忘れようとしていた。それが今、再び盛り返したことで胸中に漠然としたものが渦巻いていく。


 「グレンさん?」


 グレンがなかなか答えないのでルークスが不安気に聞いてくる。


 「・・・ああ、悪い。そうだな、俺は強くなるためだ。そして最強になることを目指しているんだ。」


 グレンは自身に言い聞かせるように答える。しかし、それが生き残る理由なのかが分からなくなっていた。グレンの力をもってすれば生き残ることなんて簡単だった。ただ、この戦争が終わったからといって目的が変わるわけではないことは分かっていた。


 グレンと周囲の人間は根本的に違う。グレンは圧倒的な力を持っているため生き残れるだろうという楽観的な考えだった。しかし周囲の人間にしてみれば日々を生き残るだけでも精一杯であり戦後のことは理想や夢に等しかった。だからこそ心が強くあれることをグレンはこのときまだ知らなかった。




 グレンは一日の修業を終えてルークスと別れる。刀の手入れをするために宿舎へと向かう途中、基地入口の衛兵を務める二人に出会った。


衛兵の二人はグレンを見て一瞬逡巡したが、それより先にグレンから挨拶をした。


 「よう。」


 努めて冷静に片手を挙げて挨拶をして、そのまま横を通り過ぎようとする。


 「待ってくれ、グレン。」


 衛兵の片方が思わぬ返事を発してグレンは足を止めた。


 「なんだ? 俺は忙しいんだ。」


 何が言いたいのか分かっているからそグレンは体を返して二人を見る。


 二人は、顔を見合わせて意を決したように口を開いた。


 「さっき、首都の方から・・・ランスロットが帰ってきた。」


 「っ!!」


 グレンは一番気がかりな問題に触れらたことで驚きを隠せないでいた。


 「ランスロットには会わないのか?」


 グレンがランスロットとは会いたくない心情を察しているからか、二人は恐る恐る聞いてくる感じだった。 


 「今は会う気がしない。」


 ぶっきらぼうに言い捨ててグレンは去ろうとした。しかし、衛兵の二人はそれでも引き留めてくる。


 「待ってくれ、あいつの話だけでも聞いてくれ。」


 「聞いてどうするんだ?」


 「吐き捨ててもいいんだ。だが、俺達はお前にランスロットが戦っている理由を知っておいてほしいんだ!!」」


 「あいつが戦う理由か・・・」


 グレンはロック砦でランスロットが言っていたことを思い出した。あのとき、たしかにランスロットは家のことを気にしていた。


 「あいつの家が関係しているのか?」


 衛兵の二人は顔を見合わせて合ってはいるが違うと言うような表情をした。


 「正確に言えばランスロットの「領地」だな・・・」


 「会って聞いて来れば分かる。お前にはあいつの気持ちも知っておいてほしいんだ。」


 グレンは渋るように答えを出せなかった。ランスロットとはなんだかんだあってもやってこれた。しかし、あの件で完全に意見が違えた。その理由がいま二人の言っていることなのだろう。


 「あいつは、お前が行方不明になったとき誰よりも心配をしていた。だから、今回のお前との仲違いもあいつにとって苦しいことなんじゃないかって俺は思う。」


 「認めろとは言ってない。だが、お互いの理由ぐらいは知っておくんだ。」


 戦場においてそれは禁句とされていることだった。過去を詮索することはお互いが避けていることだっだ。だが、それでも衛兵たちはグレンとランスロットをどうにかしたいという思いがグレンに伝わってきた。グレンは衛兵たちに背を向けて言う。


 「・・・分かったよ。・・・あいつに会うさ。だが、相容れない場合はそれまでだ。」


 今までにないくらい緊張した面持ちでグレンはランスロットがいるであろう場所へと向かった。




グレンはランスロットがいるであろう場所を知っていた。ランスロットはことあるごとにいなくなったと思えば決まって同じところへと出向いていたのだ。それを知ったのはランスロットと出会って間もないころだった。


 「やはり、ここかよ。」


 グレンは基地の裏手にある共同墓地にいた。そこはこの戦争で亡くなった軍人も民間人も葬られている形だけの墓地だった。


 ランスロットは墓地の中心に建てられているモニュメントの前にいた。グレンは近づいて行くがランスロットは気づいていながら振り向かなかった。


 グレンもランスロットの近くにたどり着きながらも言葉を発さなかった。ただランスロットから口を開くのを待っていた。


 しばらくの沈黙の後、ランスロットは背中越しに口を開いた。


 「来てくれるとは思っていなかったぞ。」


 「俺だってただ会いに来たくはなかったさ。お前の戦う理由ってやつを聞くために来ただけだ。」


 グレンはそっぽを向きたい気持ちを抑えながらランスロットの背を見つめる。


 「それを言って貴様が許すわけでもないし、俺自身の考えが変わるわけではないぞ。」


 「俺も分かっているさ。だが、お前の口からききたいんだ。」


 「ふっ、俺の口から語らなければ意味はないということか。いいだろう。貴様が知りたいことを全部教えてやる。」


 意外なことにランスロットはあっさり口を開いた。


 ランスロットはこちらに身体を向ける。久しく見ていなかったその顔は、依然となんら変わらないものだった。


 「貴様は俺が貴族であることはもう知っているだろう。」


 「そりゃ、お前が軍勢を指揮しているのだから当然だ。」


 「だったら、俺には領地があったことも理解できるな。」


 「あっただと?」


 「そうだ。以前はあったのだ。平和な世界にな。」


 ランスロットは遠くを見つめるように一瞬空を見上げた。


 「・・・。」


 グレンは言葉を発さない。今ランスロットが考えていることがなんとなく分かっているからだ。


 「・・・機械派に付いた街は俺の領地と近かった。だから、戦争が始まって間もなく敵が侵攻してきた。

あっという間だった。俺が敵を一時撤退させてから領地に戻った時には何もかもが奪われていた。」


 グレンは故郷を思い出していた。その場所も炎に飲まれ廃墟だけとなっていたのだから。


 「俺の唯一の家族であった娘もそのとき死んだ。」


 ここでグレンはようやくランスロットが戦う理由が見えた。


 「(ようは俺と同じで、復讐のためか・・・)」


 「だから俺はあいつらを許しはしない。おれからすべてを無残に奪った敵に容赦などしない。たとえお前があの娘をかばったとしてもだ。」


 グレンは何度目になるだろうか、心に刺さるわけのわからない痛みを感じながらランスロットに対してはそれとは別の感情を感じた。


 「・・・分かったよ。お前があいつらを許さなくて、俺があいつらをかばっていることも許さないって。個人の復讐を止める権利は俺にはないさ。」


 ランスロットは黙っている。


 「だが、同じ戦場にいる仲間として俺はお前と一緒に戦わなければならない。たとえ嫌いであろうとも背を預けられる奴がいなければこの先は生き残れない。」


 「だから今は同じ敵を持つ仲間としていてくれないか。」


 グレンの答えにランスロットがどういった反応を示すかグレンに分からなかった。ランスロットが騎士であるから完璧なまでの拒絶はしないと思っているが、それでも許せないものもあるから分からなかった。


 「(俺だって悪など滅ぼして当然だと思っているからな・・・)」


 ランスロットは長い間沈黙を保っていた。内面で葛藤しているかもしれない。しかし、それは決して表に出さなかったため分からなかった。


 「・・・お前は、お前を裏切った俺をまだ仲間としてみているのか?」


 ランスロットの意外な質問にグレンは疑問を抱くがすぐに肯定する。


 「ああ、そうだ。」


 「・・・ふふふっ、はっはっはっは!!」


 それを聞くや否やランスロットは大笑いをする。グレンは突然の凶行に戸惑っていると、ランスロットは笑いを抑えながら近づいてきて腕を肩に回してくる。肩を組む形になると再び笑い出した。いきなりの豹変にグレンはついて行けなかった。


 「うおっ! 離れろ、ランスロット。」


 「いや、悪いなグレン。お前のことを見直したぞ。」


 「どういうことだ?」


 「そのまんまの意味だ。」


 ランスロットは回していた腕を解いて正対する。


 「俺としてはお前がもう関わりたくないと思っていてな。裏切ったのだから当然だ。俺もお前が機械派の娘を連れてきたときは裏切られたのだと思っていた。だが、あの娘と話をしてみたらそれも変わったさ。」


 ランスロットはグレンと別れてからの意外な時間を話してくれた。



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