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15話 「信念と憧れ」 前編

 

クロスストリートの街は迫りくる戦火を前にして武装した人間で溢れて返っていた。多くの一般人はすでに避難しており、街に残っているのは軍人とそれを相手に商売をしているような人間だけだった。大の大人達が道を行き交うなか一人の少年が周囲の雰囲気にも飲まれずに街を歩いている。


 道行く人は誰もが彼を振り見る。それは死んだはずだったからなのか、恐ろしい存在だからなのか、それとも噂の件を知っているからなのか、少なくとも周囲の人々は、彼が今まで知っていた人物像とは全くの別人のように見えて困惑していた。


 少年は周囲のことなど全く気にしていない。そんなことなどどうでもいいくらい周りが見えていなかった。しかし、この街中に来た目的を忘れてはおらず少年はとある店の前で足を止めた。店の入り口上には「マグニッツ工房」と書かれたプレートが掛けられていた。少年は物怖じなく入っていく。


 「入るぞ、いるかマグニッツ?」


 店のカウンターらしき場所には誰もいなかった。しかし、奥へと続く道の方から老人の声が聞こえてきた。


 「なんだ・・・グレンか。今、手が離せないからこっちへ来てくれ。」


 「分かったよ。」


 グレンはしぶしぶカウンターから奥へと続く道へと歩いて行く。奥には部屋がありそこの壁には一面武具が飾られていた。部屋の中央に老人がおり、ちょうど武器の修理をしているところだった。


 「いまはどこもかしこも手一杯でな。こんな時までやっているうちは、ほかの奴らにとってありがたいものだろうな。」


 ハンマーで鉄を叩く音が聞こえる。小刻みに鳴る甲高い音をしり目に老人は言葉を続ける。


 「おめえさんもここまで戦争を続けているのは、もはや伊達や酔狂だろう。」


 「そうだな。こんな戦争なんて所詮は人間同士の争い。それでも、やらなければいけないもんだ。」


 「あの女のためか?」


 「・・・・・・なぜそうなる。」


 「世間の噂じゃそうとしかみえんがな。」


 グレンは今一番悩んでいることを持ち出されてたじろぐ。


 「俺は・・・そんなつもりであいつを連れてきたわけじゃない!!」


 マグニッツはハンマーを振るう腕を止めた。そして修理した武器を持ち上げる。


 「こいつはもう大丈夫だな。グレン、茶を持ってこい。」


 「・・・分かったよ。」


 グレンは気持ちを落ち着けて奥にあるさらにもう一つの部屋で茶を入れて鍛冶場まで持ってきた。そのころにはすで道具は片付けられていて茶を飲むには広いスペースが出来ていた。




 「やっぱり日向の国の茶はうまいな。紅茶とかいうやつと同じ葉っぱから作られているとは考えられん。」


 マグニッツはグレンの淹れた茶を啜っている。そして一段落してから話を切りだす。 


 「いったい何の用で来たんだ? お前が俺に用事など人生相談くらいなもんだがな。」


 「だから違うって言ってんだろ。俺は、ただあいつを助けたかっただけだ。」


 「まあ、そうだろうな。俺の知ってるお前がそんなことで味方を敵に回すわけないだろう。」


 グレンはあやふや気持ちを抱きつつも本題に入る。


 「実はだ、お前にしか頼めないことなんだ。俺の刀を見てやってくれ。」


 グレンは腰に差してある二本の刀を取り出す。


 「お前が修理を依頼するのは初めてだな。正直、斬っては捨ててを繰り返しているもんかと思っていたぞ。」


 「業物を簡単に捨ててたらお金はあっという間に溶けてしまうだろ。戦争に参加してからずっと同じ刀だよ。戦争もいいところまで来たから、今のうちにちゃんと手入れしておこうかと思ってな。」


 「そうか。その刀は良く持ったな。一体お前さん自身での手入れはどうしていたんだ?」


 「錆びつかないように血やオイルをふき取るくらいだ。」


  飲みこんだ茶を吹き出しかけた。


 「嘘だろう!? そんなことだけで半年も持つ訳ないだろう。」


 マグニッツは驚愕した。武器というモノは消耗品だ。どれだけ優れたものであろうとどこかしらが壊れていく。修理してもその傷やヒビを完全に修復することは出来ずいつか使い物にならなくなってしまう。


 「(それが、血やオイルをふき取っただけで半年も持つわけないだろう。こいつはCTRや軍艦まで斬っているんだぞ。それも壊れやすい刀でろくな修理もしないで半年か。)」


 マグニッツは驚いているがグレンは至って冷静だ。


 「まあ、とりあえず見てくれ。なんでかは見ればわかるさ。」


 「どれだけぼろぼろになっているんだか。」


 グレンが言うのでマグニッツは恐る恐る片方の刀を手に取る。途端、重さが急に増したように刀を持つ手が落ちた。


 「ぬうっ!!」

 

 それでも持ち前の筋力で落とさずには済んだ。細部まで分かるように台においてから顔を近づける。


 刀を見つめる。目立った外傷がなく、小さなヒビもない。それでいて、小さな刀身からあふれんばかりの魔力と存在感があふれ出ていた。


 「こんなものが存在するのか・・・一体どうやって使えるようになった。いや、どこから見つけてきたんだ?」


 マグニッツの疑問は、それほどの代物をなぜ子供が持って振るうことが出来ているかだった。グレンは何も問題がないように答える。


 「神様からもらった。こっちも同じようなものだ。」


 もう一つの刀もマグニッツに差し出す。そちらからは禍々しいほどの気配を感じた。


 「なんで使えるかは、選ばれたからとしか言いようがない。」


 「はあ・・・わしにこんなものを見せてどうするってんだ。修理が出来るとは思えんし、しなくてもいいだろう。」


 マグニッツはため息を吐いて二つの刀を見つめる。


 神からの贈り物なら少なくとも祭器である。もしかしたら神器の可能性も。伝説上の業物が目の前にあるというのに、いまいちやる気が出なかった。そこまでの域にまだ達してはいないと自負しているからなのか。


 「だから、お前にしか頼めないんだよ。ほかの奴らはこんなもの手を付けることすら出来ない。なおさら、修理すら出来ない。だが精霊を武器に宿すことが出来たお前ならなんとかなると思ったんだ。」


 マグニッツが多くの客から修理を請け負うことが出来るのは、彼が作製した精霊武器の影響が大きかった。武器に精霊を宿すことができるようになったことで所持者の魔法使いとしての力を発揮できるようになったからである。その恩恵に預かろうと修理を依頼してくる客も多かった。


 「おぬしはそこまでいうが、この刀に修理するところなんてあるか?わしには傷一つないようにみえるが?」


 「この刀は特別だからな。鍛冶師の磨きだけでも変わるさ。・・・今の俺ではうまく出来ないが。」


 グレンは初めて暗い表情をした。ここまでずっと空元気を通してきていたのだった。


 「・・・分かった。引き受けよう。おぬしの頼みは今回が最後になるかもしれんからな。」


 「ありがとう。」


 「・・・。」


 グレンは刀を鞘ごとあずけて手持ちぶさたそうに帰ろうとしていた。それをマグニッツは引き留める。


 「グレン!」


 「・・・ん、なんだ?」


 「わしが鍛冶屋をやっているのは伊達や酔狂だ。それと先代から受け継いだ誇りと、自身の信念だ。わしが選んでいまここにいるように、おぬしも選んでここにいる。その想いは間違ってはいないだろう。大義よりも自分の信じる道を進んでいる方がおぬしらしいわ。わしは貴様が国を裏切ろうとも生きてさえくれればそれでいい。」


 「マグニッツ、おまえ・・・」


 「偏屈じいの世迷い事だ。気にせんでいい。」


 「・・・ああ、またくる。」


 今度こそグレンは工房を出ていった。




 グレンは工房を出ていくとすぐに基地へと帰っていった。街にいてもすることなどなく、刀も預けてしまったためしばらくは暇になる。予備の刀で訓練しても良かったが今はそんな気分じゃなかった。


 「俺の生き方か・・・なんなんだろうな。」


 今まで通りの生き方で問題ないはずなのにどうしてもララのことが気にかかる。しかし、仲間を裏切れなくなっている。一人でいたのに、いつのまにか一人じゃない。悪を倒すこと以外のものを背負ってしまっていた。


 「俺は俺なりのやり方でやってきた。でもそれを周囲が受け入れ始めてしまったから、俺は一人ではなくなったのか?」


 思い返せば、ここへきてから随分とほかの奴らと親しくなった。軽口を叩きあえる仲もいれば信頼できる奴もいる。それは、自分から働きかけた結果でもあった。


 「(俺自身も他人を求めていたわけか。だけど、どちらを取るかという選択はまだ決めていない。決めていないんだ。)」


 仲間たちから聞いたところによるとララは首都で人質ではあるが、ある程度の自由は保障されているらしい。機械派への配慮なのかは分からないがひどい目にはあっていないそうだ。だからといってグレンは終わりにしようとは思えなかった。


 「はぁ・・・どうしてもあいつの顔が出てきてしまう。今日は刀でも振っているか。」


 グレンは重い腰を上げて予備の刀を取りに行こうとする。すると、後ろの方からグレンを呼ぶ声がした。


 「グレンさんでしょうか!?」


 「うん?誰だ?」


 「初めまして、私はルークスといいます。グレンさんの活躍は何度も耳にしています。」


 見た目は好青年といった感じでグレンよりも身長が高かった。わずかに高い視線から尊敬のまなざしでこちらを見下ろしている。グレンは敬語が気に食わなく青年に注意を促す。


 「俺より年上なら敬語は使わなくていいぞ。それほど俺は良い人間じゃあないんだからな。」


 「そんなっ!! あなたのことはロック砦の頃から存じています。憎き司令官を汚名を着てまで殺して多くの命を救い、また戦場では味方を逃がすために何千何万という軍勢に一人で立ち向かったことが活躍といわずになんていうのですか!!」


 グレンは直感的にこの目の前の青年が新兵と見抜いた。それも、ロック砦攻防戦からのだ。グレンも半年前までは新兵だったが経験していたものが違う。たった一人で殺し合いの中を生き抜いてきたグレンと泥臭い一戦を終えたばかりの人間では圧倒的にグレンの方が戦場を理解できていた。


 「そんな輝かしいものではない。戦場はそんなに甘くないぞ。それに、どれも自分のためにやったことだ。」


 「しかし・・・」


 「丁寧すぎる言葉もいらないぞ。仲間に変な気を使うやつなんていない。」


 「わ、分かりました。」


 「それでいい。ところでなんの用だ? 呼び止めたのならそれなりの理由があるんじゃないか?」


 青年はまだぎこちなさそうだったが要件を聞かれたことではっとして本題に入る。


 「そうだ! グレンさん、魔法の扱い方を教えてくれませんか。戦場で活躍できる戦い方を身に着けたいです。」


 グレンは悩んだ。自身の得意魔法は炎属性でそれも魔力にものを言わせた戦い方でやってきた。しかし、それを教えるとなると、普通の魔法使い達のように余計な復唱をしないし、感覚でやっているようなものだから言葉にするのは難しかった。しかし、グレンは刀の修理が終わるまでは暇なので少しばかり付き合うことにした。


 「むう・・・分かった。ただ、期限は一週間くらいで、身に付くかは分からないものだぞ。」


 「それでも構いません。グレンさんの戦闘を間近で見れるなんてこの先何度あるか分かりませんから。」


 「この先か・・・まあ、とっとと始めるか。」


 「はい!!」


 グレンはこのはつらつとした青年を邪険にはしなかった。今この基地内でグレンと腹を割って話せるような人間は数少ない。原因はあの噂しかないがこの基地ではそれを目撃していた人間が大勢いるためより信憑性があった。そのため、別の噂を信じてはいるがその噂をものともせずに近づいてきた青年と過ごすことは悪い気分ではなかった。


 「いいか、魔法で戦うということは感覚でやっているように見えるが、それは経験に基づいた予測でしかない。本当に必要なのは日々の鍛練と自分だけの戦い方だ。」


 「ふむふむ。しかし、日々の鍛練は分かりますけど戦い方はそう簡単に見つかるはずがないと思いますがが?」


 「お前が得意な魔法はなんだ?」


 「雷です。」


 「どんなやつだ。落とすのか、直線上に放つのか、纏うのか?」


 「ええっと、基本的に落とすやつですね。あと打ち上げることも出来ます。」


 「それなら、まずは見せてくれ。」


 グレンはそういって戦闘の構えに入る。


 「ええっ、当たったらさすがに痛いじゃ済まされませんよ。」


 「問題ない。本物ならいざしらず雷の魔法ならば魔力がある分抵抗はできる。それに、戦ってみなければ実力も分からないぞ。」


 グレンは考えた。今回刀は使わない。あくまで魔法使い同士の決闘だ。使うのは炎の魔法のみ。それでどこまでやれるか試してみたかった。


 「分かりました。それでは行きます。」


 ルークスは魔法を放つ構えを取り、グレンの頭上に魔法陣を描く。


 「雷鳴よ轟け、サンダー!!」


 言葉と同時に光の速さで電撃がグレンを襲った。一瞬の輝きと轟音ののち、常人ならば一瞬で黒焦げになるであろう火力を受けて、なおグレンはそこに立っていた。


 「なっ、確かに当たったはずなのに!?」


 ルークスの驚きを見ながらグレンは平然としていた。


 「ふぅ・・・危なかった。咄嗟に魔法を使っていなければ当たっていたな。」


 グレンはルークスの復唱が終わるぐらいの雷が発生するタイミングを見計らって炎で相殺させた。壁を張るだけでも良かったが、どこまでできるかを確かめるのが今回の目的だ。ルークスにしろ初めて雷を当てられた俺にしろ経験は大事だからな。


 「こんなものか?俺を甘く見てもらっては困るぞ。」


 「くっ、ならばこれでどうです!!」


 ルークスが再び指で発生地点を指定し魔法を放つ構えをすると、先ほどより一際大きい魔法陣がグレンの足元に出来上がった。


 「地獄より湧き上がれっ、スカイブレイザー!!」


グレンの足元に描かれた魔法陣が湧きあがる。そこから幾本もの線が空へと伸びていく。それをグレンは雷だと思い、避けた。しかし、伸びきった線の下からさらに線より太いものが湧き上がってきた。


 「こっちが本命かっ!!」


 グレンの言うとおり新しく湧き上がったものは火花を散らしながらジグザグを描いて空へと伸びていく。耳をつんざくような音と不規則な運動が回避していたグレンを捉える。


 「があっ!!」


 グレンへの直撃が一発あった。しかし、追撃を仕掛ける前に雷が途絶え、魔法陣も掻き消えてしまった。

周囲にさきほどまでの静けさが戻った。


 グレンは直撃をもらったが踏みとどまりルークスの方へと歩いて近づいて行った。ルークスの方はというと、地面に膝をついて息をはいていた。


 「いい魔法じゃないか。だが、動けなくなるほどの消費か。諸刃の剣みたいだな。」


 「はぁ、はぁ、ありがとうございます。でもグレンさんもすごいですよ。あれを喰らって立っていられるなんて今までいませんでした。」


 「それも含めて鍛えなきゃな。戦場で戦い続けられなきゃどれだけすごい魔法を持っていようが意味ないからな。まずは基礎からだ。とりあえず、これくらいの雷を落としてみろ。」


 グレンは跪いているルークスの前の地面からグレンの膝くらいまでの高さを示した。


 「えっ、この程度ですか。」


 「ああ、地面につけばオッケーだ。」


 「分かりました・・・はっ!」


 ルークスは場所を指定して雷を落とす。


 「よし、次はこれくらいの高さだ。」


 グレンは先ほどより数cmくらい上の場所を示した。


 「えっと、からかっていませんよね。」


 「そう思ううちは強くはなれないぞ。」


 「はぁ・・・」


 再び雷を少し高い位置から落とす。するとグレンはまたひとつ前より少し高い場所を指定する。


 「やっぱり何をやっているのか分かりませんよ!!」


 疲れているルークスの怒りにグレンは首をかしげるくらいだった。


 「そんなに分からないか?」


 「さっぱりです。」


 「なら、教えよう。これは、反復の訓練と範囲の指定の訓練だ。繰り返し魔法を使い限界まで続けることで魔力の底上げをすることと敵を倒すのに適切な範囲と大きさを定めることで魔力の消費を抑えることの両方が出来る訓練だ。」


 「なっ、そんなことが可能なのですか?」


 「俺の考え上と経験だがな。少なくとも相手に合った威力を出せるようにするだけでも生存率は変わるはずさ。」


 「なるほど。戦い続けられる力を身に着けれられるということですか。」


 「続けていればな。ほら、とっとと次だっ!」


 「は、はいっ!!」


 そうしてグレンとルークスの訓練は丸一週間続いた。グレンはこの一週間、教える忙しさにかまかけてララの顔を思い出すことは少なかった。


 

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