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14話 「進むべき道のために」 後編

 

 グレンの故郷を発ってから中央平野を抜けて半月が経過した。すでに機械派の領土はクロスストリート近郊まで広がっており二人は森を隠れ蓑にして機械派の軍隊を避けていった。そうこうしている内にクロスストリートまであと少しというところまで来た。


 「あと3日後くらいには街に着くだろう。長いようであっという間の一か月だったな。」


 いつものように深い森の中で野営をしているグレン。


 「そうね。ここまで来るのにいろいろなことがあったわ。」


 ララも焚き火の近くに座りながら答える。


 道中、火を起こすことで機械派に気づかれないかと心配していたララだが彼らも案外気づかないものだった。グレンの故郷に行くときもそうだが森の木々が火の明かりを遮ってくれて、機械派の飛行機も夜間に飛んでくることは全くなかった。そして、自領土に敵が紛れ込んでいるなど考えてもいないのだろう。


 森の木々に感謝しながらララは道中の出来事を振り返ってみる。


 最初は人質として連れ去られるところをグレンに助けてもらった。それからグレンの故郷へと向かってそこでこの世の地獄を見た。そしてここに来るまでも機械派の人間達を何度もやり過ごしてきた。しかし、大変なことだけではない。最初で最後の家出。野宿での料理。知られざる遺跡の発見。電気のない中で見た星空。今まで生きてきた中で経験したことがないことばかりだった。その旅路はまるで逃避行みたいだった。 


「この旅が終わればお前はもう危険な目に遭う必要もない。お前が望まない限りな。クロスストリートに着いたら、馬車でセルダム港街に送ってもらう。そこは首都の反対側にあるから戦火が及ぶことはないだろう。」


 グレンは私を心配してくれている。それだけでも嬉しかった。でも私はこれからグレンを裏切らなければならない。それはすごくつらいことだ。


 「ねえ、私がグレンの傍にいたいなんて言ったらどうするの?」


 平静を保ちながらララはグレンに難しいことを聞いてみる。グレンは案の条顔をしかめて諭すように答える。


 「あのな、俺が行くのは戦場だ。それにクロスストリートも首都も戦場となる。そんな危険なところに何の力も持たない人間を置いておけるか。守るべきものが傍にあったら確かにやる気はでるだろう。だけど守れなかったときは失うものが大きすぎる。俺はお前に死んで欲しくないから言っているんだ。」


グレンの答えは至極まっとうなものだった。それもそうだ。私には何の力もないのだ。


 「すべてが終わったら迎えに行くさ。それまで生き残れたらの話だがな。」


 「絶対に生き残ってよ。出なきゃ私が困る。」


 「はっはっはっ。そう簡単に死にやしないさ。」


 さりげない約束。ララもグレンも特に気に留めないものだった。


三日後、何事もなく機械派の勢力圏を抜けてクロスストリートの街が見えてきた。まだまだ遠めでしか見えないが街を囲む壁は幾たびの戦場を越えてきたのか傷だらけでも威容を放っている。その手前には街の中に入りきらない軍事施設が点在している。グレンの目指す目的地はそちらのほうだった。




 「よう、久しぶりだな。」


 グレンはここを発ってから4か月ぶりに会う衛兵に挨拶を交わす。グレンにとってはそれほど遠い時間ではないように感じていたが向こうは違った。


 「あっ・・・」


 「ぐ、グレンっ!!?」


 絶句した後叫ぶ。その驚きようは死んだ人間を見ているようだった。


 「なんだ、そんなに驚くようなことなのか?」


 グレンは首をかしげる。それをみて衛兵二人は息つく間もなく事の推移を話し出す。


 「驚くだろう!お前は死んだと聞かされたんだから。」


 「そうだぜ。ロック砦の戦いからもう一月も経っている。普通だったら野垂れ死んでいるだろ。」


 「おまけに機械派の連中もお前が死んだと発表していたんだから。」


 「ランスロットが落ち込んでいたぞ。」


 「あいつだけじゃない。ここの連中もみんなだ。」


 「よく生きていたもんだ。随分とボロボロになってやがる。」


 「てか、一か月も何してたんだ。機械派の領土ですることなんてあるのか?」


 「それよりも後ろの子は誰だよ。」


 「確かにどこから連れてきたんだ?」


 「おまえら、落ちつけよ。まあ、一つずつ話していくよ。」


 衛兵二人が落ち着くのを待ってからグレンは今までのことを話した。


 「最初に、俺が行方不明になったのは故郷の墓参りに行っていたからだ。ロック砦以北は機械派の領土だからいける内に行っておきたかった。」


 片方の衛兵が思い出したように言う。


 「そういえばそのあたりにあるって言っていたな。」


 もう片方は先ほどから驚きっぱなしだ。


 「まさか機械派の領土を横断していたってのか!?」


 「そりゃ、そうだろう。二つ目だが、俺はこれでも一人でサバイバルが出来るくらいには慣れている。二か月はは野にいたこともあるんだぞ。」


 衛兵二人は呆れるぐらいにこの目の前の少年がどれだけ異常だったかを再確認する。


 「その年でしぶとく生きているもんだ。」


 「俺らはここに立っているぐらいだからな。死んだって噂は嘘か?」


 「そんなもん嘘に決まっているだろ。そもそも機械派は俺が生きていることを知っているはずだ。だからあえて嘘を流したんだろうな。」


 グレンは自分が死んだ扱いをされていることに何も感じていなかった。衛兵二人はこの少年とのやり取りを今まで何度も交わしてきた。日々の暮らしの話題は良く盛り上がっていた。しかし戦争の話となると調子は同じなのにどこか自分自身を見ていないような達観した感じになる。いまでこそそういう性格なんだと思えてきたが今回のはいつもと訳が違った。


 「ずっと気になっていたが、後ろの少女はなんなんだ?」


 衛兵の片割れがグレンの後ろにいる少女を指さす。少女はグレンの1m程後ろに立っていた。


 グレンは後ろを振り返りながら何でもないような口ぶりで言う。


 「ああ、こいつは道中で拾った。襲われているところを助けて、帰る家がないからこっちの方に連れてきたんだ。」


 衛兵二人はグレンがとうとうおかしくなったかと思った。まさか人助けついでに連れて帰ってくるとは肝が大きいのか無頓着なのか。


 「なんだって!?・・・そりゃ苦労しただろうな。」


 「むむむっ、グレンは怖くなかったか?」


 「おいおい、酷いな。」


 衛兵は何気ない質問をしてみる。衛兵の質問に少女は首を振る。


 「ううん。助けてもらって感謝している。」


 「くぁーいい子だ。グレン、お前にはもったいないくらいだな。」


 「そんなに以外かよ。」


 衛兵たちはグレンが照れているような仕草をしたことで年相応なんだと安心して当初の役割を果たす。


 「はははっ。まあ、通っていいぞ。特に問題もなさそうだしな。」


 「むう、分かったよ。」


 「男どもに気を付けてな。」


 「ありがとうございます。」


 衛兵たちは柵を空けて二人を中に招きよせる。


 それに応じて少年と少女の二人は中に入っていく。




 「あの人たち随分とグレンと親しいのね。あなたのこと、分かっていながら普通に接している。」


 「それはありがたいことだな。まあ、この基地で最初に出会った奴らだからな。縁というやつだろう。」


 「縁?人とのつながりのこと?」


 「まあ、巡り巡って出会うことだな。俺とお前が出会ったことも縁の一つだな。」


 「ふーん。」


 二人は基地内を歩いて行く。死んだはずの人間と年端もいかない少女。その組み合わせは必然と周囲の注目を集める。


「あの二人は誰の客だ?子供がここにいていいのか。」


 「おいばか!あれは紅い死神ことグレンだぞ。知らないのか?」


 「あいつって死んだはずだろ。なんでここに・・・」


 「というより後ろの少女は誰だ?」


 誰もが衛兵と同じ疑問を持っていた。これだけの注目を浴びれば否応なしに目的の人物は現れる。


 「・・・グレンっ!!」


 ランスロットが群衆をかき分けて歩み寄ってくる。二人もそれに気づき足を止めた。


 「よう、ランスロット。なんとか帰ってきたぞ。」


 「ひとつきなど待たせ過ぎだっ!! 貴様がいないことでどれだけ俺が苦労したと思っている。」


 「それは前にも言われた。俺はそれほど政治に向いていないのだからお前に任せるものさ。」


 「まあいい。貴様も長い間歩いてきたのだろう。中で休むといい。」


  ランスロットは一か月ぶりに会う戦友との再会を喜んでいた。死んだと聞かされた時はショックを受けたがあいつがそう簡単に死ぬはずがないと思いかえす。機械派にとってグレンは目の敵にしていたはずだ。グレンが死んだのならもっと大々的に発表されるものだ。だから生きていると信じていた。そして今日グレンが帰ってきたことでそれが証明された。


 「(戦友が帰ってきたことで一段と安堵するなど一昔前ならば考えられなかったことだな)」


 誰もが自分とは関係のないように思えただけにいなければ物足りない存在になっていた。


 「しかし、随分と長い旅だったな。それだけの期間をどこで何をしていたのか、後ろの少女が関係している・・・っ!!?)」


グレンの後ろにいる少女を見た瞬間ランスロットの意識は少女一点に向けられた。




 今まで冷静だったランスロットが突然剣に手を掛け身構えた。グレンはランスロットの行動に一瞬遅れて刀に手を掛ける。


 「なっ、ランスロット!! なに考えてやがる!?」


 グレンは困惑した。基地の人間達もグレンとランスロットがお互いに対峙すると騒然となった。味方同士が武器に手を掛けることなど誰もが困惑するしかない。ランスロットは周囲の困惑をよそに怒鳴り声をあげる。


 「グレンっ! 貴様は、なぜこの少女を連れている!」


 ランスロットは先ほどから少女の方に視線を送っている。グレンはそれに気づき反論する。


 「ララのことか!? 道中で助けただけだぞ!!」


 「ぐっ・・・」


 ランスロットは苛立っていた。それも今までグレンには向けなかったものだ。


 「こいつがなんだってんだ! お前が怒るほどのものなのかよ!!」


 グレンもランスロットの態度に怒りを表した。ララがランスロットにとってなにが気に入らないのか分からない。


 沈黙が続く。誰も二人の口論に口をはさむことは出来なかった。


 一触即発の状況の中先に切り出したのはランスロットだった。

 

 「貴様が今伴っているのはララ・イラストリア。機械派の大統領の娘だぞ!!」


 「んなっ!?」


 グレンも周囲にいた基地の人間達も一様に驚いた。誰もがその正体を知らなかったのだ。


 「そんなバカなことがあり得るのかよ。!!」


 「貴様が護送車を襲ったからだっ!!何者かに奪われたと報告があったがまさか貴様だったとは。」


 グレンは思い出す。荒野に似合わない馬車に3人の傭兵らしき人間と少女。そして少女の扱い方。それは捕虜というより人質というものだった。


 「まさか・・・ランスロット、お前こんなことを認めているのかよっ!! 子供を人質にとってでも勝ちたいのかっ!!」


 「ああ、そうだ。それが戦争だ。お前はもっと冷酷だと思っていたが子供に同情するか。」


 「ふざけるなってだけだ! こいつを戦争の道具に使わせることは反対だ。勝つためにそんなことをすれば俺達に正義はなくなるだろうっ!!」


 もうグレンはランスロットに対して刀を抜きかけた。ララの願いを聞いてしまった以上ここで連れて行かれてしまうのはそれを壊してしまうことだ。ランスロットがここまで固いやつだとは思わなかった。


 ランスロットもグレンの気配を察して剣を抜き始める。どちらが先にその切っ先を相手へと向けようが二人の関係はそれまでとなってしまう段階まで来ていた。


 「・・・グレンったら、馬鹿な人ね。」


 突然冷たい声が聞こえた。それが誰のものであるかグレンは一瞬分からなかった。


 後ろを振り向く。そこにはララのさっきまでの笑顔はなくあざ笑うかのような冷たい顔があった。


 「ララ・・・?」


 グレンは名前を呼ぶことしかできなかった。


 「あなたは本当にお人好しよ。私が誰なのかも知らずに逃がしてくれようだなんて。でもそれもおしまいね。」


 ララは歩き出す。グレンの横を通り過ぎてランスロットの方へと行こうとしていた。


 「まて、ララっ!! お前はそれでいいのか! お前にはやりたいことがあるんだろっ!!」


グレンの呼びかけにララは一瞬止まった。しかし、すぐに振り向いて答える。


 「だから馬鹿なのよ。あれはすべて夢なの。出来るわけないわ。それに・・・私はあなたとは一緒にいられないの。」


 また歩き出す。今度は止まることはランスロットの場所までたどり着いた。


 ランスロットは思った以上に諦めの良い少女に戸惑いながらも答えを聞く。


 「本当にいいのか?」


 「ええ。」


 即答だった。まるでこうなることがわかっていたかのように。ただ一人グレンは追いすがる。


 「ララっ!!」


 「グレン・・・今までありがとう。でも、あなたとはここでお別れよ。」


それだけを言い残してララは背を向ける。ランスロットはララの先を行き、ララも付いて行く。


 


 グレンはどうすればいいのか分からなくなっていた。いままでは自分にとって正しいか正しくないかで行動してきた。それで生きてこれた。でも今は違う。自分にとって正しいと思えることがなんなのか分からない。


「あっ・・・くっ・・・」


 ララが行ってしまう。なんでだ? 俺が騙されていただけか? ララが機械派だからか? 


 俺は、ランスロットや魔法派のやつらと道を違えたいのか? ここにはいられなくなるのか?


 ララを追いかけたい。だが、それは俺がしたいことなのか?ランスロットは俺が間違っていると言っている。そうだ。機械派の親玉の娘なんて嫌いにもなる。だが俺はあいつを認めた。それが機械派だろうとも。だから正しいはずだ。追いかけてお前を人質になんてさせないと言えばいい。ララも俺もここにいればいいんだ。


 でも、そんなことは現実には出来ないと気付く。あいつは機械派で俺達は魔法派なんだ。魔法派は機械派を恨んでいる。だからララはここにいられない。それに、俺はこいつらと共に戦わなければいけないんだ。だから裏切ることなんて出来ないんだ。


 それでも、ララが行ってしまうことが納得できない。心の奥底に引っかかっている何かが俺を苦しめている。でも、それがなんなのかが分からないから、するべきことも分からないのだ。


 ララはもう遠くでどこからか現れた馬車に乗り込もうとしていた。そして、ランスロットもそれに付き従う。俺はただ見ていることしかできない。ただじっと見ているうちに二人は馬車に乗り走り去っていった。

やじ馬たちもことが終わったからかそれぞれが散っていった。最後に事の成り行きを見ていた衛兵の一人が肩を軽く叩いて去っていった。


 グレンはここに来る前のように一人になってしまった。だが、あの時とは違って今は言いようのないもやもやとした気持ちが心の中で渦巻いていた。

長い間遅れてしまってすいません。

今回のお話で第二部は終わります。中途半端な終わり方ですが、後は第3部で戦争を終わらせるだけです。

出来ることなら3年目までに終わらせたいものです。

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