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14話 「進むべき道のために」 前編

追記 話数間違えてました。(5/25)

 

 いまだ晴れることのない空の下、廃墟となって久しい街の中心部に二人は立っていた。グレンは墓石に向かいながら。ララはその傍らに立ちながらグレンを見ていた。


 グレンは話が終わるまでずっと墓石を見つめていた。その言葉はララに向けていたものだが、同時に自身にも戒めているように思えた。


 グレンは話を終えると何をいうのでもなくただ沈黙している。その墓石を見つめる姿からは悲しんでいるのか憎んでいるのかそれとも何も感じていないのかララには分からなかった。


 ふとグレンが言葉を紡いだ。


 「この墓石は俺がここを去った後、この戦争が始まる前ぐらいに作ったんだ。正確な日付はもう忘れてしまったから暦だけの墓だがな。それでもここに街があってみんながいたこと、悲劇があったことを残しておきたかったんだ。」


 ララはもうすべてを受け入れるしかなかった。この世界の現実を見て、この世界の闇を見て、この目の前にいる人を見て、何一つ嘘じゃないと理解した。


そのすべてから逃げることはもうできないだろう。そんな予感がした。なぜならララがここまで来たのはそのすべてを知るためだったのだから。だからララがこれから言うべき言葉はグレンに対するララなりの答えなのだ。


グレンは私に世界を示した。だったら今度は私がグレンに示さなければいけない。私の考えた答えを。


 「グレンっ!!」


 話し掛けられるとは思っていなかったグレンは少し驚いてララの方を見た。


 「なんだ、ララ?」


 私が何をしたいかを伝えなければ。こんな世界を生きる彼に示さなければいけないんだ。


 「私……前を向いて生きる。そして、もっともっと多くのことを知って、多くの人を助けたい。」


 ララはそう宣告する。ほかの誰でもない自分で考えた結論だった。


 「今はまだ何の力を持っていないけど、それでも、いつかはこんな悲劇のない世界にしたいっ!!」

 

 12歳の少女の考えうる最善の願いが発せられた。


 たとえそれがどんなに無謀なことでもララは今、目の前の人に示さなければいけなかった。




 「(そんなこと、眩しすぎて返事に困るだろう・・・)」


 グレンはララが自身の過去を知ってこの街で起きた悲劇も知って絶望してるのかと思っていた。年端のいかない少女に聞かせるようなことじゃない。話し終えてから少し後悔していたのにこれときた。


 「(そんな綺麗事で済ませられるほど世界は甘くはないし、そんな戯言は子供だけが願うものだと。それを身を持って知ったのにまだ言えるのか・・・。本当にすごいやつだ。)」


 俺はもう殺すことでしか生きる目的がない。悪を倒すということはそういうことなのだから仕方がないんだ。でも、目の前の少女は救うことを目的として生きようとしている。


 「(やっぱり生きる世界が違うな……俺とララでは・・・)」


 「やっぱり、無理かな・・・?」


 ララがグレンが黙っていることに不安になり聞いてきた。グレンは心配させないように笑って背を押す。


 「・・・いや、お前ならいつかは出来るさ。だから心配する必要なんてない。」


 グレンは確信に近い気持ちで答えた。


 「本当!?」


 「ああ、本当だとも。俺が言うんだからな。」


 グレンの言葉にララは感極まって涙があふれてきた。それを拭い去って決意する。


 「ありがとう…私、頑張るね。」


 「ああ、頑張るんだな。」


 荒廃した街で少女の誓いが一人の少年の手によって建てられた。




 既に陽は西の空に落ちて、辺りは真っ暗だった。グレンとララの二人は街からきた道を戻るように森の中で野営をしていた。


 あの後、二人は墓石に花を捧げて街の人々のために祈った。こんなことはもう繰り返すことがないように願った。


 それでも今の戦争を止めるにはまだまだ力不足を痛感する。


 「俺がどれだけ強くても国同士の戦争を止められることは出来ない。無論お前が機械派の人間達に和平を訴えてもこの勝ち戦を逃すほど甘くはないだろう。」


 「それじゃあ、私はこれからどうなるの?」


 ララはもともと囚われの身だ。それをグレンが助けたのだからグレンの周囲の人間に保護される可能性が高いだろう。


 「とりあえず魔法派として過ごすしかないだろうな。お前が機械派だと知られれば面倒だし。途中で保護したとか言っておけば大丈夫だろう。」


 「あっ……。」

    

 「どうした、なにかまずいことでもあったか?」


 「ううん、それほどのことでもなかった。」


 「そうか、まあ戦友がそれなりに力を持っているから保護するために多少の問題は大丈夫だろう。」


 グレンは半年以来共に戦い続けてきた戦友のことを思い出していた。


 「(思えば一月近く会っていなかったな。さすがに心配させすぎたか・・・)」


 最後に会ったのはロック砦を脱出する前の時だ。生きてやると言ったのに一月も帰ってこなかったら怒られるだろうな。


 「まあ、お前が機械派のところに帰りたいと言えば俺は返すことも出来る。機械派の軍がいる基地の前にでも送れば保護してもらえるだろう。送った後なら見つかっても一人で突破は出来るだろう。」


 「私は……まだどうしたいか分からない。」


 思いの他ララは悩んでいた。だからグレンも急かしたりはしない。


 「別に今決めなくてもいい。明日でもいいし、ここはまだ機械派の支配地なのだから森を抜けるまでは考えても大丈夫だろう。」


 「分かった、ありがとう。」


 「俺はもう寝る。明日もまた歩かなければいけなくなるからな。ララも早く寝ろよ。」


 「うん、おやすみ。」


 「ああ。」


 言葉を交わしてグレンはララに背を向けるように横になった。


 グレンはもうララに警戒を抱かないほど慣れ親しんだ間柄だと思っていた。お互いの想いを知りお互いの本性を知った。半月近い旅路で随分と近くなったと思っている。


 「(ララはどこかのお嬢様だろうけど、あの性格ならどこでもやっていけるだろうな。)」


 それだけを思ってグレンは今日の出来事からくる疲れに誘われて深い眠りに就いた。




 月が頭上を飛び越えていく頃、真夜中になってもララはまだ起きていた。どうしても言わなければならないことをいつ言うべきなのか、むしろ言わないことが幸福なのかそれだけを悩み続けていた。


 ララは暗い夜に一際目立つ燃え盛る焚き火の向こうで寝ているグレンをぼんやりと見つめていた。


 「グレンは気づいてないと思う。でも、戦友のランスロットは私の正体を知っているはず。だから私は間違いなく捕虜となる。ううん、交渉材料としての人質よね。」


 ララは半月前の嫌な出来事を思い出す。半ば諦めていて半ば絶望していた時だ。そして私の尊厳までも……。でも、あの人達はおそらく魔法派の回し者だった。だから私をさらったんだ。


 「私の家に帰ることが一番無難な気がする。少なくともお父様は私を迎えてくれるだろうし。でもそうしたらグレンとももうお別れなのかな。」


 ララはただ目の前の少年を見つめてる。


 「たった半月程度の旅立ったけどグレンにはいろいろ教えてもらった。私の生きる道も示してくれた。この戦争が終わったらやりたいことができたのに……そこに彼がいないことがどうしようもなくつらい。」


 グレンのことを思うと離れたくないと思ってしまう。グレンはこの先も一人で生きていくのだろうか。誰にも理解してもらうこともなく孤独に・・・


 「私の正体が分かったときグレンはなんて思うのかな。敵の親玉の娘なんて憎い以外に思いつかないよ。それでも私はグレンと一緒に歩きたいと思ってしまう。・・・私ってほんと馬鹿ね……」


 ララは視線をグレンから夜空へと向ける。そこにはもう月が頂点を過ぎて空を下っていた。


 「本当に綺麗ね。この旅がなければ気が付かなかったかもしれない。」


 もう心の中では何をするか決めた。けれどそれは茨の道であり、叶うことなんてまずありえない。それでも今別れて一生会えなくなるよりはましかもしれない。


 「大統領の娘だなんて本当に厄介だわ。」


 ため息をついてララは寝る用意をした。少しでもグレンと一緒に入れるよう些細な願いを胸にララは眠りに就く。


 「(明日も晴れるといいな。)」




 朝になるとこれ以上にないぐらい快晴が広がっていた。二人は寝具を片付けて出発の準備を終えた。


 グレンはララの迷いのない様子を見て訊く。


 「どうしたいかもう決まったのか?」


 ララは少し逡巡したがすぐに答えた。


 「私はグレンと一緒に行くわ。まだやり残していることがあるのだもの。」


 「そうか、ならクロスストリートまで歩けるか?」


 「大丈夫。……あのね、グレン。そこに着いたら話したいことがあるの。聞いてくれる?」


 「なんだ、まだ言っていないことがあったのか。」


 「ふふっ、それはついてからのお楽しみよ。」


 「不思議な奴だな。」


 ララは精一杯に強がっていた。その演技力にすっかり緩んでいたグレンには気づくことが出来なかった。何の気なしに返事をして歩き出す。ララはいつものように後ろをついてくる。それはもう当たり前の光景となっていた。



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