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12話 「悲しみの故郷」

年号を間違えてました (1986年→1186年)

 

 遺跡で雨宿りをしてからはや数日、ララの感覚で言えばまだ3月の空気が漂っている。あれから、グレンは自身の周囲の人間達の話をよくしてくれた。戦場で助けた人間。基地で世話になった人間。武具の修理をしていた人間。敵対勢力の人間。中には私が知ってはいけないような話もしてくれた。だれもかれも、悲しみや憎しみを背負いながら懸命に生きている人々だとグレンは教えてくれた。


 でも彼の故郷については話してくれなかった。まるでそれが禁句であるかのように封じている。私はそれをただ故郷と言う場所が苦手だからだと思っていた。彼の両親が亡くなって家を飛び出してきたみたいな、そんな理由だろうと思っていた。




森がだんだんと黒味を帯びてきた。中には枯れている木もある。ララはその光景を北に来たからだと納得していた。


 「ねえ、グレン。まだ着かないの?」


 「いや、ここまでくればもうすぐだ。」


 「そうなの、グレンの故郷か…気になるな。」


 「・・・ララ、少しいいか?」


 「んっ、なに?」


 「お前に魔法をかける。変な感覚だろうが我慢してくれ。」


 「わかったわ。」


 グレンはララに近づくと手をかざした。するとララはわずかな熱を体の周囲に感じた。


 「わぁー、温かい。これってグレンがこの前教えてくれた魔法よね。」


 「そうだ、身に纏って敵の攻撃から守る魔法だ。この先はいろいろな意味で危険だからな。備えておかなくちゃ。」


 「危険?人間達の町なのにこんな魔法を使わなくちゃいけないの?」


 ララの問いにグレンは少し乾いた笑いを浮かべてから真剣な面持ちで答える。

 

 「これからいく場所は危険なんだ。覚悟しておけ。」


 また、覚悟という言葉だ。それほどまでグレンの故郷は危険なのだろうか。ララには見当もつかなかった。ララが疑問に思っているとグレンはまた歩き始めたのでララも付いて行く。




 また少し歩いていくと少し開けた空間が見えていた。ただ、そこは崖上なのか先への道が途絶えていた。それでもグレンは途絶えたところまでまっすぐ進もうとした。


 「あの先にグレンの故郷があるの?」


 「…ああ、そうだ。」


 「そうなの?じゃあ見てくる。」


グレンはいつものようにはっきりとした調子ではなく呟くような声だった。ララはそんなグレンの異変よりも好奇心が勝ってしまい、いち早く駆けていった。グレンは彼女のその後ろ姿を崖の前で立ち止まるまで目で追いかけていった。


 「(これで良かったんだよな。なんて、俺らしくない。あいつが何を思おうが俺が気にすることなんてないんだ。それなのに、あいつの笑顔が曇ることがどうしようもなくたまらないな・・・)」


 グレンはいまララが見ている光景がどんなものか知っている。そしてそれを見たララが何を思っているかも理解していた。少なくともその思いはグレンがかつて感じたものと同じなのだろうから。



 

 森を抜けたララは絶句するしかなかった。目の前に広がる光景は緑も街並みも空も世界すべてが荒廃していた。森は枯れ街は廃墟と化し空はそこだけが明かりを遮るように薄暗かった。わずかに動く視線を動かすとそんな世界に飛び交う存在を街の上に見つけた。鳥かと思うも、しかしそれは、想像以上に忌避すべき存在だった。


 「あれは…悪魔?…なんで、こんなところにいるの…?」


 それは背中から生えた翼をしきりに上下に振って街を取り囲んでいた。こちらに向かってくる気配はないが、ただそこにいるだけで不浄とされるその正体は全身が毛むくじゃらで豚鼻の「悪魔」だった。


 ララは一歩も動けない。目の前の状況に絶望しているだけでなくなぜこんな世界があるのかが信じられなかった。そこにはグレンの故郷があるはずなのに。


 「なんで、こんなことってありえるはずないよ・・・」


 「実際にありえるんだ、これは。」


 「グレン…?」


 かろうじて出た言葉でララは振り返る。そこにはいつもと変わらない姿のグレンがいる。


 「付いて来い。」


 グレンはそれだけ言って横道から崖を下っていく。ララはその背中を少しぼーっと眺めて、彼について行かなければならないと気づき慌てて後を追う。




 街のかなり手前ですらひどかった。草木は枯れ生命は遠くに見える悪魔以外無いに等しかった。そんな道をグレンはなんの感傷も抱かずに歩いて行く。


 「グレン…ねぇ、どうしてこんなことになってるの? ここは人間の住む場所だよね…?」


 ララはこの世界が夢なのではないかと思った。あまりにも現実とかけ離れた世界。いままで見てきたどの場所よりもひどかった。唯一あるとすればそれは物語のなか。悪魔たちの住む地獄の世界。今まさに目の前にあるのはそんな世界だった。


 「それは街についてから話す。だから今はまだ待ってくれ。」


 「待てないわよ・・・街にはあんなにたくさんの悪魔がいるじゃない。どうしてよっ!!」


 ララは今一度グレンに不信感を募らせる。何も教えてくれないグレンに腹が立っているのだ。


 すると突然グレンがララの前に手をだした。それはこれ以上は進むなという合図だった。


 「悪いがここの家の跡に隠れていてくれ。俺は、悪魔どもを殺してくる。あいつらは、いくら片付けても邪気を嗅ぎつけて何度もやってくるんだ。面倒ったらありはしない。……それが終わったら、全部話すよ。」


 「えっ・・・」


 ララの言葉も待たずにグレンは歩いて行く。ララにはグレンの憂いを伴ったような横顔と悪魔と言う単語をさも気にせず発していることとても心に残った。普段は感情を表にださないグレンが今は怒りを表しているように思えた。




「(全く、ふざけてる。人の故郷で好き勝手やるなんてな。何度殺しても足りない位だ。)」


 心の中でそうつぶやいてグレンは両脇に差してあるそれぞれの刀を抜くと体内の魔力をありったけ放出する。たちまちグレンの周囲に炎の世界が巻き起こる。


 「地獄よりも苦しめ。・・・幻想の零っ!」


 グレンは燃え盛る二刀を横にして駆けだす。同時に悪魔たちもグレンのただならぬ魔力に反応して、向かってくるグレンへ我先にと殺到する。悪魔たちがグレンの頭上に差し掛かろうとしたとき、再びグレンの周囲から今度は黒い波がうねり始めた。それらはまるで意志を持つかのように悪魔たちを蝕み始めた。すると、あろうことか悪魔たちはいっせいに動きを制止させた。


 「巻き上がれ、フレイムストーム!!」


 グレンが詠唱する。地面に複数の魔法陣が現れ、炎の渦が上空に伸びていく。それによって動けない何十匹ものの悪魔が落とされていく。周囲に自身の魔力を充満させているからこそできる魔法同時発動の芸当だった。


 炎の渦が現れると同時にグレンは上空へと飛んだ。数メートルを飛び、落下に入ろうとしたとき、空中で足裏に薄い炎の膜を張る。それは足場となり再び空中へと駆けあがる。もう一度繰り返すと今度は身体を前のめりにして飛ぶのではなく前に踏み出した。上空に炎の渦が立ち消えると同時に、グレンは目の前の怯え竦んでいる一匹に斬りかかる。


 「壱の型、紫電っ。」


 斬り抜ける。悪魔は体を熱と刃で両断され力なく落ちていく。そこでようやく悪魔たちがグレンをただの人間ではなく強大な敵だと認識する。荒れ狂う奇声のなかグレンは落ち着いて次の行動に入っていた。


 「拡がれ、スプラッシュバーン!!」


 自身の周囲を爆発させるイメージを描きながら口にする。それはたちまち魔法となり現実となる。悪魔にしてみれば突然空中で炎がいたるところで爆発していったのだ。炎の中に突っ込むものもいれば炎を恐れて立ち止まるものもいた。


 「そこっ!」


 煙の中からグレンが刀を上段から振り下ろす。運悪く目の前にいた悪魔が縦に切り裂かれる。斬り抜いた後、落下する身体に対して両足にすぐさま足場を形成し跳躍、再び高度を取る。


 いまや上空ではグレンの独断場だった。悪魔はグレン目がけて突き進むも地上から嵐を、空中から爆炎を浴びせられる。その合間を縫ってグレンは一刀のもと悪魔を切り捨てていく。


 群れの中にいた上位の悪魔は落ちていく同胞を尻目に、魔法陣を展開し、闇の魔法を解き放つ。常人がひとつでも食らえばたちまち呪いに身を侵されてしまう魔法を、グレンは避ける事すらなく身に受ける。


 仕留めたと不敵に笑う悪魔は、次の瞬間顔を両断され果てた。


 闇の魔法を受けたにも関わらずグレンの身に変化はなく、悪魔たちには動揺のようなものが走り、動きに精彩を欠いていった。


 その数が半分近くになった頃、グレンは体勢を整えるのか肉塊で血みどろの地上へと降りる。悪魔はここぞとばかり背中をみせた人間へと一直線に襲い掛かる。


 グレンは怒りの形相で解き放つ。悪魔たちに背中を向けた体を半身にして左手の刀を振り上げた。


 「参の型、覇黒っ!!」


 グレンがやや斜め上に向けて放った一閃は運悪く密集していた悪魔を直撃した。大質量の衝撃が悪魔たちを襲う。身が砕かれ、肉が飛び散り、翼がもがれる。後に残るのは悪魔だったものの塵だけだった。


恐怖。残ったわずかの悪魔たちはここにきて初めて恐れを抱いた。それは生存本能へと働きかける。悪魔たちは蜘蛛の子をちらすかのように飛び散っていこうとする。


 「逃がさねえよ・・・」


 突如、地上からの炎柱に複数の悪魔が焼かれる。運悪く炎柱の内側で逃げ遅れた悪魔もいたが次の行動に移る前にその命を刈り取られる。


 たとえ逃げる選択があったとしても逃げられないと思ってしまったその時、身体は言うことを聞かなくなるのだ。グレンのその狂気を見た悪魔たちは動けなくなる。糸が切れた人形を切り裂いていくようにグレンは瞬く間に炎柱の内にいる悪魔を全滅させた。


 魔法が消えて視界が晴れたころには街を取り囲んでいた悪魔はすべて骸になるかグレンの手を運よく逃れ彼方へと去っていくかだった。


 


 グレンはすべての悪魔を狩り終えると血の池の中心に立ち尽くす。周りには悪魔だったもの。彼の身体には一滴の血もついていない。ララにはそんな光景がかえって恐ろしかった。


 「うっぷ…っ!!」


 ついにララはそのおぞましさに耐えきれず吐いた。年端のいかない少女に滅びた街に荒廃した世界、悪魔とその肉塊を連続で見せられるのは許容範囲を優に超えているのだ。


 「ごほっ、ごほっ…おえっ・・・」


 淑女に似合わぬ様で胃の中のものを全部吐き出してもまだ吐き気は収まらない。グレンの狂気が見なくても伝わってくる。そしてその惨状も脳裏に浮かびあがり顔を上げることすらできなかった。


 「(グレンはこんなことを何度もやっているの?こんな場所も何度も見てきたっていうの?)」


 ララは初めてグレンの戦闘を見た。今までは見ることが出来なかった、いや見させなかっただけかもしれない。それほどまで目の前の出来事は驚愕だった。ただの人間にこんな行為は理解できない。


 「(今、グレンは怒りに任せて悪魔を殺している。そこに忌避すべき感情なんてないんだ。悪ならば殺す、それがなんであろうと。そんな薄情さがグレンの中にある・・・)」


 それはいままでグレンが見せなかった一面。いや、垣間見えていたんだ。ただの少年が人殺しを肯定している。肉親や友人の死を心底から悲しんでいない。まるで感情が欠如しているかのような場面がいくつもあった。でも、はぐらかされたり彼がちゃんと考えていたから私は気づくことが出来なかった。


 「こんなの嫌だよ・・・」


 目の前の現実と目の前の人間の心を知ってしまったなら、今までの苦楽はなんだったのか。私は何を信じればいいのか。そんな思いが言葉として出てきてしまう。 


 ララが這いつくばっているとグレンが刀を納めてこちらへと歩いてくるのがわかる。 


 「手を取れ。目の前のものが見たくなければ目をつぶれ。俺が引っ張ってやる。」


 こちらの思いを見透かしたように言う。目の前のものを受け入れなくてもいいと暗に言っているのだ。


 見たくない。聞きたくない。そんな思いがララの全身を駆け巡る。それでも、ララは一人で立ち上がりグレンを見る。まだ、ひとつだけ知らないことがあるのだ。それだけのためになけなしの勇気を振り絞って言う。


 「・・・教えて、グレン。どうしてあなたは最強を目指すの?どうして…すべての悪を倒さなければいけないの?」


 目の前のグレンはわずかに驚いたあと、微笑して言う。


 「その答えは街の中心部にある。一人で歩けるか。」


 「ううっ、大丈夫っ。」


 「なら、ついて来い。」 


 戦場跡をグレンの影に隠れるようにしながらララはついて行った。 


       


 廃墟と化した街に入っても空気は変わらない。身体を蝕むような感覚があるがグレンにはもう慣れた。ララの方は魔法を掛けることで一時的に緩和している。それでもただならぬ気配を感じているのかしきりに口元をおさえながら周囲を気にしている。


 「(それでも、ここまで来れたんだ。あの光景を見て、よく乗り越えられたものだ。すごいやつだよお前は。・・・だから次は俺の番ということか。唯一後悔している過去を誰かに語る時が来たのだな・・・)」


 グレンはララの勇気を褒めて自身も覚悟を示さなければいけないと悟る。


二人は街に入ってしばらく歩くとやがて街を四つに分断する中央交差道に差しかかった。ここはにかつて噴水広場があった。しかし、今は切り刻まれたひとつの岩だけがあり他はすべて更地となっていた。


 「ここにグレンの言う答えがあるの…?」


 「そこの石碑を見てくれ。」


 「石碑…?岩に書いてあるのね。」


 ララはグレンに言われた岩の石碑を間近で見てみる。そこにはお世辞にも丁寧とはいえない字でこう書いてあった。


 『 1186年

    フレバドの住民ここに眠る 』 


 「これって・・・」


 「裏側も見てくれ。」


 「裏も…?」


 ララは石碑の裏側に回る。


 『 邪悪な神が

      すべてを闇に包み込み

             魂を縛ろうとも

   火を纏う鳥が

      その翼を巻き上げて

             魂を呪縛から解き放つ 』 


 「この碑文の意味ってこの街で起きたことと関係あるの?」


 ララには何が何だか分からないようだった。それもそうだ。普通ならあり得ないのだから。


 「碑文を掘ったのは俺だ。戒めでもあり、この街を襲った厄災と俺が最強を目指すことになった理由さ。」


 グレンはララを見る。ララもグレンの視線に気づき顔を合わせた。


 「何が起きたか教えてやる。そしてどうなったかもだ。」


 グレンは少し懐かしむように語り始める。


 「あれは、街の誕生記念の祭りの前日だった。いつもと変わらない日常といつもと変わらない自分がそこにいた。」                    


 もう戻ることのない世界の最後の日がそこにあった。

この話は難産でした。お互いの見てきた世界の違いを一気に表に出した感じですね。後半はお互いに勘違いをしています。(グレン→ララが狂気を乗り越えたと思っている。 ララ→グレンが無感情な人間だと思い始める。など)

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