11話 「明日のその先を」 後編
今回も会話だけ。
グレンとララは一晩を越すためと雨宿りを兼ねて遺跡の内部へと足を運んでいた。長い間放置されてきたことから人の手が入っておらずボロボロで、差し込んできた日光などでコケやシダなどの植物が乱雑に生えていた。しかし、大型の野生動物の住処になっているわけでもなかったため、二人は苦労することなく野営の準備を整え終えた。それと同じくして雨が降り出したため日中にも関わらず焚いた火を二人で囲んでいた。
「雨、ひどくなってきたね。夜まで続きそう。」
「そうだな。食料を取りに行くことは出来ないが、魔物の血の臭いを洗い流してくれるだけでもありがたいな。」
「そう・・・」
「・・・」
触れる話題もなくすぐに会話は終わってしまう。中途半端な関係だからこそよそよそしくなってしまい、何を話せばいいか分からなくなる。そんなララの姿を見て、グレンは申し訳ないように溜め息をついてから気がかりなことを聞く。
「……身体の疲れはどうだ?少しは動けるようになったか?」
「あっ…もう大丈夫。全然平気。」
「そうか、それなら良かった。だが、その恰好では休めるものも休めないだろう。俺の毛布も使え。まだ3月だ、冷え込む。」
ララは改めて自分の衣服を見る。拉致されたとき身ぐるみは寝間着であったし、今もグレンが持っていた衣服を重ねて着てはいるが、先ほどの逃走劇でところどころが破れている。春が近いとはいえ3月のそれも雨の日の寒さは堪える。だからグレンの申し出はありがたく受け取る。
「ありがと。でも、グレンは寒くないの?」
今のグレンはシャツとジャケットしか着ておらず外から差し込む冷気を防げるとは思えない。
「さっきも言ったが魔法使いはその気になれば寒さを防ぐ魔法を発動し続けることで凌げる。ましてや、俺は炎の使い手だからな。無意識のうちに寒さを感じさせなくさせれる。」
「やっぱり魔法使いってなんでもできるじゃない。それだけで一生過ごせそうね。」
ララは寒さをはぐらかすように笑ってみせた。
「そんな簡単なものじゃないさ。俺は特別だから出来るのであって他の奴らは戦闘以外は使わないぞ。お前達機械派は魔法を万能のものとして見過ぎている気がするな。」
たしかにそうだ。魔法と聞けば魔法使い達だけが出来る奇跡の技として機械派では言われている。それは、今まで虐げられてきた反動から来ているものだと知っている。
「でも、魔法が使えるか使えないかでこの戦争が起こったんだもの。根底には果てしない劣等感があるものよ。CTRだって魔法を使えない人間が魔法使いと対等になろうとしたためだもの。憎しみだけで何十年も頑張って・・・」
「そうなのか・・・知ってはいたが機械派の人間から直接聞くとまた別だな。」
「あっ・・・」
ララは思わず失言してしまった。今、目の前にいるのは魔法使いであり、魔法派であり、敵なのだ。
「(彼の影響かしら。敵に向かって内情をぶつけるだなんて。)」
ララ自身はこの戦争に興味こそあれど関わる気はなかった。魔法使いに対しては憎しみも妬みもなく、ただ悪い人間だと教え込まれていた。でも、同じ子供たちの中にいる魔法使いのこどもはふんぞり返る人もいれば親しくしてくれる人もいた。それがおかしくていろいろ調べて、彼らが魔法を使うのではなく研究する人間だということも知った。でも、知っているのはそれだけだった。
けれども、魔法派に拉致されてグレンに助けられて旅をすることでいろいろな発見があった。彼らのことをもっと知ってみたいとも思ってしまった。
「……私達の戦う理由はそんなところよ。逆に、グレン達はどうして戦っているの?」
ララは今ならば聞けるかもしれないと思った。悪者とされている魔法使い達の戦う理由。本当は、知ってしまったら彼らに同情してしまうかもしれない。でも知らなければこの戦争を理解することが出来ないと思ったから。
グレンは少し考えてからゆっくりと語り始める。
「そうだな。全体で言うなら魔法を守るため。機械派に潰されれば魔法が使えなくなる。そう恐れているからだと思われてる。俺達にとって魔法はそれぞれが独立していて形となっている。家柄や階級が重要視されるのはそのためだ。俺も自分だけの魔法を持っている。それを誰かに伝える気はないが、俺が死ねばそれはこの世に存在しなくなる。それが怖いのだろうな。」
「・・・。」
「個人で言うのなら復讐だな。」
「えっ…?」
「最初期の電撃戦で機械派に近い町や村は真っ先に襲われた。その際に機械派の憎しみなのかな、理性が暴走していて民間人すらも皆殺しにされたんだ。わずかな抵抗をしただけでな。だが、その数は多かった。ランスロットの奴も領地が機械派の都市に近かったため、妻と娘を失った。あいつは、復讐するためだけに戦っている。他の多くの奴らも同じだ。そしてこれからもな。」
「どちらも戦う理由は同じなのだと言うの?憎しみだけで・・・」
「同じだったら、この戦争は終わらないさ。お前たちは戦争に勝つ。この押し込まれた状況から魔法派が巻き返せるとは思えない。それにお前たちは未来を見ている、これから先があるのだから。でも俺達は違う。ここまで失いすぎた。残されてるのは、すべてを捨ててまで抗うか、衰退する未来を選ぶか、もうその二択しかないのさ。だったら最後まで抗って少しでもいい未来を勝ち取ろうとするものだろう。あるいは、己の復讐のため一人でも多く敵を殺すのだろうな。」
「グレンは、グレンはどっちなの?」
「俺か、俺は…どちらでもないさ。魔法派のために死ぬつもりもないし、復讐相手は悪の存在だから、別に好き好んで機械派をころ、倒しているわけではない。だけど、機械派を受け入れることもない。この国にいられなければ日向帝国の方に行くか、魔界に行くか考えている。」
グレンは言葉を荒げずに語り終えた。信念も凄惨な光景も未来もまるでないように。ただ遠くを見ていた。それが余計に悲しく思えてきた。
「ごめんなさいっ!!」
言葉にした瞬間ララの目頭から自然と涙が零れ落ちていった。なんでその言葉なのかは分からない。でも軽はずみに聞いてしまったこと、自分が知らない機械派がしてきたこと、魔法使い達が生きることを諦めていること、なにもかもが自分のことのように悲しく思えてきた。
「んなっ!なんで、謝るんだよ。なにか俺がひどいことを言ったのか!?」
「うんん、そうじゃない・・・」
「でも、泣いてもいるし…っ!!そうか、まだ、子供じゃないか!! すまないっ!」
グレンは無意識の内に大人と話をしているようにしていたことを後悔した。相手は知識もあり理解力もあるがまだ感受性豊かな子供なのだ。大人のひどさや汚さをいつものように話してしまった。だが、ララはまた別のことで泣いているようだった。
「違うのっ…これは…これは、私自身の無力さを嘆いてるだけだから・・・。」
「あ・・・。」
グレンはそれを聞くと何も言えなくなった。理解力があるってことは、それだけ自分が小さな存在かと気づかされるんだから。
「ひっく、うっ・・・」
次々と涙が零れ落ちそれを拭いきれないララを放っておくわけにもいかず、グレンは再び溜め息をついてから今度はララの頭を撫でた。
「(だが、それを理解して泣ける優しさも持っているんだな。お前は。……すごいやつだ。)」
グレンの手が左右に動く。ララはその感触で泣くことをやめた。
「うぅ・・・どうして撫でるの?」
「お前はちゃんと生きてるさ。自分の無力さを嘆けるぐらいしっかりしてる。力はこれからつけていけばいいさ。」
「でも、私はただ、目的もなく生きてきた。あなたみたいに目標があるわけでもなく、魔法使い達みたいに守るべきものがあるわけでもない。ましてや機械派の未来を考えたことなんてない。いつも、座学、作法、教養のこと、自分のことしか考えていなかった。考えられなかった。ただ受け入れるしかできなかったの。」
ララは今まで考えてきたこと、見つめなおしたことを初めて言葉にした。それがとてもつらく、また涙が零れそうになる。
「それでも、今お前はなにをしたいかを考えた。それだけで今は十分だ。だからあんまり泣くと冷えるし、きれいな顔が台無しだ。」
それでもグレンの言葉で踏み留まった。
「ぐすっ、分かった。……でも、傷心の女性にかけるべき言葉じゃない。」
突然の返しにグレンは驚きつつ
「厳しいもんだ。」
いつものように返した。
「ふふっ。」
ララの今までの泣き顔から少しだけ笑顔が戻った。
すっかり辺りも暗くなり二人に眠気が襲ってきた。ララはグレンに毛布を返そうと思ったがグレンはそのまま寝るのに慣れてると返させなかった。そして二人は横になって寝ようとしたとき、ララは思いついたように言う。
「ねえ、グレン。ひとつ聞いていい?」
「何をだ?」
「これからどこへ向かっているの?」
「ついて来れば分かるさ。」
「今知りたいの。教えて。女の子を泣かした罰みたいなものよ。」
今はもう泣き止んだララが無邪気にも聞いてくる。
「むむっ、仕方ないな。あくまでどこへいくかだ。行く場所は俺の故郷さ。」
「グレンの故郷?近くにあるの?」
「もうすぐ着くさ。だけど・・・」
「だけど・・・?」
「正直連れて行きたくはなかったが、お前がこの世界について知りたいというのなら見せてやるよ。」
「それは、楽しみにしてればいいの?」
「いや、覚悟しといてくれ。」
「あっ・・・うん、わかった…。」
「よしっ、じゃあ、お休み。」
「うん、お休み・・・グレン。」
ララは不安を残しつつ眠りに落ちた。
どうしても、旅しているだけなので会話だけで終わってしまう。でも、それだけ、この旅が二人に意味を与えてくれる(はず)。




