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11話 「明日のその先を」 前編

機械化構想の内容は一般レベルまで浸透していますが、その終着点は一部の人間しか知りません。

 グレンとララが共に旅を始めてから半月が経過した。森林地帯はどこまでも続き、遥か彼方の山脈まで続いているかのように錯覚されられる。時々遭遇するロージアからの機械派の哨戒部隊をやり過ごしながら、終わりの知れない道を往く。


「はっ、はっ、はっ・・・っ!」

  

 ララは森の中を駆けていく。その小さな体を振り絞りながらただ前だけを見ている。駆けていく途中で枝に、葉に、衣服を裂かれていくがそんなことは気にしていられなかった。                                                

 「なんでっ、こんなことしなくちゃいけないのよっ!!」


 叫んでみるものの後ろにいるはずのグレンからは応答がない。それもそうだ。彼は今、猛獣を食い止めているはずなのだから。しかし、もともとお嬢様であるララが走り慣れない森の中を全力で数分も走らさせているのだ。叫びたくもなる。


 ふと、今まで鬱蒼としていた森の視界が明けてきた。


 「(出口、やった!?)」


 ララが飛び出した先は開けた草地に佇む遺跡群だった。


 今まで暗い森の中にいたこともあって、疲れと安堵が一気にララを襲った。森を出て間もないところで足を止め、腰を下ろして息を整える。


 「はぁ、はぁ、はぁ。」


 息を整えていく内に後ろにいたグレンの存在を思い出し、そちらの方を振り返ると同時に彼は出てきた。




 「なっ、まだここにいたのか。もっと奥へ行けっ!」


 グレンが飛びだして間もないところに彼女はいた。そこでは、後ろから追いかけてくる猛獣に自力で対処できないと瞬時に考えついたグレンは怒鳴った。


 「へっ?」


 しかし、ララは腰を上げることが出来ず、また、こちらの指示を理解することも出来ないほど焦燥しており、ララが一拍遅れて反応した時には、猛獣が草木を突き進み後ろまで迫っている音が聞こえてきた。

 

 「仕方がない、主を守れ、フレイムゾーン!!」


 グレンはまず、ララに手の平を向け、ララを中心に魔法陣を発動させた。それは魔法となり、彼女の周囲に円を描くように炎の渦を巻き上がらせ壁を精製させた。


 「きゃっ!?」


 突然の炎にララは驚きの声を上げるが、今は構ってられない。もうすぐそばまで猛獣は迫っていた。


 グレンは、猛獣の気配を感じとり振り向きざまに右腰の刀を抜き一閃した。その時ちょうど最初の猛獣が人間の肉を食らおうと森から飛び出てきた。グレンが刀を振り下ろそうとする瞬間、猛獣は吸い込まれるようにその頭を刀の真下に差し出していった。哀れな猛獣はそのままの勢いに乗り、頭を裂かれ、頭だけでなく胴体の中ほどまで切り裂かれてから地面を這いずった。


 最初の一匹が倒れようとも猛獣たちは後を絶たずに飛び出てくる。


 「(どうやら、5体か。これなら、いける。)」


 そう確信したグレンの脇を猛獣は通り抜けていった。猛獣たちは男の肉よりも女の柔らかい肉を好み、まずはそちらから喰らわずにはいられなかったのだろう。炎に阻まれ、見えないはずのララをわずかなにおいだけで嗅ぎつけていた。だがしかし、それはグレンの魔法によって阻まれた。


 「グガァァァ!!」


 最初に炎の渦に飛び込もうとした猛獣がその勢いに弾かれた。その身は炎で焼かれ、のた打ち回るその姿を見たほかの猛獣たちは得体のしれない恐れを抱き自然と足を止めてしまった。そのうちの一匹の背後にグレンがかすかな空気の振動と共に刀を振り下ろす。


 「遅い・・・」




 一匹、また一匹断末魔をあげながら獣が倒れていく。音でしか外の状況を判断できないララはただ呆然とするしかなかった。しかし、すぐに獣たちの泣き声は消えた。


 「どうなったの?」


 その答えは魔法の解除によって露わになった。


身を焼かれ息絶えた一匹と胴体や首を切り飛ばされた四匹とグレンがそこに立っていた。彼の身体には返り血が全くと言っていいほどついていなかった。


 「・・・あなたがやったの?」


 「俺以外に誰がいるんだよ。」


 「でも、血がついてない。」


 そう言ってララはグレンの身体を指差す。


 「ああ、それは、魔法で消してるからな。自分の周囲に薄い膜みたいのを張って返り血を防いでるんだ。それだけじゃなくて、物理攻撃もある程度防いでくれる優れものだ。魔法使いは大抵これを張っているぞ。」


 「そんなに・・・便利なものね、魔法も。私たちは魔法みたいに現象を引き起こすことが出来ないから機械に頼っているものよ。」


 「魔法を使わずにあそこまで出来るのならたいしたものだと思うけどな。・・・とりあえず今日はここに泊まろう。せっかく雨宿りできる場所もあることだしな。」


 グレンは遺跡の方を見ながらララに手を差し出す。


 「そうね。今日はもう走り疲れちゃったわ。」


 ララはグレンの手を取って少し休めた腰を上げた。そうして、汚れを軽く払ってから遺跡の方へ共に向かった。


 


 機械派首都アトランス


 ここは機械派の技術の集大成とも言うべき無機物の高層群が周囲に広がっていた。開戦時に最も技術が発達していたという理由で中枢機能の多くがここに置かれた。それに伴って多くの軍人、技術者、政務者、それに付き従う家族がここに移り住み、瞬く間に大都市へと発展していったのだった。行き交う人々の多くは日常を楽しんでいた。戦場は遠く離れた地へと移っていくにつれて余裕が出ており、深夜ですら敵の攻撃の恐れがないとして明かりをつけて暮らしていた。


 そんな首都の中枢部である議会場では、それぞれの都市から代表として選ばれた議員が、現政権のトップ、大統領やその側近を相手に議論を重ねていた。圧倒的有利な立場にいる今、継戦、停戦、終戦それぞれの思惑が渦巻いており、いまだ終わらぬ戦争の議論が留まることを知らなかった。ただ、今戦争はアトランス、アカリファ、ストライシアの主要三都市の総意で行われているため、議会は継戦派が多数を占めている。議論も当然、戦いの終わりを決めようとするものになる。


 「大統領、いつまで戦争を続けるおつもりなのですか!多くの資源と人材を消費して、それでもまだ国民に戦時の生活を強いらせるのですか、お答えください!!」  

 

 機械派都市の一つ、アカリファ出身の若い議員が窮状を突きつける。それに対して中年で厳つい風貌の大統領は反論する。


 「議員。戦争は勝つまで続けるつもりだと最初に申し上げたと思いますが? 我々は今まで苦汁を舐めてきた。その苦難に比べればこの戦争での犠牲は小さいものだ。もちろん、彼らに対しては称賛とお悔やみを申し上げる。しかし、今ここで戦争をやめれば、また彼らはやってくる。今まで以上の仕打ちを持ってして!!私は兄弟家族の未来を考え、彼らを組織的に機能しなくなるまでまで潰していかなければならないと、そう考えている。」


 「行き過ぎた虐殺は復讐の種になりかねない。そろそろ止めなければ大変なことになるんですよ!」


 「それは、彼らが我々にしてきた仕打ちも同じだ。我々は今までどれだけ多くの差別を影で受けてきたか理解しているのかね?」


 「それは理解しています。だからこそ、今、和平を結ぶべきです。彼らにはまだ復讐の種がまかれていない今しかないんです。我々とて多くの命を失うわけにはいかない。戦場にいる多くの軍人は長い戦争で疲弊しているのです。国民とて同じです。大統領、あなたはこれほどまでの犠牲をだして、そしてさらに積み重ねていって何を得ようとしているのですか!!」


 大統領はその質問に思うところがあったのかいままで飄々としていた態度を改め再度、議員を直視する。


 「・・・議員。私はこの国の未来を得ようとしているのだ。数年、十数年ではない。何百年とこれから生きるであろう人々のためにこの戦争をしてきたのだ。そのための機械技術だ。……しかし、それも魔法派からしてみれば対抗できる代物だ。今を逃せば、完全な対抗策を練られ我々の勝機はなくなる。それだけは何としても阻止しなければならない。長い年月をかけてここまで積み上げたものを無に変えるわけにはいかん。だからこそ今ここで、魔法派に恐怖と圧倒的武力を見せつけなければならない!」


若い議員はその論調に呑まれる。大統領が今の現状だけでなく未来まで見ているとなると、議員の意見は現状論でしかなく容易く破られる。そして、今までこの戦争を待ちわびた人々の努力が無駄になってしまうことが理解できるからこそ反論できなかった。しかし、彼にも都市としての権益があった。だからこそ、ある筋から手に入れた切り札を使い別口から食い下がっていく。


 「では、大統領。ひとつお聞きしますが。仮に、肉親を人質として魔法派に捕らわれたとして、あなたはどうなさるおつもりですか。」


 若手議員の質問に議場が騒然とする。政府首脳部も他の多くの議員も彼の言葉に驚いた。それは、タブーと思われたもの。


 大統領のご息女が誘拐された。


 その話は軍上層部ですら口止めされている最高機密だった。他の多くの議員もその疑問を持っていた。しかし、それは噂でしかなく、ある情報では今も変わらず私邸で過ごしているとのことだった。それ故に大統領の地位を脅かすカードであると同時に、自身の地位を危険に晒す様なものだった。それが、今解き放たれた。


 「はて、何のことですかな。私の家族は今も変わらずに過ごしておりますが。」


 先ほどまでの勢いはなく再び態度が落ち着いた。


 「だから、あくまで仮としたんです。もし、そうなったとして、彼らから要求を出された場合どうなさるおつもりですか、とぼけないでお答えください!」


 ここぞとばかりに若い議員が追撃を掛ける。議場の誰もが息を呑む。大統領の発言一つで彼の支持か不支持かに移り変わるのだから。最悪、大統領派は保身に走ることも考えた。誰もが緊張した面持ちの中大統領は口を開く。


 「・・・そうですな。そんなもの断固拒否をしよう。」


 冷たい口調でそれは示された。若手議員はその恐ろしさに怯む。


 「くっ、肉親の命がどうなってもいいのですか!!」


 かろうじて出た反論もすぐに潰された。


 「構わない。そこで死ぬならばその程度の人間だったのだろう。私は機械派の総意である。個人の感情は慎むべきだ。たとえ、そうなろうとも私はその屍を乗り越えて機械派の未来をつかみ取ろう。」


 「大統領・・・」


 大統領のその非情なまでの愛国心に若手議員は恐怖を通り越して畏敬の念すら抱く。


 拍手が突然起こった。それは、次々と周囲に波紋していき、議場は熱に包まれた。その多くが大統領派の人間だった。彼らは今の発言を聞き自身の地位を確約したのだった。だからこそ、拍手を送った。若手議員はもう何も言えない。議場が敵に回ったと同時に、これ以上の議論は勝てる見込みがないと判断したのだった。議長が静粛を掛けるまで議場は万雷の拍手が止むことはなかった。




 大統領は今日の議題をすべて終えたため、専用車で次の目的地へと向かった。そこは、軍令部。その中にある特別会議室だった。


今ここには、軍部の将官、佐官、各省の官僚、財界の著名人、そして大統領がいた。彼らは皆、大統領が信頼した者、協力した者、それらだけでなく国家の機密を知っている者をここに集めさせた。それほどこれからの議題は国家の存続に関わる重要な案件だった。


 「諸君、まずは、今日忙しい中集まってもらい、礼を言おう。この、重要な時期だからこそこうして集まってもらった。」


 「我々は、協力を惜しまん。機械化構想の完遂のためにもな。」


 「うむ、そうだ。今日の議題はほかでもない、今戦争のことだ。」


 周囲の人間達から息を呑む音が聞こえた。


 「今、我々は圧倒的有利に立っている。それこそ、機械化構想の最終目的を容易に達成できるまでに。」


 「ええ、そうです。武力面でも技術面でも彼らよりも数段勝っています。・・・今は、ですけど。」


 技術省の官僚が冷静に答える。また、将官もそれに追随する。


 「戦略面においても、残すところはあと要塞都市クロスストリートと首都ガンダルムのみだ。中立地域であるドグマとは先日和睦が成立しており、通行権は既に得てある。しかし、補給物資の補充がかなり難航している。戦線を広げ過ぎたことで輸送路の確保が難しくなり、最前線はまともな食事を得られず、機械の修理も間に合わせのところもあるそうだ。」


 「うむ。我々の技術力は申し分ないが資源は輸入に頼っておるからな。内陸部の鉱業地帯のめどは立ったか?」


 大統領の問いかけに一人の商人が答える。


 「少しずつですが復旧しております。それでもまだ、要求値には達しておりません。日向帝国との貿易をもう少し続けさせてもらいませんと。」


 この後も国民の生活、工場の稼働率、占領地の統治、国庫の予算、政界内の政争などの意見が様々な仕事の人間から出た。どれもが、戦争を左右する内容だった。


 「ふむ……分かった。これが、今の現状だ、諸君。」


 それぞれが今の意見を頭の中で反芻する。


 「一刻も早く終わらせなけば、すべてが無に還る。それだけは、なんとしても避けなければならない。」


 「そうだな。今だけでなく、これからも大変なのだから。老いぼれが責任を持って片を付けるべきだろう。」」


 大統領に呼ばれた官僚の中で一際壮年の老人が悟ったようにつぶやいた。


 「そうだ。我々がやらなければならないのだ。」


 大統領もそれに答える。


 締めくくるような受け答えを終え会議もお開きかと思われたなか、白衣を着た男性が手を挙げる。


 「えー、話の流れを切るようで申し訳ないですが、第一研究所から報告があります。今戦争が初の投入となったCTR「ヴァン・ガード」ですが、ようやく後継機の目途がつきました。これは、従来のヴァンガードを総合的に強化し、武装面は弾数を増加、通信もより遠くまで飛ばせるようになります。また、搭乗者に合わせた機体の改造もより特化できるようになり、エース、一般ともに扱える機体となる予定です。」


 軍人から歓迎の声が上がる。


 「おお、ついに出来るか。実戦にはいつ出せる?」


 「早くても6月かと。それまでには、量産体制に入っています。」


 「6月か。予定では7月には最終決戦だそうですね。」


 「うむ、そうだな。一月もあれば習熟には問題ないだろう。それまでは、ヴァンガードと実験量産機「ヴァン・ブレイド」の部隊で持たせよう。」


 「よろしく、お願いします。こちらも最大限のサポートは致します。」


 軍人たちと研究者は他に類を見ないほど親しかった。それも、ここの参加者はお互いの事情を理解しているのだから。協力をして、未来を創っていこうとしているのだ。


 「話はこれで出尽くしただろう。他にまだあるか?」


 大統領が周囲を見回してみるが誰も動きがなかった。


 「よし、では、今日はこれで解散だ。皆のもの、くれぐれも口外はしないように。」


 「分かっております。大統領もご息女のことで無理はなさらずに。」


 「・・・構わない。あれは、もういないのだ。割り切るしかない。それでも……助かるのだったら、その時は頼むぞ、大将殿。」


 「はっ!!」


 大統領の言葉を最後にそれぞれがおのれの職分を果たすために会議室を出ていった。

遅くなりました。ここ最近は忙しく、長文を書く気がなかなか起きなかったためこのように遅れました。いつのまにか投稿開始から1年が経っており、話はまだ半分というところです。先は長いですが、これからもどうぞよろしくお願いします。

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