10話 「羽休む小鳥」 前編
やっとヒロイン登場。
夜の首都にけたましく警報の音が鳴り響いた。それと同時に幾条のサーチライトが黒く塗りつぶしていた街を照らし始める。街は瞬く間に光を灯す。何事かと窓から外を伺う人々の間を軍用車両が猛進していく。それら全ては中央地区にある軍令部からの指示だった。
「東地区の方に向かったぞっ!!」
「それは囮だっ!!娘君を乗せていない!!」
「船の可能性はないのか!?」
「西地区から馬車がでたと報告がっ!!」
「車を郊外へ向かわせろ、検問所を設けるんだ!!国境も警戒を厳にしろっ!娘君を絶対に取り戻すんだっ!!!」
「「「了解!!」」」
高級将校が通信手を介してただちに部隊の派遣要請を各隊に送る。軍令部の面々の面持ちは重く暗かった。誰も彼もが後は見つけてくれることを祈るしかなく、郊外に逃げられることでその可能性も薄いとなれば口を閉ざしてしまうのも無理はなかった。
それ以上にこの事態の損失の大きさに恐怖していた。
街から遠く離れたところでは一台の馬車が幾本もサーチライトが伸びる街を背後にし夜の森を駆けていった。それを追う者は誰もいなかった。
幾日後
グレンは一人荒野を歩いていた。村を抜けて、数日。荒野に生息する魔獣を狩りながら飢えを凌いで、歩き続ける。
何度か立ち止まり、地図を確認してみると、現在地は予想だと王国中央部。魔法派として戦っていた以前の激戦地よりは東側の高低差の激しい地域だと思っている。
目的は北西にある故郷、フレバドの町。しかし、ロック砦をそのまま北上してれば敵残存部隊との戦闘は避けられないし、おまけに主要街道沿いロージアからの巡回部隊の巡回が多いため、あえて東進し敵地へと向かった。そこの荒野地帯から北上すれば広大な森が広がっているためそこから敵の目をくらまして故郷へと辿り着こうと考えている。
「しかし、敵地だというのに敵がいないな。全部隊を最前線に送っているわけではないのに。何かあったのかな?」
グレンは思いの他的に出くわさないことが不思議だったが、グレンの知らないところで事態は動き、現在機械派の部隊は主要道路の封鎖、検問、情報の交錯により哨戒に出せる部隊が少なくなっていたのだ。そしてこの主要都市から離れて、なおかつ最前線ではないここは穴となっていた。
「んっ?」
グレンが何かに気付く。それは馬の蹄鉄音だと分かり耳を澄ました。
「これは、馬車か…?」
周囲を見ても何も見えない。だからグレンは一旦荷物を近くの小高い岩場の下に置いてそこを登った。するすると登っていき頂上まで着くと再び周囲を見回した。すると、東の方から猛速度で一台の馬車がやってきてるのが見て取れた。
「こんなところで馬車なんて、おかしいな。あっちは敵地だろうに。」
不審に思い馬車をよく見ると騎手は機械派のような服装をしていた。
「機械派なのか?でも前線に急ぐには馬車はいらないだろう。それに、一台というのも怪しい。」
馬車は魔法派で主流の乗り物なのだ。機械派でも使われはするが、目の前みたいに急を要する際は電気で動く車を使った方がはるかに速い。
「何かあったのだろうな。」
馬車の動向が気になり目の前を通り過ぎるのを待つことにした。
馬車の中は薄暗かった。窓にはカーテンが閉められ後部に備え付けられているドアの窓も黒く塗りつぶされていた。
中には二人の男と目隠しをされ口を塞がれ両手も縛られている少女が一人いる。外には騎手として一人の男がいた。男たちは黙りこくっていた。だれも言葉を発しない。拘束された少女も抵抗することもなく静かだった。
「(私はなぜここにいるのだろう・・・)」
少女は思う。
「(真夜中突然男たちが自邸に押しかけて私を攫った。目的は解っている。多くの人々に迷惑を掛けることも解っている。でも・・・)」
「(私はこれでも良いと思ってしまう。)」
なぜだろう。いつから、私は機械になってしまったのだろう。
教えられたことを律儀にこなし、世の中を机上で考えるようになり、対話を計算してするようになったのはいつからだろう。もしかしたら生まれた時からそう運命づけられたのだろうか。
「(閉塞された世界から抜け出したいと思ったことはない。しかし、今はその逆だ。)」
急にすべてに嫌気がさした。私のしてきたことが無駄になった気がする。だから別の生き方をしたくなった。
「(でも、いまの私は人質。なにをされても許される。それがたまらなく怖い・・・)」
「うがああーっ!!」
「んっ…!!」
「どうした、まだ半分も経っていないぜ。」
「むかつくんだよ!なぜ俺達がこんなガキの使いみたいなことしなければいけないんだよ。」
「それは言えてるが、仕方ないだろう。任務なんだから。」
前部からも声が聞こえる。
「そうだ、立派な任務だ。我々が使われるということはそれだけ重要なのだ。」
「ガキのお守りなんぞ糞くらえじゃねえか。」
「ガキとは言え要人の娘だ。その大きさは計り知れん。」
騎手の言葉が終わると言い始めた男が黙る。そして少女を見てその顔を邪悪な笑みに変えた。
「へへっ、ならよ…殺さなければ何しても価値が下がることはないんだよな。」
「お前、何考えてるんだ?」
「こんな狭苦しいところで楽しみもないなんてつまらないだろう。だからこのガキを犯そうぜ。」
「んっ・・・!?」
突然の宣告に少女は体を震わせる。それを察したのか男は続ける。
「お嬢様で処女なんてやりがいがあるじゃねえか。しかも俺たちの独占。そこいらの娼館より性欲を発散できるじゃねえか!」
「いいのかよ、頭。」
「生きていれば問題はない。」
「了解っと。じゃあ俺も混ぜろよ。ガキは一度やってみたかったんだよ。しかも清楚な奴とな。」
「へへっ、じゃあ、俺が先に挿れるぜ。」
「んんっ!!」
少女は思っていた通りのことが起こり、声にならない声を上げる、絶望する。ここで少女は初めて抵抗をした。しかし、拘束されたうえに大の大人にがっしりと腕を掴まれ押し倒されてしまった。
「はぁはぁ…怖がってやがるぜ。でもすぐ気持ちよくなるさっ。」
男がスカートを捲し上げ、覆いかぶさってくる。
「んんっー!!」
少女は目を瞑り始めて助けを乞うた。
「(誰か助けてっ!!)」
「(誰か助けてっ!!)」
「っ!!!」
声がした。それは声なのかも分からない。だが、確かに聞こえた。あの馬車から。
「・・・くっ!!」
助けなければいけない気がした。自分の本能がそう告げている。
「助けなければっ!!」
本能のまま体を動かした。飛ぶ。助走もなく飛行能力もないのに空を舞う。馬車の真上に差し掛かったところで一気に落ちる。狙いは馬車の騎手。
「どけえええぇぇっ!!!」
「なっ!?」
バキッ…
ドゴォォォン!!
「うおおお!!」
「きゃぁぁぁ!!」
「なんだっ!?」
車内の人間は前に押し出された。唯一少女だけが床に倒れていたので引っかかり押し出されていない。
「頭っ!!どうしたんですか!!」
前部のカーテンを開けようとする。
ザシュッ
しかし、壁越しに刀が男を貫いた。
騎手を潰したグレンは次に車内に目を移す。声が聞こえた。それを騎手の仲間と判断。即座に刀を突き刺した。
「ごふっ、お前はだれ、だ・・・」
そういって男は倒れた。
「くそっ!」
目の前で倒れる同僚を目にしズボンを脱ぎかけの男は反撃を試みようとするが、しかし遅かった。
続いて声がする。グレンはすぐに刺した刀を抜きその回転で反対側に振るう。 続いた二太刀目が前部にいた男を切り裂く。
「がはっ・・・」
斬撃は的確に急所である心臓を捉え、瞬く間に男は崩れ落ちた。
グレンは敵を全員倒したことを確認すると、中を覗く。そこには一人の少女が倒れていた。
「(恐らくこいつが俺に助けを求めたのか・・・)」
いったん馬車を下りると近くの岩場に置いた荷物を背負ってから後ろに回り扉を開ける。鍵は馬車を潰した衝撃で壊れていた。
少女には何が起きているか分からない。ただ男のうめき声が二人聞こえたことは確かだった。ふと、扉の開けられる音がする。
「(誰か来るっ…)」
たった今恐ろしい体験をしたことで本能的に身を縮める。しかし、体に触れられる感触はなく、代わりに後ろ手の縄が解け、塞がれていた口も開いた。そして最後に目隠しを取られた。光が射しこんできており思わず目を細める。その先には男がいた。背後から光を浴びながら彼は私に言った。
「大丈夫か?」
「うん・・・」
思いの他正直に答えてしまった。それほどまで今は動転していた。
「じゃあ、ここから出ようか。」
「・・・うん。」
そう言って彼は手を差し伸べて、私はそれを自然と取った。
「うわあぁぁ・・・」
彼の手に連れらて外に出ると世界が広く感じられた。久しぶりに外の世界を見た気がする。つい手を広げて空を囲んでみたくなった。
「元気そうで何よりだな。」
「あっ・・・」
グレンは目の前の無垢な少女を助けられたことで安心していた。しかし、それと同時にこの少女をどうしようかとも思った。
「とりあえずこれからどうしたい?」
一応聞いてみる。
少女は困惑しながらもどうしたいかを考えた。そして、姿勢を正して頭を下げる。
「私はどこにも行く当てがないの。だから、連れてってください。」
懇願してきた。
「(嘘だろ・・・こんな礼儀正しいのに、行く当てがないのかよ。)」
グレンは不安しか抱かない。明らかに要人の娘でそれを攫ってきた連中のことを思えば断った方が身のためになる。しかし、それでは助けたかった理由がなくなる。そう、俺は助けたかったのだ。
相手が困っているのが気配で伝わってくる。
「(やはり、私は機械でしかないのかな・・・ただ、利用されるだけの存在・・・今再びあの場所に戻りたくない・・・)」
諦めて俯きかけていた時、声がした。
「分かった。いいぞ。」
「えっ・・・?」
思わず自分の顔を相手の顔まで上げ見る。
「だから…連れてってやるのさ。俺のことが優先だけどな。」
「あぁ・・・」
少女は嬉しかった。でも、それを表にはださない。ただ吐息を漏らすだけにした。
「(全く…今ぐらい子供らしくすればいいのな。でも、まあ、おとなしくしててくれるならありがたいか。)」
「さて、一緒に行くことになったが、名前を聞いてもいいか?その方がいざという時に助かる。」
グレンはあえて目線を合わせずに言う。こちらの言葉に気づいた少女は少し考えてこちらを見る。
「・・・私の名前は、ララ。・・・それだけっ。」
何かを察しはするが追及はしない。
「…そうか。おれはグレンだ。まあ、よろしく。」
「よろしく・・・」
「じゃあ、行くか。」
「・・・うん。」
二人は歩き出す。先にグレンが。後をララがついて行く。
荒野に二つの影が落ちていく。
誘拐犯の3人はそれなりの腕の立つ傭兵でしたが、物語の都合上またグレンの強さが異常だったため即退場となりました。油断していたと思っといてください。




