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9話 「異形」 後編 (2/2)

かなり期間が空いてしまったが生きています。

 

 「ふぅ・・・間に合ってよかったよ。」


 グレンは息を吐いていた。相当走ってきたのだろう。


 「でも・・・どうしてここに…?村を去ったと思っていたのに。」


 アンナの目尻には涙が再び浮かぶ。昨日今日で泣き虫になったと自分でも思う。


 「えっ、どうして泣くんだよ。」


 困惑するグレンにアンナは照れ隠しをするように答える。


 「別に何でもない…」


 「そうか。まあ、俺は本当に去るつもりだったんだがな・・・」




 まだ騒ぎが起きる前、グレンはCTRが来た道とは別の道から目的の場所へと向かおうとしていた。ここは、敵領だから出来るだけ見つからないようにいかなければならない。だからCTRの小隊からも出会う前に逃げた。


 今グレンは森の中を歩いている。


 「事実を隠しながら過ごすことから解放されたんだから少しは、胸の内が軽くなると思ったんだがな・・・んっ?」


 一人考えながら森を歩いて行くと少し開けた場所に出た。そこには野営の跡とCTRの足跡があった。 


 「これは、あいつらの野営地か。こんなところに設けてあったとは・・・」


 なにかめぼしいものがないか周辺を探索する。するとあることに気づいた。


 「んっ、待て、おかしい…どうして痕跡を残しておくんだ?」


 グレンは今まで多くの機械派の野営地を見つけたり襲撃もした。その中で野営地の跡を見つけた際にどれだけ大きい部隊でも必ず痕跡を残さないよう消していた。部隊の規模を敵に把握させないだけでなく部隊がいたと存在を気付かされないように。それは軍隊の鉄則だった。


 「確かアンナは今日CTRが来たことに驚いていた。いつもと違うタイミングで来たから。」


 グレンは考える。今村にいるのはいつも巡回をしている正規軍なのか。普段と違う動き、普段と違う感じ、絶対とは言い切れない。


 「そういえば賊がCTRを強奪して運用しているって話をランスロットから聞いた気がする。外界とは疎遠の村を訪れ機械派と勘違いして金目の物を差し出す例が何件も起こっていて、あいつを悩ませていたっけ。」

 

 少し懐かしむように思い出す。だがすぐに切り替える。


 「今村にいるのは、紛れもない悪かもしれない。もしかしたらただの機械派かもしれない。だが、最悪の可能性を想定しなければな。」


 「魔法使いとバレるのは仕方ないか。俺の生き方に背けないもんな。」

 

 踵を返し村へと走っていく。




 「(そんな感じに戻ってきたなんていったら驚くだろうな。未練なんてないと思っていたんだから。)まあ、気がかりだったからな、お前のことが。案の条危なかったけど。」


  「グレン・・・」


 グレンがおもむろに立ち上がる。


 「さて、俺はお前に謝らなくちゃいけない。嫌いになってくれても構わない。」


 「えっ、いきなりどうして…?」


 「それだけのことをすでにしたからな。・・・ごめん。」


 グレンの表情は見えない。すでに向きを変えて敵と相対している。


 「おうおうおう、不愉快だ!貴様何をしたのか分かってんのか?刃向かったんだぜ。」


 CTRの隊長機が威張り散らして来る。


 「分かってるさ。」


 隊長機は不機嫌さを隠すこともせず続ける。


 「ならば、そこに跪け!!出なければ・・・」


 「出なければなんだ?」


 「皆殺しだ。」


 グレンは宣言する前から刀を抜いていた。目にも止まらぬ速さで抜かれた斬撃は、狙いたがわず右側のCTRを両断した。




 「あぎゃ………」


 耳をつんざくような一閃の刃が左側にいた若いやつを直撃し、その肉体を瞬く間に両断し絶命させた。その様子をモニター越しに確認できたお頭は驚きを通り越して呆然としていた。


 「あえっ、な、なにをした・・・」


 目の前の人間は今納刀をしているところだった。


 「斬っただけさ。お前たちが賊だからな。」


 「えっ!?」


 村人の中から驚きの声が漏れる。


 「そもそも、民間人に手を上げることを機械派はしない。そして俺の力を見て正体をすぐ見抜けないような馬鹿でもない。だから賊だ!」


 「えっ、正体って…?」


 アンナは話を理解できない。


 「お前が何者だろうと知ったことか。殺すぞ!!」


 「おっ、おう!」


 2機のCTRが銃を構える。


 グレンは銃弾が発射されるよりも速く魔法を展開する。


 「ファイヤーウォール!」


 腕を横一線に切ると地面に魔法陣が現れそこから炎が噴き出る。


 「撃てぇぇぇ!!」


 それと同時に銃口から銃弾が放たれる。 


 「きゃあああ!!」


 「うわぁぁぁ!?」

  

 村人達は射出音に怯え立ちすくむ。アンナも死を悟り目をつぶり身を固める。しかし、音は断続的に聞こえてくるが、いつまで経っても着弾しなかった。恐る恐る正面を見てみると炎の壁の向こうにCTRが薄らと見え、銃弾は壁にぶつかり掻き消えていた。


 「なんだあれは、銃弾がきいていないぞ!!」


 「くそっ、撃ち続けろ。いつか消える!」


 「それじゃあ遅いな。」


 「なっ!?」


 先ほどまで向こう側にいた少年が右側の奴に肉薄しようとしていた。


「くそぉぉぉ!!」


 CTRが腕を振るい少年を振りほどこうとする。しかし、空中で華麗にすり抜けられてついに間近まで接近された。


 「遅いさ!」


 少年が横に一閃。それだけでCTRの装甲が切り開かれる。コクピットにも直撃し内部があらわになる。

次には斬った線をなぞるように炎が巻き起こりコクピットを飲み込んだ。


 「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


 「馬鹿なっ!?」

 

 炎はCTRの全身に広がりやがて制御が出来なくなったのか壊れた機械の音を上げて膝を付き、重苦しい音をたてながらうつぶせに倒れた。


 その手前に少年が立っている。


 「あとはお前だけだ。」


 その姿は死神そのものだった。


 「ま、まさかお前は魔法使い!?・・・ふ、ふざけるなー!!」


 お頭は踵を返し一目散に逃げる。しかし、死神の鎌からは逃れられない。


 「遅いって言ったろ。」


 背後から一撃。それだけで機体は制御を失い頭から地面に激突する。


 「そんな、馬鹿なことがあるはずない。俺は、俺は・・・」


 お頭の言葉も聞かず刀を持った反対の手で魔法を発動する。


 「フレイムストームっ!」


 お頭の機体の地面に魔法陣が描かれ、そこから熱気が流れ出る。


 「あひっ・・・」


 次の瞬間爆発するように巻き上がった炎の嵐は機体を飲み込み、機体は燃え盛り黒くなっていく。嵐が過ぎ去った後も機体の炎は消えることがなかった。


 「ふぅ・・・終わったか。」


 グレンの完了の言葉を聞いてようやく村人たちは緊張と恐怖の拘束を解かれた。それでもまだ誰も言葉を発せない。


 グレンは刀に付着したCTRのパーツに使われているオイルを振り払って鞘に納める。そしてやや逡巡してから村人たちの方に歩み出る。


 そこで初めて拒絶と言う名の言葉を村人たちが発した。


 「あれって魔法使いじゃないよね・・・?」


 「いや、魔法じゃないか!!」


 「それだけじゃない。あいつはゼムの家に厄介になっていた奴じゃないか!!」


 「ま、まさかゼムが引き入れたんじゃないでしょうね!!」


 村人たちの言葉は繋がりを以て鋭く黒くなっていく。そして矛先をアンナの父親に向ける。


 アンナの父親は今人生の瀬戸際に立たされている。なぜこんなことになったのだと。本当なら事も何もなく過ぎるはずだったのに。それもすべてあいつのせいだ。そうしなければ。


 「俺は知らなかった、あいつが魔法使いだって!!あいつは俺達をだましていたんだ!!」


 えっ、どうして。お父さんはグレンを認めていたのに・・・。


 アンナは突然父親が言い出したことを理解できなかった。


 しかしグレンは理解している。アンナの父親の言葉を受けてグレンは狂ったように答えた。


 「・・・ああ、そうだ。俺はお前たちを騙していた!!騙されているとも知らずに利用されるとは馬鹿だな、はははっ。」


 えっ、グレンもどうして?どういうこと・・・


アンナは動くことも言葉を発することも出来なかった。

 

 「やっぱり魔法使いは悪魔じゃないか。お前のせいでこの村が襲われたんだぞ。出ていけよ!!」


 「そうだ。俺たちのアンナちゃんをたぶらかしやがって。死んでしまえ!!地獄に落ちろ!!」


 「俺達をだましやがって!!でていけっ!!」

 

 「出ていけー!!二度と来るなー!!」 

 

 グレンにたくさんの罵声が浴びせられる。そこで初めてアンナは状況を理解できた。


 「待ってよ…グレン、魔法使いなんて嘘よね…ただの旅人、だよね・・・」


 アンナはすがるようにグレンに問いかけた。しかし、突然体を引き寄せられる。


「アンナちゃん、近づいちゃ駄目だ。あれは悪魔なんだよ!」


 おばさんが私を抱き寄せる。そしておばさんの両脇におじさん達が並ぶ。


 「あの悪魔にたぶらかされたんだ!!俺達を家畜だと思ってるに違えねぇ。なにされるか分からねえぞ!!」


 違うの。グレンはそんな人じゃない。


 アンナは必死に身をよじり声を出そうとした。でもいくら言葉にしようともできなかった。


 「(なんでっ!?グレンが遠くへ行ってしまうのに・・・なんでっ!)」


 アンナは恐怖していた。グレンが怖いのではない。村人達の狂気が怖いのだ。


 彼らは魔法使いという人種を遺伝子的に拒絶している。まるでそれが当たり前かのように。


 おそらくアンナもグレンでなければそうしていただろう。だからこそ今彼を止めることが出来ない。


 「(グレンを止めたら私が村の人々に拒絶される。ここにはいられなくなる。それがたまらなく怖い・・・)」


 やがて村人のなかから物を投げつける者があらわれる。ひとたび投げられればそれは伝播して皆がこぞって拒絶の言葉とともに石などをグレンに投げつける。


 グレンはそれだけの仕打ちを受けても動じない。頭に石が当たり額が切れて血が顔を流れる。その時、いままで定まっていなかった視界がグレンの目を見据える。グレンもまた私を見ていた。


 その眼が私に謝っているようだった。そして仕方ないとも言っているように思えた。


 手を伸ばす。この手を掴んでくれることを期待して。


 でもグレンは最後に一度笑ってから背を向けた。


 「出ていけー!!」


 「二度と来るなー!!」


 その声に押されるようにグレンは去って行った。その姿が見えなくなるまで私はただ手を伸ばしているだけだった。




 「アンナ…済まなかった。私は彼の正体を知っていた。だからあそこで否定しておかなければ私たちはここにはいられなかった。それはいやだったんだ。怖かったんだ。だから…許してくれ。」


 アンナの父親は呆然自失のアンナに謝罪をする。それが慰めにもならないと分かっていてもしなければならなかった。


 「(お父さんの言うことも分かる。私もそうだった。でも・・・)」


 アンナはこの喪失をどうすればいいのか分からなかった。


 「それとな、私の部屋にこれがあった。」


 そう言って一枚の書置きを見せる。それをアンナは横目で確認する。

 

 「っ!?」


 そこに書いてあったのは私の名前から始まる走り書きでつづられたグレンの別れの言葉だった。




 アンナへ


 すまない 俺は魔法使いなんだ アンナとは一緒にいられない 

 

 だけど楽しかった アンナと過ごした時間は


 でも俺は行かなくちゃいけない


 今まで ありがとう また いつか 会おう


                        グレンより


 最後まで読み終えると涙がとめどなく溢れてくる。悲しいわけでもない。うれしいわけでもない。でも喪失しかなかったこの胸にわずかでも満たされる感覚あったことが心地良かったのだ。




 「あれで良かったんだ。あれが俺にできる唯一の励ましだからな。」


 グレンは汚れた服の土を払い額を拭った。


 「位置的に、クロスストリートに帰るついでに目指すは故郷だな。久しぶりの里帰りだ。」

   

 そうしてグレンはいつもの調子で森を歩いて行く。


 運命の糸に導かれながら・・・

次話ようやくヒロインが登場します。

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