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9話 「異形」 中編

4、5月はいろいろと忙しくてなかなか執筆に手が回らなかった。

とりあえず続きをひとつ。

 グレンがアンナの家で治療を受け始めてから5日が経った。その間に傷はグレン自身の力のおかげか瞬く間に治っていき、今では運動することも出来た。あまりの回復の早さにアンナは驚いたが、彼女の父親が当たり所やれ運が良かったやれ言いくるめたおかげでなんとかごまかせた。そして歩けるようになったことでグレンはアンナと一緒に家の外へと出て行った。


 彼女が言うにはここはタミル村といって百人程度の人々が住んでいる小さな村だった。特産品があるわけではないが、平地のおかげで農産物の栽培が出来て、また近くの森では薬草やキノコなどが採れそれなりに栄えていた。そして今は機械派によって占領されており、月々の終わりに兵隊がやってきて搾取されていることも聞いた。


 「今は戦争中だけどここには魔法使いがいないから私達に被害が及ぶ心配はないわ。でも、そのために毎月お供え物を上げなければいけないのだけれど…」


 「まあ、力を持たないものは力を持つものに逆らうより従ったほうが利口だわな。それでいいのならばだけど。」


 「仕方ないのよ、この村は先祖代々外界との関わりをあまり持たないのだもの。それでいて、機械派の人達は私達を魔法派に協力していたとか言って占領するし。ふざけてるわ!!」


 「そうか・・・」


 「あっ、ごめんなさい…お客さんの前で愚痴ってしまうなんて。最低よね・・・」


 彼女はグレンに村の案内をしていたのに愚痴に付き合わせてしまったことを申し訳なく思った。


 「アンナが憤るのも分かるさ。人間の中には身勝手な人なんてたくさんいるんだからな。」


 「うぅ、ありがとう。…じゃあ、気を取り直して案内を続けましょうか。」


 「そうだな。」


 そうして二人は半日かけて村の隅々まで案内させてもらった。道中彼女には多くの村人から声をかけてもらっていた。声を掛ける人々は皆彼女の持ち前の明るさに影響されてか笑顔だった。そのことから彼女は愛されているのだとグレンは思った。


 陽が西へ傾き始める頃彼女は思い出したように言う。


 「あっ!そろそろ仕事に行かなくちゃ。ごめんなさい、グレン。まだ全部紹介できてないのに。」


 「そんなことはない。今日はありがとうな。」


 「ふふっ、グレン、それじゃまた夕餉で。」


 「ああっ。」


 そう言って彼女は駆けて仕事場へと向かった。残されたグレンは家に帰ると偶然アンナの父親と出会った。ここぞとばかりに彼女の父親は、話があると言ってグレンを連れて家の裏手にある小屋へと向かった。そして先ほどまでしていた穏やかな表情と打って変わって意を決したように厳しくなった。


 「私は、あなたを連れてきたことを後悔はしていません。しかし、あなたが魔法使いであるのならばたとえ子供であろうと近いうちに村から出て行ってもらいます。」


 その言葉は全てを知ったうえで言っていた。


 「・・・やっぱり機械派が怖いのか。」


 グレンはアンナの父親に問い返すと一層顔に悲壮感がでた。


 「ええ、そうですよ。非力な私たちは強大な力を持った彼らに刃向かったならばたちまち村が消えてしまいます。それはあなたを匿うことでも同じです。」


 機械派はあくまで魔法を使えない人間達だ。だから魔法に憎悪する。しかし、


 「あいつらは魔法に恨みがあるが同じ人間には恨みはないからな。魔法派についている魔法を使えない人々でも抵抗しなければ殺したりはしないさ。だから、それがいいさ。」


 「出て行って、くれるのですね。」


 「まあな。もともとここには寄るつもりもなかったし、用事もあるからな。」


 予想していた方向に話が進んだので父親の顔に安堵の表情が浮かんだ。


 「あなたの回復が早いおかげでまだ村の者ものには気付かれてはいないでしょう。今ならば普通の旅人として出ていけるでしょう。」


 「それはありがたいな。・・・それで俺の持ち物はここにあるのか?アンナにはあんたが持っていると聞いたが。」


 アンナから聞いたとグレンが言うと父親は一瞬驚いた顔をしてから諦めたように言う。


 「あの娘は何でも話してしまうのか…。ええ、確かに私がここに隠しています。何分あなたの持ち物は一目で魔法物だと分かるものが多いですから。」


 そう言って散らばっている物をどかして奥からグレンの服や得物、小道具などを両手いっぱいに持ち出してきた。


 グレンはそれを手に取って一つ一つ確認していく。刀のさび具合、刃こぼれ。日常生活用品、サバイバル道具、使い慣れた服装。それらを見ていっていると父親が気になっていたのか聞いてくる。


 「あなたの武器である曲剣は随分とすごい代物ですな。見ただけで圧倒されますよ。それでも、普通の曲剣なのでしょうか?」


 グレンは手に取っている刀の刀身を父親に見せながら軽快に言う。


 「確かに、普通の武器にも見えるよな。でも、これにはとてつもない力が秘められているからな。ただの人間が振りでもしたら力に飲み込まれて暴走するから迂闊に触ってなくて良かったよ。」


 「はははっ・・・」


 グレンの暗に危険を教えてくれた言葉に父親は乾いた声で笑ってしまった。


 「(村の者に振らせてみようと思っていたなんて言えないな・・・)」


「…さてと、そろそろ戻りましょうか。出発は明日でよろしいですか?」


「そうだな。行くなら早い方がいい、そうしよう。」


 これ以上彼には何も聞かない方がいいと思った父親の提案をグレンはあっさりと承諾する。


 「分かりました。」


 そうして二人は小屋を出た。その後アンナに怪しまれないようにグレンの持ち物はグレンのいる部屋に隠して、夕方頃何も知らないアンナが帰ってきた時は、何食わぬ顔で父親と出迎え夕食を共にした。




夜、グレンは明日の早朝に家を発つため必要なものの確認をしていた。幸いなことに食料などを分けてもらえるためしばらくは危険を冒さなくて済む。それに脇道に入ることもないので予定していた日数より早く故郷に着くだろう。


 グレンはだいたいの荷物の整理がついたのでそれを隠して次は就寝の準備に取り掛かろうとした。その時、不意に足音が聞こえた。グレンは持っている竜の能力のひとつに人間より耳が良いことがある。そのため扉越しでも誰かが来ていることが分かった。足音はだんだん近づいてきて、自分の部屋の前で止まった。そして扉が開く。


 「・・・こんばんは、グレン…」


 「・・・。」


 「少し、眠れないの・・・お話してくれませんか?」


 アンナだった。 

  



 グレンは何かあるのかと悟り、彼女を連れてテラスへと出た。そしてそこの柵に肘を乗せ空を見据える。アンナも同じように続いて柵に肘を乗せ星空を見上げながらこれまでの旅路について聞いてきた。


 「ねえ、戦争している中でどんな旅をしてきたの?大変じゃなかった?」


 「まあ、大変ではあるな。ただでさえ魔獣がうろついているから危険なのに、軍隊の奴らも襲ってくることがあるからな。」


 「それなら...辞めようとも思わないの?まだあなたは、その子供じゃない。」


 「・・・辞めようとは思わない。仮に辞めても、どこに帰れば良いかわからない。故郷はもうないから。」


 「あっ…その、ごめんなさい。」


 「いや、いい。よく聞かれるからもう慣れた。それより、旅してきた内容だけど少し長くなるぞ。」


 「お願い、聞かせた。」


 「ああ…」

 

 グレンは、故郷から旅立ってからのこと。魔法派として各地を転戦したことをぼかして話をした。一通り話終えたにも関わらず、二人はしばらくの間静かにそのままでいた。


 グレンは何食わぬ顔でアンナが話すのを待っているのに対してアンナは顔を紅潮させながら何か言いたそうでなかなか声に出せず体がそわそわしていた。


 しばらくすると彼女はこちらに顔を向けて意を決して切り出した。


 「あのねっ、グレン。・・・私の思い違いだったらいいんだけどね…グレンは、ここからいなくならないよね・・・怪我が治ったら、また旅に出たりしないよね?」


 「・・・。」


 「私の勝手なわがままなのは分かっているの。だけど、どうしても聞いておきたくて。…ねえ、どうなの?」


 「・・・。」


 グレンはどうして彼女がここまで積極的に聞いてくることが理解できなかった。グレンにとって彼女は命の恩人ではあるがそれだけだ。あとは優しい人間だと思っているぐらいだ。戦友のような特別な関係でもないのに自分の進展について聞いてくることはどうしても分からなかった。だが、何も答えないのもあれだから観念して答えた。


 「…秘密のままにしておきたかったんだが、そこまで言うのならば仕方がないな。俺は明日ここを発つ。お前には知らせない方がいいかと思ったんだ。」


 アンナにはグレンの言葉は苦し紛れの言い訳にしか聞こえなかった。実際傍から見てもそうだった。本人はアンナのことを心配しているつもりで言ったのだが。


 「どうして、私には知らせないつもりだったの?もしかして、私のことが嫌いだったのかな・・・だから見送られたくないって・・・」


 アンナは先ほどまで紅潮させていた顔を水を掛けられたかのように白くさせて、しまいには俯いてしまった。さすがにそこまでくればグレンでも何か言わなければいけないと悟った。

 

 「違う、違う!俺はお前のことは嫌いじゃないさ。ただ、お前が見送ると絶対泣きそうだから面倒くさくしないためさ。」


 「うっ…私は邪魔者なの・・・グレンは見送られたくないんじゃない・・・」


 彼女はますます俯いてしまった。


 「あがっ・・・」


 グレンは女性の対処法なんて知らない。むしろ自分勝手だからこそ分からない。


「(どうすりゃいいのかな・・・?)」


 グレンはしばらく答えられなかった。そして先に口を開いたのはアンナだった。


 「・・・だったら、せめて朝ご飯を一緒に食べて、…それから見送らせて頂戴っ!」


 彼女は顔を上げて嘆願するように喉から声を絞り出した。その顔を見たグレンは一瞬罪悪感に包まれながらもせめてなにか一つぐらいは、彼女の願いを叶えさせたいと思った。


 「・・・分かった、そうしよう。」


 「えっ・・・」


 「だから、明日の朝は見送ってもいいと言っているんだ。」


 「あぁぁ・・・ありがとう、グレン!!」


 グレンの了承の言葉を聞けたアンナは再び顔を紅潮させて先ほどまでとは打って変わっていつも通りの声でお礼を言った。


 「お、おう…」


 その変化にグレンは多少戸惑った。


 「じゃあ、明日の朝は張り切って料理を作るわ。」


 「分かったよ。だから今夜はもう寝ようか。」


 「えっ!?」


 「どうした?」


 「いやっ、その、なんでもない…。」


 「そうか。じゃあ、おやすみ。」


 「ええ、おやすみグレン。」


 グレンは先にテラスを立ち去って自室へと戻っていった。


 残されたアンナは先ほどのグレンの言葉を思い返す。


 「(だから今夜はもう寝ようか。)」


 「一瞬男女の営みを期待した私が馬鹿だったわ。グレンは鈍感以前にそんなことすら知らなそうだもん。」


 言葉とは裏腹にアンナは気分を高揚させながらテラスを去り自室へと赴いた。


 「でも明日が楽しみだわ。まだチャンスはあるんだもの。」


 そう思いながら眠りに就いた。その日はぐっすりと眠れた。



 アンナと分かれたグレンは自室に戻る途中、アンナの父親と出会った。出会ったというより、隠れていたところを出てきたともいえるが。


 「アンナが心配だったか?」


 「ええ、まあ。娘はあなたに好意を寄せていますから。外の世界から来た男など危険でしかないのに。」


 「自分でもわかってるよ。ここには残らないから安心してくれ。アンナも連れてかないよ。」


 「あなたが良識ある人で良かったです。願わくばこの戦争も早く終わってほしいものです。」


 「そうだな。お休み。」


 「おやすみなさい。」


 グレンは自室に戻るなり、すぐに眠りについた。明日は何も起こらなければ良いことを願いながら。

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