8話 「英雄の条件」 中編
「てりゃぁぁぁ!!」
「ぐはっ!?」
「進め進め、道を切り開くのだ!!」
剣士が銃弾を掻い潜りながら機械派の兵士を斬りつける。兵士は銃を撃つ間もなく切り伏せらせ、その場に倒れこむ。剣士は次の目標へと移動しようと首を周囲へと向けようとしたがそれは出来なかった。体にいくつのも衝撃が襲ったからだ。それらは痛みに変わりやがて感覚もなくなり意識が途絶えた。
倒れた剣士の名前を叫ぶ魔法使いの女が彼を襲った銃弾の軌跡を辿り、それがCTRのものであると認識すると持ち場から離れて仇をを討とうとする。それを横にいた仲間が制止を掛ける。
「待てっ!!あいつは覚悟をしていた!お前も分かるだろう!!」
「それでもっ!!」
「お前が死ねばあいつにも俺達にも迷惑だろうがっ!!!」
仲間の叱責を受けると女は苦虫を噛み潰してその場に留まり、敵の戦車の砲火を迎撃する作業に戻る。
魔法使いと戦士達の犠牲によってできた、戦場の隙間を縫って脱出する人々を乗せた荷馬車やその護衛の兵士達は砦からひたすら南へと駆けていく。南へと向かえばそこは魔法派の領域なのだから助かると信じて。
しかし、機械派の人間もそれを分かっているため南へと向かう道へは全軍の三割を配置していた。構成は二個歩兵師団に、CTR二個大隊、戦車一個大隊。一兵たりとも逃さない構えであった。しかし、砦の正面に配置してあった戦車一個師団、歩兵二個大隊、CTR二個大隊は依然として動かさず、各部隊には待機命令が出ていた。
砦の正面に配置されている部隊は、砦から魔法派の兵士達が出てきたときは最初こそ砲撃や襲撃を仕掛けたものの、今となっては砦から後続が出てこないか、あるいは抵抗する人間がいないかを確認するに留まっている。兵士達はこの命令に不可解な思いを抱えながらも待機していた。ついさっきまでは。
「紅蓮式一刀流壱の型、絶影!!」
グレンが叫ぶと刀が紅く迸りそれが残像となりCTRを両断していった。両断されたCTRはその鋼の体を中心から溶かして爆発する。それを加速によって追い越したグレンは残骸を背後に置き去りにして次の目標へと向かう。次の目標は戦車。戦車はグレンに対して真横を向いていた。旋回が間に合わないと判断したのか車体を後ろへと発進させる。戦車はCTRと比べて鈍足ではあるが戦車の全力と人間の全力の速度では圧倒的に車両である戦車にアドバンテージがあった。しかし、相手はただの人間ではなかった。グレンは念じて自らの肉体に魔法を掛け強化した体で跳躍し、優々と戦車の車体へと飛び移る。戦車の操縦席内では突然敵が車体に乗ってきたことに混乱した。
「ばかなっ!!くそおおおー落ちろー!」
「くそっ!!撃ち落としてやる!!」
戦車の操縦者はグレンを振り落とそうと砲塔を左右に振り動かす。それでもグレンはしがみ付いたまま絶妙な体捌きで戦車を離れない。そこに操縦席から一人の兵士が出てきて、上部に取り付けてあった銃座によろめきながらしがみ付く。兵士はしがみ付いた銃座から銃弾を目の前の人間にばら撒こうとレバーを引こうとするが、体に衝撃が走り、次には血飛沫が舞っていた。
グレンは振動や遠心力にも構わず目の前に刀を振り下ろした。それによって生まれた炎の刃は兵士を捉え斬り裂いていった。兵士が絶命し銃座にもたれかかって倒れるのを確認すると、グレンは砲塔を右手で掴み、それを支えに左手で技の名前を口にしながら斬る。
「覇黒っ!!」
振り下ろされた刀から生まれた巨大な質量は戦車を中心から溶かしながら地面で爆発する。その爆風に乗じて魔法の反動で浮き上がっていたグレンはさらに吹き飛んで、戦車だったものから30m以上離れても姿勢を崩さず着地する。機械派の兵士達やCTRはすかさずグレンの着地点へと砲火を集中させるが、すでにそこにグレンはいなかった。疑問が渦巻く中誰もが周囲に注意を向けると一機のCTRが倒れていくのに気付く。
「んっ?」
「っ!!!」
倒れたCTRは爆発した。その装甲には一筋の切り傷が刻まれていた。そして探していたはずのグレンもすぐそばにいた。グレンは着地してすぐに足を踏ん張り加速をして、兵士達の目が空中から追って着地したところに向く前に消え失せたのだ。
「…お、おのれっー!!」
「撃てぇぇぇ!!」
「撃ちまくれー!」
兵士達は先ほどよりも濃い弾幕を張ってグレンを殺そうと躍起になる。しかし、その想いも空しく銃弾は空を切るだけでグレンへは一撃と当てることが出来ない。
グレンは強化された体で素早いステップとダッシュを組み合わせることで敵からの銃弾と砲撃を躱していく。右へと体を揺らし、誘い込んでから左へと連続ステップ。着地からの後方振り向き抜刀で背後にいた戦車の履帯を斬る。二度は振らず流れるように納めて、すぐに脇を駆け抜け離脱。正面に2台の戦車を認めると空いた左手で宙を振り、炎の壁を形成する。直後、砲撃。鉄の壁に風穴を空けられる砲弾は炎の壁に触れ、しかし消し炭となりグレンまで届かない。その隙を突いてグレンは急制動で体を浮かしてからのステップ一回で抜刀の姿勢になった。
「紅蓮式二刀流、弐の型、双鳳雷っ!!」
グレンは足を踏み込んで、いまだ刃の届かぬ距離から刀を振り下ろす。しかし、炎の刃は振った軌跡から半円を描いて左側の戦車へと飛んでいく。その一撃で戦車は装甲を深く削り取られた。それだけでは戦車を破壊することは敵わないが、炎の刃はひとつには留まらなかった。グレンは腰に差した状態のもう一つの刀を右手で抜き右の戦車へと振り下ろす。そこからも炎の刃が現れる。そして右が振り終わると、右半身を下げて上段に構えなおした左手を振り下ろす。次に身体を右に半回転してからの右手を左下から右上へと切り上げ。二つ、三つ、五つ、八つ,一二と次々に炎の刃がグレンの刀捌きに合わせて現れて戦車を切り刻んでいく。ほんの数秒の間に履帯をやられ、砲塔を削がれ、内部を切り裂き、車体を真っ二つにしてようやく止んだ。もう一台の戦車もほとんど同じ状態になっていた。
グレンは強化した肉体と鍛え上げた技で複数の目標へと幾度と刀を振るい殲滅できる技術を戦争以前から編み出していた。それを実戦レベルまで昇華できるまで彼は尋常ではない努力を重ねていた。この技は刀を、流れるように振り続けて刀に流し込んだ魔力を振った勢いで刃として飛ばす技だ。そして、それを両手で行うという人間の限界を無視している高度な技だった。
まず、魔力を使って炎の刃を出したならば、再び魔力を込めなければいけないこと。短時間に大量の魔力を流して使うことは普通に魔力を使うよりも消耗が激しかった。それに加えて魔力波を放つには正確に速く正しく振らなければいけなかった。それは必殺の一撃を連続で放つことに等しかった。
グレンでも竜の力を得ていなければ魔力を込めた刀からは両手それぞれ三つまでしか放つことが限界で、使ったならばしばらく冷却が必要にもなる諸刃の刀だったのだ。
それをグレンはこの戦場で幾度となく使った。既に破壊した戦車やCTRの数は数えていない。それだけ倒したならばもう十分であり、脱出する人々は既に南の方へと行っているためここに残る必要はなかった。もう退いても良さげな頃間だが、グレンはなかなか退く気にはなれなかった。
「はぁ、はぁ、素直じゃないもんだな、俺も。人知れず弔い合戦とは…」
グレンはランスキーの死を深く気にしていた。もし、自分があの場にいたのならば救えたのではないかと思ってしまうのだから。力を持っているからなおさらそう思ってしまう。過ぎたことを愚痴愚痴言うことはあまりしないが、過去に囚われている俺はどうしても割り切れないのだな、と。だから、
「お前たちに恨みはない。だが、俺が最強となるためにその命、貰おうかっ!!」
グレンは二台の戦車を破壊するや否や次の目標であるCTRへと跳躍をして向かう。一瞬遅れて、今いた場所には銃弾の嵐が過ぎ去った。グレンに狙われたCTRは周囲に味方がいないと悟り戦うことを選ぶのではなく、愚かにも敵を背に逃げることを選んだ。グレンは狙っていたCTRがこちらに背を向けたことに笑みを作って、上に向かっていた姿勢を変えた。空中で体をやや前のめりにし、足を斜め上にした状態にして空中を踏み込む。すると、足場のない空中を押してグレンが再加速を掛けた。それは再び跳躍したことを意味していた。
「なっ!?」
「再跳躍したのかっ!?」
空中でグレンを捉えきれない機械派の兵士達は再びの跳躍で完全に狙いを外した。
CTRの操縦者も驚く。
「ばかなっ!!」
グレンは落下する体を捻り、回転してCTRを背後から斬りつけた。左の刃は上からCTRの右腕を。右の刃は下から左腕を溶かして奪う。両腕をもがれたCTRはバランスを崩し、地面につんのめる。グレンは空中で前転してから右足を踏み込んで停止を掛けた。そしてその反動で出たもう片方の足を踏み込んで再びCTRを斬りつける。今度は胴体を斜めに両断され完全に機能を停止した。
斬って、避けて、動いて、斬る。流れる動作で繰り広げられる芸術と呼んでも差し支えがないグレンの戦いぶりをCTRの操縦席から見ている軍人達がいる。彼らが乗っているCTRは全てグレンが戦っている戦場へと向かっていた。その機体はすべて黒で塗装されており、まさしく戦場を駆ける番犬を連想させる。
「あの子は本当に化け物ですわね。」
参謀役のレイラが感想を漏らす。
「そうだな。あれと戦って生きているのが信じられないくらいだな。」
ジンテツは以前戦った時のことを思い出して苦笑いをした。
「では、どうしますか?勝てないと分かっていて戦うのは無謀ですよ。」
副隊長のグリバスは隊長のことが心配なのか気遣うがジンテツは気にしなくてもよいと返す。だからこそ
「仲間を見捨てるわけにはいかない。時間稼ぎだけでもするぞ。」
ジンテツの作戦に皆が了解の応答をする。
そうして黒いCTR達は速度を上げて戦場へと急ぐ。その中でジンテツは一つ疑問に思った。
「(なぜ、奴は今だ戦場に留まり続けるのだ?既に南に脱出する魔法派の人間達は6割が戦場を離れたと聞く。残りの人間達を支援するとはいえ、東側であるここに留まる必要はない。もしかすると、純枠に戦いを楽しんでいるのか。)」
尽きぬ疑問を抱えながらジンテツは意識を戦場へと向けた。
「ランスロット様!!負傷者を乗せた荷馬車はすべて前線を離脱しました。残るは遅れている民間人と我々だけです。」
「分かった。なるべく民間人を先に離脱させろ。我々は最後の盾だ。」
「了解しました!!」
報告をした魔法使いはすぐに持ち場へと急いで戻る。それを見届けたランスロットはずっと気がかりになっていることを思いもせずにはいられなかった。
「(グレン…お前は無事なのか?)」
それはまだ脱出をする前に、グレンが一人で正面の敵を引き付けると言ったからだ。
グレンは脱出を支援する囮の人間達のところに遅れて来た。ランスロットは特に咎めはしなかったが、その時のグレンは覚悟を決めたかのようにまっすぐを見ていた。そして口からはその覚悟を表す言葉を言い放つ。
「俺は正面を引き受ける。だから一人で行く。」
それを聞いたときは、言葉を失ったがグレンの実力を知っているランスロットからすれば出来なくもないと思ってしまった。
「それは、死ぬ気なのか?」
「いや、生き残るさ。きりがいいところで引き上げるよ。」
「・・・そうか。なら、いけっ。」
「ああ。そっちは頼んだぞ。」
それを最後にグレンとは別れた。
「(恐らく今もグレンは戦っているのだろう。戦うことが生きることでもある奴にしてみれば一人というのは楽なものだろうな。しかし、無茶でもして帰ってこなかったら許さんぞ。)」
ランスロットはグレンへの未練を振り切りここが戦場であることを再び自覚する。伝令を受け取るためだけに張った結界を、張っていた魔法使いに命じて解かせ、戦場の音が再び戻ってくると同時に駆けだす。




