7話 「束の間の準備期間」 中編
ロック砦から約20km地点 機械派軍野戦総司令部
時は少し遡り、二つ名持ちが魔法派の援軍と合流した頃の機械派の総指揮所は狐につままれたかのように驚き騒然としていた。
《第三、第四小隊は右翼の集団を撃退しろ!第二、第三中隊は我に続け!!》
《《了解!》》
「第三、第四小隊、敵魔法使いは500人相当です。各員の連携を密にお願いします!」
《了解!!》
《先行していたターレット部隊が壊滅しました!!残存機の援護を!!》
《私とテぺスを回す。ドットリー、ここは任せるわよ!!》
《はっ!》
「第3機械化大隊の皆さん!敵の二つ名持ちは味方との共同戦線を張れません。乱戦に巻き込んでください!!」
《分かってるわ!!》
《あ、あ…。ふ、二つ名が…自爆した…。味方、は…。》
《おい、しっかりしろ!くそっ。援護班、私に続け!前衛を回収後、撤退する!!》
《敵の二つ名を仕留めないのですか!!》
《お前は貴重な精鋭部隊を全滅させる気か!!》
《…分かりました!!》
「ポスト、了解。撤退するルートを送ります。」
《助かる!!》
ただでさえ、自走砲部隊が壊滅状態で混乱している前線で、絶対に勝機を持って挑んだ二つ名持ちに対してのCTR大隊での包囲殲滅は1:50近いアドバンテージがあったにも関わらず、苦戦、あるいは敗走していた。
その理由はこちらの部隊の錬度が低かったからではない。むしろ、この戦場において彼らは精鋭といっても差し支えないほどの錬度を誇っているといっても過言ではない。
二つ名持ちの底力が予想を遥かに超えていたからだ。
彼らは皆確固たる意志を持って、我々を足止めしていたといえよう。思えば、二つ名持ちはまず自走砲から片付けていた。恐らくそれが今回の目的であったのだろう。そして、CTRが来るや否やそれぞれが散らばり味方の方へと駆けて行った。それを味方と合流すると全部隊員が思ってしまい、それぞれが二つ名持ちに釘づけになってしまった。それが不味かった。
それを待ちわびたかのように、敵の魔法使いの軍団が二つ名持ち「剣聖」を伴って出撃し、一糸乱れぬ統率のとれた動きで次々と自走砲を片付け、片手間かのように二つ名持ちの救援へと駆けつけた。そしてそれを二つ名持ち達は待っていたのか、包囲戦からの二正面作戦を展開し、我々を追い詰めた。
指揮所の中央で戦場を見渡していた総指揮官であるジラードそう状況の推移をまとめた。
「(フハハハッ、面白い…。奴らは本物の戦士か。あるいは、英雄か?どちらにしろ負け戦の中でよくやる。)」
ジラードは魔法派の人間達を称賛していた。同時に、絶望の中であがき続けることの無意味さをも知っていた。ジラードの思考はこの状況では負け惜しみのようにみえるが、実はこの状況こそがジラードが望んだ状況であり、この地点で機械派の目的の第一段階は成功していたのだ。
それは魔法派をロック砦に封じ込め、孤立無援のまま籠城戦に持ち込もうとする作戦であった。
現に自走砲部隊は壊滅したがそれはあくまで第一陣。第二陣と予備も含めれば、全体の三分の一の損害だ。第一陣は心苦しいがいわば二つ名をおびき寄せるための囮として使っていた。そのおかげで敵の二つ名持ちを疲弊させることができた。運がいいことに、今入った情報によると敵の二つ名持ちが自己犠牲魔法を使ったらしい。たとえ助かろうとこの戦いの間は動くことは出来まい。
CTRに関しても今回は三個師団を投入している。主戦場に派遣したのが150前後、包囲網を敷くために敵の後方へと派遣した数が50前後、予備に100前後。三、四十機を失ったところで攻略作戦に支障はない。CTRだけが主力ではないのだから。
「だから恨むなら恨めよ…。」
ジラードは小さく自分の思いを言葉に出していた。
「…?どうされましたか、閣下?」
「いや、なんでもない。引き続き砦に対して攻撃の手を緩めるな。もし、疲労したならばすぐに後続と交代することを心掛ける様にしろ。」
「はっ!全軍に伝えます。」
そう言って副官は指揮所にいる各員に伝令する。
機械派第一野戦修理補給基地
ロック砦攻略戦においてCTRは何でも屋ような即応部隊の動きを求められていたため、それを支えるために機械派は3つの修理補給基地を現地で作った。基地の主な役目は破損したCTRの修理と弾薬の補充だが、3つすべての基地にCTRが立ちかわり入ってくるので、整備員や補給員はめぐるましく働いていた。
特に第一基地では、たった今まで二つ名持ちを襲撃してきたCTRの大部隊が帰ってきた。二つ名持ちによってやられた機体は数知れず。そのため、ここはもう、二つ名持ち襲撃部隊だけの専用基地となっていた。
搭乗員たちも戦闘による疲労を養うため皆ここに留まって、皆が思い思いの場所でだべっている。中には、CTRの整備を手伝う物好きもいる。しかし、帰ってきた搭乗員達の多くの表情に笑顔はなく、一様に暗かった。
だがもっともひどいのは、彼らを指揮した指揮官だろう。勝てると踏んで連れて行ったのに、相討つどころか、敗走して多くの部下を無駄死させてしまったのだから。
「くそっ!なんなんだよあれは!化け物じゃないか!!」
「まさか、全員がマギウスに及ばなくとも近い存在だとはな。一体、どうやったら勝てるのだろうか。」
「あんたのところは運良く誰一人欠けていないから、そんな呑気な事が言えるのかしら。私達のところでは多くの仲間を失っているというのに!」
「仕方あるまい。全員集団戦に慣れていただけだ。それに奴らが逃げに徹し、増援が思いの他早く到着したのもある。我々の作戦負けだ。」
憤る青年と女性が落ち着いている中年と老人と対立をして口論している。青年と女性は多くの部下を亡くしてしまっていた。だから怒りをぶつけずに入られなかった。それを中年が嗜める。老人はそれを黙ってみている。
「チェスター、あんたも部下を亡くしたんだろう。なんで怒らない!!」
「軍人が上の命令に逆らうというのか!!…私は出来る範囲でやった。しかし部下を救うことが叶わなかっただけだ。それだけだ・・・」
「俺もエリザも同じ気持ちだよ!!だから上に抗議するんだぞ!!CTR部隊を囮に使いやがったことに対してっ!!」
「ヘルマンの言うとおりだよ。私達は精鋭なんだ。それを駒みたいに使うなんてふざけないでよ!!」
エリザとヘルマンがチェスターへと罵声を浴びせる。
「私達がもっと自由に動けたらあんな奴らに縛られずに敵を早期撃破できたはずよ!!上の作戦なんかに頼らずにっ!!」
「いや、作戦は成功していたぞ。」
横から突然の声に3人とも驚く。
「なんだって…もう一度言ってみなさいよ。こんな有様だっていうのに!!」
ヘルマンが制止を掛けるがエリザはそれでも食って掛かる。彼女は士官所の窓から見える修理されているCTR達の光景を指さす。
そこには、ほぼ全ての機体が、外装を傷つけ、各部を破損し、修理されている。その光景に付け加え修理している人々の表情も暗く、負け戦であったことを示していた。
それらを目で見たうえでジンテツは言う。
「たしかに、私たちは負けてきた。だが、戦場全体で見れば二つ名持ちを釘づけにして自由を奪った。そのおかげで自走砲は壊滅したが、敵を砦内部に封じ込め、さらに後方支援も我々が断ち切れた。孤立無援の砦など時間を掛ければ落とせる。敵の方が時間が惜しいのだからな。」
ジンテツは今まで送られてきた情報を整理して奇しくも上層部と同じ考えに至った。
「そうだな。いずれ仇を討つべき時は来る。今は耐えよう。」
チェスターもジンテツの意見に賛成でこの話を終わらせようとした。しかし、
「あんた達は自分達が囮にされたことを悔しくないのかっ!!」
エリザが食って掛かる。
「死んでいった奴らは名誉と誇りを持って私たちのところへ来た。それがこの仕打ちはなんだ!!そんなこと認められないわ!!」
ヘルマンだけでなくチェスターもジンテツもその気持ちは痛いほどわかっていた。そして彼女は一番彼らを大切に思っていたことも知っていた。だからこそジンテツは威厳のある声で彼女を諭しつけるように言う。
「我々は軍人だ…分かっているだろう。彼らは戦いの中で死んでいった。それは軍人にとっての名誉だ。それを可哀そうだと踏みにじりあまつさえ利用している。貴様こそなんなのだっ!!」
「ぁ・・・」
その声にエリザは怯えた。そして言葉の意味を理解し、体から力が抜け膝を付く。
「我々が彼らにしてやれるのはもちろん敵討ちもあるが、一番良い方法は、砦を落としたことを後世に伝える。それが死んでいった彼らへの手向けになるのではないのか。」
「ジンテツ・・・」
「あんた・・・」
二人が見守る中エリザは先ほどの怒声によって色を無くした瞳に光を灯した。そして付いていた膝を持ち上げジンテツを見据える。
「・・・そうなのね。ならば、そうするわ…。」
「分かれば良い。」
ジンテツも納得する。
それを見ていたチェスターとヘルマンは小声で話し合っていた。
「(ジンテツ准将ってもしかして相当怖いのか?)」
「(そんなことも知らずに今まで軍人をやっていたのか・・・)」
「(舐めた口ききすぎたかも・・・)」
そう最後につぶやくと士官所には静寂が訪れた。それを契機に、それぞれが自分の場所へと帰っていく。
帰途につくジンテツは胸中で一つ毒づく。
「運がよいか、まったく逆だな。我々は死神に見初められたのだ。この戦争、最後まで生き残れるだろうか。」
遠く爆発音が響くロック砦を見ながら、踵を返した。
CTR一個師団の数は108機。大隊2つと中隊1つ分と思ってください。




