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7話 「束の間の準備期間」 後編

待たせすぎました。反省はしている。

 機械派によるロック砦攻略が始まってから一月が過ぎた。その間、絶え間なく攻勢が続いたが、魔法によって守られた城壁と、組織的に行われる散兵による襲撃によって攻め手を欠いていた。機械派の人間は半月もあれば石で出来た砦など落とせると豪語していたにも関わらずいまだ、ロック砦は健在であった。


 「おい、いつになったら帰れるんだよぉ!」


 「そうだぜ…あれは落とせるような場所ではないんじゃないか!」


 「落ち着け!上はあと少しで落ちると言っている。それまで耐えろ。」


 機械派の人間達はもしかすると、このまま砦を落とせずに無駄な命だけを落としていくのかと各部隊から不満があふれ始めていた。それを部隊の隊長達はその段階で止めている。もしも隊長達が上層部の意向に背いたのならば、たちまち軍が崩壊するか、内乱が起きかねないからだ。もしも、彼らがCTRのいない人間同士の戦場を知っていたのならば、たかが一月など砦を包囲し少ない犠牲で落とす作戦に掛かる時間としては早い方だと分かっただろう。


 現に少なからず犠牲は出ているが正面から攻略する作戦よりは比較にならないほど平穏無事だった。後続には各都市からの増援が送られ、前線の負傷者を交代させたり、破損したCTRの修理も満足にできるようになっていた。それに、錬度を高める目的で、後方勤務の兵士達もここに動員されている。そうやってロック砦の包囲網は確実に増強されていった。


 それでも心理的な問題は少なからず蓄積されていく。


 それに対して魔法派はと言うと、こちらは機械派以上に絶望しているというわけではなかったが、味方の増援もなく、度重なる攻撃によって多くの負傷者を抱え、心身共に疲れ果てていた。


 最初期の自走砲殲滅作戦以降この一月で魔法派は攻勢に出ていない。散発的な奇襲は試みているがその被害以上に敵は復旧しているため、実に一喜一憂している。しかし、精神的な被害は機械派の兵士達に与えているため、冒頭のような効果が現れている。


 一月の間、魔法派の人間達はほとんど砦に籠り防衛戦を行っていた。砦の表面上部をランスキーが一日の半分結界で覆ってくれたので、城壁に攻撃を仕掛けてくる敵だけを相手取るだけでよかった。


 しかし、一月の間にあったいくつかの事態により、この砦はほとんど機能していない状態にまで落ち込んでいた。


 まず、機械派の最初の大攻勢が自走砲撃滅から五日後に起きた。これに対して、魔法派も持てるだけの火力を以て、応戦した。二日に及ぶ大激戦の末、一度ランスキーの結界が敗れ、それを狙ったかのように補填された自走砲含む戦車群に各施設を砲撃され多大な被害が出た。幸いなことに魔力増幅器は破壊されなかったので1時間もすればランスキーが再び結界を展開させ、事なきことを得た。それでも、この大攻勢で打って出た戦士や魔法使い達の三分の一、およそ二千人程失ってしまった。


 次に、砦外部の城壁に設置されている攻城兵器であるバリスタや投射器、放射機がことごとく破壊されてしまった。これら攻城兵器は防衛戦では役に立たないがちだが、通常状態で放っても、機械派の戦車を一撃で破壊せしめる破壊力を持ち、魔力が付加されたのならば、CTRすらも一撃で仕留めることも出来た。それ故に機械派はこれを初期から重点的に攻略し、半月もたった頃には稼働数は両手で数えられるまでに減ってしまった。


 極めつけに、つい先日の空挺降下襲撃であった。これはまだ日が昇らぬ朝早い時刻に、闇夜を切り裂き六機の大型輸送機が砦目がけて降下してきたことが始まりだった。まだ、時刻は朝早く見張りの兵士達も気づくことが遅れた。この地点で魔法派は六機の航空機を爆撃機と認識していて、すぐさま警鐘を聞きつけたランスキーが結界を展開した。それにより爆撃は防げるだろうと誰もが思った。しかし、六機の航空機はあろうことかCTRの搭載を可能とした輸送機だったのだ。


CTRの発明は、地上戦の様相を変えただけでなく、航空技術の発展にもつながった。数機で戦場を左右しうるCTRを以下にして早く輸送するかを考えた時、航空機が手っ取り早かった。しかし、CTRを乗せれるだけのものなど当然存在しなかったため、戦争前から急ピッチで開発がすすめられた。そして開戦から1年と半年でついに実戦へと投入された。


 六機は砦の上空300mに差し掛かる前に降下姿勢から機首を上げ、水平姿勢となった。そして後部からハッチが開かれ、六機すべてから二つの塊が投げ出された。計十二個の塊は重力に従って砦に向かって降下して来た。その速度は速く、魔法使い達が迎撃を試みていたが当たることはなかった。たとえ当たっていたとしてもそれがCTRだと分かっていたのならば効かなかったことは理解できた。やがて十二個の塊は砦上部に展開している氷の結界へと激突した。ここで、本来ならこの塊は爆弾以外には有り得なく爆発するだけで結界は持つだろうと思われた。しかし、降下してきたのは全て重装甲仕様のCTRだった。それらは一機、二機、三機と結界へと激突していく。どれだけ魔力を込めようともCTRの質量に加え重力も加わった力を受け止める力は結界にはなく、やがて四機目には結界にひびが入り、五機目が激突すると結界は抵抗むなしく砕かれた。


 そして、砕かれた氷の結晶が月の明かりに反射して輝いている中残りの七機が降下時の勢いを保ち砦へと激突してくる。その勢いは凄まじく砦に激突するとその衝撃で壁が、住居が割られていく。そして暴風の砂塵がいくつも舞い上がった。降下してきた七機のCTRはその勢いにも関わらず再び立ち上がる。しかし、それに指を咥えて見ているだけの無能な兵士達ではなかった。すぐさま各場所で攻撃を開始し、CTRと交戦に入った。


 CTRはその装甲に身を任せて魔法使い達を両手の銃弾で蹴散らしていく。魔法使い達も数に任せて防御と攻撃を分担し確実にCTRを削っていった。一機に対して数十人と大人数で魔法使い達は群がり、寝起きや、別の場所からも応援が現れその戦力差は圧倒的となり、やがて全てのCTRは沈黙した。この砦に激突した七機に乗っていた搭乗者は、激突した地点でどれだけCTRの衝撃吸収能力が優れていてもかなりの衝撃を受けており一時的に気絶、或いは意識がもうろうとしていた。そのためCTRの機動性を発揮することなくこんなにあっさりと撃破されてしまったのだと思われる。


 結界に激突した五機のほうは砦に激突した七機と違いある程度の衝撃はあったものの皆無事だった。そして本作戦の第一目標である魔法派の重要拠点へと、機体の後部に取り付けてある推進器と脚部の噴射器をうまく利用しまるで空中を浮遊しているかのように向かう。彼らが向かっている場所はランスキーがいる場所であり、魔力増幅器がある場所だった。彼らは孤軍奮戦し、その身を犠牲にし魔力増幅器を二つとも壊し、自らの生還を考えない意気込みで戦った。そして、


 「これで…終わったな…がはっ!!」


 降下してきた部隊の隊長を務めた大尉はCTR内で満身創痍だった。既に機体は大破しており、コクピットも魔法で貫かれ腹部を失われていた。


 「なんでですか・・・この私が…死ぬ、の…か…」


 それに対してランスキーもまた石畳の上で血の華を咲かせている。幸いなことに銃弾は急所に当たっていなかったためすぐに駆けつけてくる砦の人間達が治療を施せば助かるぐらいには傷は浅かった。しかし、CTRの搭乗者である大尉はそれを許さなかった。


 「そうだ…ここで、死ね。」


 そう言って大尉はまだ生きている機械を操作し、とある装置を起こさせる。そしてそれを、血だらけの口角をあげてから迷いなく起動させた。


 「あ…光、が・・・」


 瞬間、大尉のCTRが爆発を引き起こし、周囲の建物と共にランスキーをも飲み込んだ。救援に駆け付けた魔法使い達もランスキーが気になった二つ名持ちもその光景を唖然と見ていた。やがて砂塵が落ち、煙が晴れるとそこには焼け焦げた黒の空間しかなかった。


 そうして砦の要であった盾を失い、ロック砦は陥落の一歩手前まで来ていた。





 ロック砦内部 作戦会議場


 「ここで最後の一兵まで戦うべきだ!我々が時間を稼いでいる間に本国が体制を立て直してくれるのを待つ。そうすればいずれ増援が来るはずだ!」


 「なにを言うか!既に増援は当てにできん。一刻も早くここから脱出しなければみんな死ぬぞ!」


 「だからその死を無駄にしないために全員がここを守るのだ!ここを出れば少なからず犠牲が出るだろう!」」


 二人の軍人の言い争いに役人らしき人間が割り込む。


 「まて、生きるべき人間が死ぬのは納得できない。我々には国民を守る義務がある。そのためには生き延びなければならない。」


 「貴様っ!我々魔法使いに存在意義を捨てさせようというのか!!魔法を守るためには戦うしかないのだぞ!」


 「そうではない。生き残って態勢を立て直してから魔法を守ろうと言っているのだ。」


 今ここには、生き残っている魔法派の中で指揮官の立場にいる人達が集まり、砦を脱出するか徹底抗戦するかをお互い議論している。しかし、徹底抗戦を主張している人達の多くは昔ながらの原理主義者であり、一方で脱出を主張している人も自らの権益を優先第一としている自己中心者だった。脱出を主張している人々は欲を見せずに民を守ろうとしていると巧妙に論しているのだ。それをここにいる二つの主張を選べない多くの人間には分かっていた。しかし脱出を望んでいる兵士たちは多くいるため仕方なく脱出を主張している方についている状態であった。


中心で議論が交わされている中グレンとランスロットは自らの席で話し合っている。


 「なんで脱出か徹底抗戦するかの議論で主義やら理想やら義務なんて言葉が出てくるんだ?」


 「そんなもの決まっている。一番人を信じさせられるからだ。」


 「一番死にやすい言動でも上は知らんぷりかよ。」


 「でなければ民は動かせん。今は戦争をしているのだ、致し方ない。」


 「俺は納得できない。一人で生きてきた身としてはな。」


 「行くのか?」


 「ああ。結局は英雄が動けばみんなついてくるんだろ。」


 ランスロットに向けていた気を中心で議論している両者に向ける。


 「俺はここで死ぬ気はない。だからここを出る。」


 議論を止めたのは何気ないけれどもはっきりとした発言だった。議論を交わしていた人々は言葉を止め、声のした方を見た。なぜなら、言ったのは原理主義者の先鋒と言われている二つ名持ちであるグレンだったのだから。


 「貴様っ!裏切るというのか!!」


 先ほど徹底抗戦を主張していた軍人が即座に大声で言う。味方だと思っていたので憤りも大きい。それをグレンははっきりと言い返す。


 「裏切りとは思わないな!!俺はもともと強者と戦うためだけにここにいる。魔法を守るのは俺の強さの証だからだ。国を守るためではない!そこを勘違いをしてもらっては困るな。」


 「ぐっ…」


 声を荒げていた軍人は歯噛みして押し黙った。それを見ていた貴族と思われる人間が笑みを浮かべる。


 「では、我々を支援していただ…」

 

 「お前たちもだ、ばかが。」


 「なっ…!?今、そちらとは決別をしたではないですか!」


 思わぬ言葉に貴族の人間もたじろぐ。


 「俺はあくまで自分の道を選んだだけだ。お前たちとともに行く気はない。」


 「じゃあ、どうするのですか。外は敵だらけですよ。一人で行く気ですか。」


 「そのつもりだ。所詮お前たちはお荷物だ。自分の身を自分で守れない奴なんかと一緒に行けるかよ!!」


 そう言ってグレンは会議場を出ていく。グレンが出て行った後の場は短い静寂が支配した。それを計ったようにランスロットが最初に破る。


 「二つ名持ちは全員が脱出をすることを決めている!!そして避難民達の脱出を支援するための部隊を編成する関係で、人を集めている。ついてくる奴だけついて来い。」


 そう言って踵を返し、グレンの後を追う。この場には二つ名持ちは二人しかいない。ディランドは負傷の傷が癒えていなく、ランスキーは名誉の戦死を遂げた。フルルースクとジャクマは砦の防衛に駆り出されている。そのため、実質今この会議場ではランスロットがもっとも軍事的判断に優れている人間と多くの参加者が思っていた。そしてランスロットの大義名分は極めて分かりやすかった。だから、


 ガチャ 「俺は行くか。」


 ガチャ 「俺もだ。」


 ガチャ 「私も抜けさせてもらう。」


 ガチャ「考えてみれば単純だったな。」


 ぞろぞろと会議場を後にしていくのは脱出を支持していた人やどちらとも選べなかった人達だった。彼らは自らが生きるためでなく他者を生かそうとしていたのだ。後に残された人々は苦虫を噛み潰したように静まっていた。





 「…なあ、ジャクマ。」


 「なんだ、フルスク。作業に集中しろ。」


 「くっ・・・あんたはランスキーが死んだのに平然と出来ていいもんだな!」


 「そうか。俺は奴と特別どうとかしていたわけではない。死んだのは仕方ない。」


 「そうかよ!」


 そう言ってフルルースクは作業に戻る。ジャクマは相も変わらずに淡々と作業をこなしていく。今、砦はランスキーによる結界がなくなったため日中砲弾が落ちてくる。それを魔法使い達が出来る限り対処し、被害を減らしていた。しかし、魔力増幅器が破壊され、人手も足りない中、貴重な二つ名持ちも借り出されていた。


 そんななかフルルースクは憤っていた。普段の道化を演じている仮面を殴り捨てるほどに口調が変わっている。


 ディランドが死に掛けたときはモヤモヤした気持ちがあったが、こんな怒りが出てくることはなかった。だが、ランスキーが死んだ時からはなぜか憤慨をしてしいた。機械派が憎いと。しかし、ジャクマはなんとも思わなかった。ただ前より言葉数が減っていてより冷淡になっていた。グレンとランスロットはいつもどおりに振舞っていた。それが素なのか作り物なのかは道化であるフルスクにも分からなかった。だがひとつだけ彼は理解していることがあった。


 「(俺はなんでこんなに悲しいんだよっ!!友を失う気持ちはもういやだっていうのに・・・)」

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